「誰一人残さない」…社員のニーズや得手不得手を把握、自社を活性化
1.多様性(ダイバーシティ)受け入れ、共生型の町工場に
SDGs(持続可能な開発目標)やESG[1]といった言葉が知られる以前から社会的課題などを捉え、独自に活動を続けてきた日本企業ですが、今回は多様な人材を生かすダイバーシティ経営やIT化に取り組む有限会社川田製作所(神奈川県小田原市・川田俊介社長)を紹介します。
同社の創業は1969(昭和44)年。同市内で板金加工やプレス加工といった金属プレス製品の製造を始めました。また1986(同61年)年には金型部門を設立し、金型製作事業を開始しています。元々、大手電機機器メーカーにシステムエンジニアとして従事していた川田社長が2010(平成22)年に同製作所に入社し2019年(令和元年)、社長に就任しています。
【写真説明】同社プレス製品の数々(同社提供)
同社では下記のように「4つのチャレンジ」を掲げ日々、目標達成に向けた取り組みが行われています。
- 「次の時代のモノづくりを目指す」…設計段階での3次元化やロボット化など、新しい技術を積極的に取り入れる。
- 「IT(情報技術)を徹底的に活用する」…クラウド化による情報共有やドキュメントを電子化し保管する。
- 「良い雇用の場を作る」…中小企業の役割の一つとして、地域の雇用を支え、さらに良い雇用の創出を目指す。
- 「町工場はもっと地域に貢献できる」…モノづくりの技術(町工場の技術)による地域貢献をテーマに活動する。
これら目標の中で、同社が最も力を入れている目標「良い雇用の場を作る」では「共生型の町工場~多様性(ダイバーシティ)を受け入れ、これを力とする」をテーマに高齢者や障がい者、外国人、女性社員らが活躍できるダイバーシティ経営[2]に取り組んでいます。
【図説明】同社が最も力を入れるダイバーシティ経営(同)
2. 得手不得手を把握し、活躍の場を創出~インクルージョンの実現
特に障がい者雇用では「苦手なことを理解する」、「得意なことを理解する」事を重要視した仕事分配が行われています。
たとえば知的障害を持ち、数を数えることが苦手な従業員に対しては、外観検査の際「打こん」や「変形」などの不良品を数えるため、人数カウンター(数取器)を現場に設け、“ボタンを押す” 事で員数の必要性を省き、課題を解決しています。一方、発達障害を持つ従業員のケースでは、コミュニケーションは苦手だがパソコン(PC)操作が得意という点に着目し、PC業務のほとんどを任せ「大活躍してもらっている」(川田社長)など、従業員個々の能力や得手不得手を把握し活躍の場を創出しています。
【写真説明】数を数えることが苦手な従業員に対して設けられた人数カウンター㊧とパソコン操作が得意な従業員は専任とするなど業務を分配(同)
川田社長が入社した当時、同社の従業員構成は全14人中、65歳以上の従業員が6人、55歳~65歳が4人、障がい者2人と高齢化が進んでいたそうですが、次世代につなげるための雇用創出に努めた結果、現在では全従業員18人に対し、65歳以上は5人と微減ながら障がい者従業員は6人、外国籍従業員3人、65歳未満4人と改善が進み、2018(同30)年には「新ダイバーシティ経営企業100選」(経済産業省)に選定されています。川田社長も「現在、若者も6人に増えたが、障がい者雇用を積極的に行ってきた結果ではなく、当社で活躍できる人を採用してきたことが今につながってきている。一方で、障がい者従業員の定着率の高さ(離職率の低さ)も背景にあるのでは」とみています。
【図説明】同社従業員数の推移(同)
3.クラウド化で大幅なペーパーレスと業務の効率化を実現
クラウド化の推進では、職場における労務や生産管理、各部署の文書管理まで徹底した取り組みが行われています。たとえばプロセス管理の内、品質マニュアルでは不具合の影響から生産プロセスの変更を行う際も、ブラウザ上で編集・更新と共有化が行われています。また、生産管理システムでは受注登録はじめ、製造指示書の発行などもクラウド上で行えるほか、従業員がスマートフォンから日報(生産実績など)を登録することで、記録が製造実績に反映される仕組みがとられています。この情報は生産性分析にも利用され結果は月1回、従業員にフィードバックしながらコミュニケーションと改善活動に役立てています。なかでも、文書管理では100冊以上あったファイルボックスが数冊にまで削減できたそうです。川田社長も「2年前のISO9001(品質マネジメントシステム)取得を機に、社内プロセスもしっかり整備され、現在では全従業員がPDCAの意味についても理解できている」といいます。
4.一つの町工場から「SDGsに取り組む企業」へ
2018年まではSDGs活動自体を意識していなかった同社ですが、知ったきっかけは1本の取材依頼の電話だったそうです。電話のなかで同社の活動がSDGsに準ずる内容であることを知らされ「2030年のゴール(目標)の中に自分たちが目指す姿とベクトルが一致するものがあり、これまで進めてきた取り組みがSDGsの中に謳(うた)われていることを再確認するきっかけとなった」といいます。
2019(平成31・令和元)年には、神奈川県中小企業団体中央会主催のセミナーで同社の取り組みについ...