ものづくりを現場視点で理解する「ものづくりの現場から」では現場の課題をはじめ、課題解消に向けた様々な取り組みを取材し、ものづくりの発展に役立つ情報をお届けしています。前回は、堀田カーペット株式会社の顧客志向の生産を支える現場の取り組みについてお話しましたが、今回は同社の動作解析を使い、課題解決に取り組んだ事例をご紹介します。
動作解析の導入で現場の作業教育が変わる
◉この記事で分かること
・動作解析を使い、課題解決に取り組んだ事例
作業効率化の第一歩・全作業者に必要な基本動作を現地現物で調査
現場作業者は数えきれない技を持っています。そこで今回は、全作業者にとって必要となる基本的作業の中から、糸の結束について検証しました。
対象としたのは「機(はた)結び」。結び目が小さく、糸と糸をつなぐ際に用いられる業界ではポピュラーな結び方ですが、織機の稼働という点においては非常に重要な技術です。織機に送られる糸の結束が外れることは、糸が切れたことと同じ状態であり、製品の不具合に直結することから織機の停止につながります。とはいえ「そんな難しいもんじゃないですよ(笑)なれればすぐできます」(作業者)と話されていたこの機結び。社長や執行役員と一緒に現場を見ていると気づく事がありました。それは「人によって姿勢が違う」という事です。どの姿勢が間違っているというものではなく、姿勢が違うという事実はそれぞれの作業者が思い描く正しい動作が異なる事が想像できます。そこで動作撮影を行い、調査を進めることにしました。
スマホの動画撮影から見えてきたこと
現場で撮影したのは「機結び」動作と「コマ糸巻機への材料セット」の2つ。「機結び」は糸を結ぶ手元を「材料セット」は機械と人が入るように撮影しました
【写真説明】材料セットの様子。糸の巻取りが止まらないよう効率よく作業されています
【写真説明】機結びの様子。ものの数秒で糸が結ばれてゆきます
機結びは、ものの数秒の動作であっという間に糸が結ばれます。また材料セットも慣れた手つきで流れるように作業が進みます。この動作を見て覚えることを考えると、繰り返し何回も現場で見る必要があることがうかがえます。
スマホで動画を撮影したことで繰り返し、何回も見るという事が手軽に行えるほか、複数人で一つの動作を見る事も可能なことから、新任者の教育にも計画的に活用できる可能性がみえてきました。
動作解析ソフトを導入・熟練の動きを分割し、ノウハウを共有する
短時間の作業動作や流れるような作業動作は熟練者の特徴です。これらの熟練動作は長年の経験蓄積により生まれていることから「なぜそう動くのか?」、「どうやればよいのか?」という質問に対して時に回答できないこともあります。そこでこれら一連の動作を要素(作業ステップ)に分けて理解することができないか考え、撮影した動画を分割しました(分割には6000以上の現場で使用されている動作分析ソフトOTRS10・ブロードリーフ社製を使用)。
【写真説明】はた結びの動画を要素に分割
作業動作の時間は5.8秒、作業要素は6つでした。このように作業を要素に分割することで具体的な動作自体の理解や前後動作の関係の理解につながります。要素に対して熟練者からヒアリングしたカンやコツなどのノウハウのほか、作業安全上の留意点などを追加することで、手順化が進むことも作業の理解につながります。
また、異なる熟練者同士や、複数回の作業の比較を行うことで難度の高い要素や作業カイゼンにつながる物の配置、作業位置を明確にすることもできます。
【写真説明】機械セットの動画を比較(同一作業者の複数サイクル)
動作解析システムが変えてゆく、ものづくりの現場
人が支えるものづくりの現場では、課題解決に当たる担当者が現場教育や技の伝承も行います。また、多くの現場で、動画解析を利用することで課題の解消に役立つのではないかと考えられています。それは大企業に限らず、中小企業者や小規模事業者も含めた幅広い現場が対象であり、もちろん堀田カーペットも例外ではありません。「自分の動作をスマホで撮影して見直すこともありますよ」と話してくれた補修場の熟練者が働く現場で、動画解析の積極的な導入は、確実に作業教育を変革していることが実感できました。
【写真説明】補修場の様子。熟練者が手作...