日本の製造業におけるものづくりの生産性や品質などを支えている「カイゼン」は、海外でも「Kaizen」として広く知られ、多くの企業に取り入れられています。ひと言に「カイゼン」といっても5Sの徹底から、安全性や品質向上、リードタイム短縮などさまざまですが、とりわけ、製造業では生産性のムダをなくし、業務効率を改善させることは大きな課題となっています。生産性を高めるため、生産現場における「人」、「機械」、「もの」の中から、ムダ取りに最も効果が高いとされる「人」の動きに着目し、動作解析ソフト「OTRS」を活用することで、数億円のコスト削減と売上向上につなげた半谷製作所(愛知県)の取り組みを紹介します。
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◉この記事はこんな方におススメ
- 製造現場の生産性を向上させたい
- 製造工程の工数を減らしたい
- 動作分析を取り入れ、作業・動作のムダを“見える化”(可視化)したい
- 技術伝承や教育(指導)を効率よく進めたい
◉この記事から分かること
- 動作分析を行い、ムダ取りを実施することで工数やコスト削減が可能となり、売上向上につながる
【目次】
1. 日頃の改善活動が経営危機救う~外注作業を内製化
2. 動作分析でムダ取りの効果を“見える化”
3. 動作分析で標準作業との差異に気づくことが大事
4. 経営効果は数億円、改善活動の継続が重要
半谷製作所は1936(昭和36)年、愛知県名古屋市に前身となる自転車部品製造会社を創業。現在は大府市に本社を構え、金属プレスの分野で難加工材とよばれる、ハイテン材や極薄アルミ板のプレス加工において、最先端技術を起点に社内一貫生産体制を構築。顧客のあらゆるニーズに応える「提案型企業」として事業展開しています。同社が自社の改善活動に動作分析ソフト「OTRS」を取り入れ、作業・動作のムダ取りを行なった結果、改善活動の“見える化”を実現し、活動全体を通じ数億円のコスト削減と売上向上につなげた事例を紹介します。
1. 日頃の改善活動が経営危機救う~外注作業を内製化
同社は創業以来、自動車の足廻りや冷熱部品ほか、車体部品などの自動車関連部品製造を手掛け、国内は本社工場と衣浦工場、海外は中国工場(湖南省)で設計開発はじめ、難加工材のプレス、溶接、組立、機械加工、塗装までを自社工場で行うことで、品質向上にも努めています。
同社では「前もって工場内に空きスペース(受注可能な人員、設備領域)を作る」といった受注スタイルをとっています。これは生産に必要な人員と場所をあらかじめ確保することで受注を確実にし、さらに短納期で製品を作り上げることを目的としていますが、限られた資源で新たな生産ラインを作るためには、既存ラインの効率化とムダ取りが必要不可欠となってきます。2008年のリーマンショック時はいくつかの外注先工場が操業停止となる中、同社工場内の空きスペースと人員を活用することで、外注作業を内製化。危機管理に対する日頃からの「改善活動」が功を奏し、取引先からの厚い信頼を得たと同時に、自社の危機を回避することにも成功しました。
2. 動作分析でムダ取りの効果を“見える化”
実はこれら改善活動には、製造工程の工数削減を実現するため導入した、動作分析ソフトOTRSが重要な役割を果たしていたのです。同ソフトは映像で動作・時間分析などが行える機能を持ち、生産・製造現場で動作分析や作業編成シミュレーションを取り入れ、作業時間短縮や省力化、コスト削減を目指すといった特徴があります。
同社では以前から作業に関する“ムダ取り”について取り組みを行っていましたが、同ソフトを取り入れたことでその効果が“見える化”でき、製造工程の作業分析による工数削減などの改善目標を達成することができました。
ソフト導入の経緯は、同社取引先の自動車メーカーから勧められたことがきっかけ。従来から「作業計測だけでなく、その後の分析・検証が大切」と考え、ビデオによる改善活動を行っていた同社では、動画に動作要素を加え動作分析を行う事ができるOTRSの機能は、新鮮かつ驚きがあったようです。その後、2週間程度で導入が決定し、現在では改善活動に欠かせないツールとなっています。
そんな同ソフトの動作分析に備わる「動作比較機能」を使用した際の特徴的な効果について同社では「(作業)改善活動会議の中で、ムダ取りについて話し合う際、作業比較機能を使っていますが、まさに『百聞は一見にしかず』です。作業員各自が効率の良いとされる作業例と自身を比べ、自主的な気づきを得ています。さらに良い意味でのライバル心や向上心が生まれ、結果として工数の削減が現れていることに加え、継続した自主改善体制の構築にもつながっています」と話してくれました。
【写真説明】動作比較機能を使い、作業時のムダを見つける(写真はイメージ)
3. 動作分析で標準作業との差異に気づくことが大事
同社でこれら動作分析システム使い、製造工程内の作業分析と動作最適シミュレーションを取り入れ、徹底した工数削減を行った結果、1年間で31人の省人化と人件費15%の削減に成功しました。また前述した外注作業の内製化では、設備有効稼働データの徹底解析結果に基づき、主要製造ラインの寄せ止め(集約化)と非効率設備の廃却を実施。工場内に大幅な空きスペースを設け、製造ラインを内製化することで変動費(外注加工費)50%の削減も実現したのです。
顧客ニーズに応え、高難易度の仕様にも対応できる提案型企業として、製造だけでなく試験・研究にも力を入れ「開発・設計―プレス―溶接―塗装―組立」までの一貫生産体制を敷いている同社ですが、最も重要なのは「人材」であって、重要な経営戦略の一つに「人つくり(人財育成)」を掲げ、力を入れているといいます。これについて「品質も効率もカギとなるのは人の動きです。特に自動車関連の部品生産はマシンタイムが決まっているため、工数削減の実現には人がカギとなってくるのです」といい、特に「『手さばき・足さばき』には改善要素が多くあり、その改善は生産効率向上に寄与するだけでなく、作業員の安全にもつながります」と話してくれました。そして「何よりも作業者自身が標準動作と比較することで、差異に気づくことが大切」と考え、そういった「気づき」の観点からみても動作分析ソフトの活用は有用だったそうです。また、同社ではこれら改善活動と合わせ、活動のフィードバックや社外との打ち合わせにも同ソフトを活用しています。
【写真説明】動作のムダを「見える化」し、日々の現場作業に採り入れる(半谷製作所大府工場)
【写真説明】作業者前方の機械や青いボード(写真右側)に貼られた指示書などはOTRSから出力した(同)
4. 経営効果は数億円、改善活動の継続が重要
同社でもOTRS導入による改善活動の見える化について手応えを感じている様子で「活動の効果が従業員の励みになること以上に、検証結果は自社にとっての貴重なノウハウになります。弊社のような汎用ラインは、短期間で製造物に合わせた最適なライン構築を行う事が求められますが、その際にも改善事例や検証結果は非常に役立ちました。ソフトを使った動作分析は作業員にも分かりやすい上、指導する側の工場長にも好評です。弊社が様々な改善活動に取り組んだ結果、改善が認められた経営効果は数億円ですが、その中でもOTRSは十分なコストパフォーマンスを発揮してくれました」と評価しています。
今後について同社は「OTRSはコスト削減の効果(ムダ取り)と営業効果(自社活動のプレゼンテーション)を合わせた効果があると考えますが、何より大切なのは“使い続ける”こと。『ソフトを使う⇒動作分析を行う⇒ムダ取りを実感⇒工数の削減』するといった流れを社内に定着させたい」と語ってくれました。