年間を通じ、安定した温度を保つ地中熱エネルギーを取り出し、冷暖房や給湯などに利用することが可能な再生可能エネルギーの一つとして近年、注目を集めている地中熱利用システム。今回は創業以来、50年以上に渡り「地球環境との共存」をテーマに温泉・地下水開発や地中熱利用システム事業を進める株式会社ハギ・ボー(代表取締役 萩原 利男氏)を紹介します。
1. 事業活動とSDGsを紐付け、行動目標作成
株式会社ハギ・ボー(旧・株式会社萩原ボーリング)の創業は1961(昭和36)年。水井戸や温泉井戸のボーリング工事を主体に始まり、経営方針の「地球環境との共存」を下に、温泉・地下水開発をはじめ、地質調査や地中熱利用システムの設計から工事まで、水と大地を見つめ、後世に伝えることを義務とし、確かな技術とサービスを地域社会に提供。事業拡大を図っています。
【写真説明】温泉地下水開発工事のようす。掘削櫓(左)と掘削状況(同社提供)
SDGsという言葉が認知される前から同社では水門・土壌汚染調査や地中熱を利用したヒートポンプシステムの施工など、環境保全に関わる事業を行っています。2018(平成30)年には「誰一人取り残さない社会の実現」に向けた取り組みを開始。昨年は社内にSDGs委員会を発足しています。同会は地域社会への貢献と環境への配慮などを目的に、具体的取り組みを企画・提案する組織として、各事業部署から選ばれた12人で構成されています。
活動はSDGs (持続可能な開発目標)17のゴールと自社の取り組みを活かした行動目標を照らし合わせ、実施に向けた試案の展開とその過程の検証などを行っています。これまで、紙使用量の削減や人材活躍の場の提供などが進められたほか、直近では電気代高騰を受け、節電に取り組んでいます。また、今年2月には地中熱事業の理解を深めてもらおうと「YAMANASHI SDGs FORUM 2023」に出展。来場者からも「テーマ(目標7:エネルギーをみんなにそしてクリーンに)に沿った取り組み」との評価を受けました。
2.「エネルギー削減と脱炭素化」に繋がるシステムとして注目
同社が地中熱利用事業の取り組みを始めて12年ほどとなります。他業種への展開を模索する中、手持ちのボーリング資材や機材、人材を使った地中熱利用事業に舵を取り、当時は施工のみが行われていましたが現在は、企画・提案・設計協力から管理まで幅広いサポートが行われています。
地中熱とは地下10メートルより深い、比較的浅い部分の熱を利用することで、地上の気温変化に関係なく、年間を通じてほぼ一定な温度を保つ熱エネルギーです。地中熱利用システムは、この土中の「夏は温度が低く、冬は暖かい」といった温度特性を利用。地中温度と外気温の温度差を、ヒートポンプを使い、夏季はヒートポンプの放熱源、冬季は採熱源として利用することで、冷暖房や給湯などに効率的なエネルギーとして使うことが可能となります。さらに、空調時のエネルギー対比で30%前後の削減が、給湯時に使用される化石燃料代も約半分の費用で済むなど「エネルギー削減と脱炭素化」に繋(つな)がるシステムとして注目を集めています。
【写真説明】地中熱利用システム(同社提供)
3.SDGsと絡めた、再生利用可能エネルギーの活用法を提供
現在、地中熱ヒートポンプシステムの導入は、主に市町村庁舎や病院の空調をはじめ、給食センターの給湯用など、官公庁施設を中心に進んでいます。例えば昨今、給食センターは周辺小中学校の給食を全て電力で賄(まかな)うオール電化施設となっていますが、食材や食器の洗浄などに使われる大量のお湯を確保するために必要な電力量を抑えるため、同社では電気のピークシフトを行い、夜間にお湯を沸かすことで電気代の削減とランニングコスト低減に配慮した提案を行っています。
このほか、甲斐市立竜王東保育園では、比較的使用時間が長い乳幼児室やほふく室の空調用として地中熱ヒートポンプシステムを設けています。背景には、早朝保育に対応するため、外気温度が零度を下回る状況下でも空気式ヒートポンプと異なり、霜取り運転[1]を行うことなく安定的な稼働が見込めるといったメリットがあります。消費電力量も従来の空気式ヒートポンプと比較すると3年で32.4%の削減(-1,764kWh)に繋がっています。
一方、大月市立中央病院では、待合室や救急処置室、経過観察・点滴室といった原則24時間稼働のエリア(約650㎡)を対象に地中熱ヒートポンプシステムを設置。待合室については運転表示を設け、見える化することで、地中熱利用の普及促進にも努めています。消費電力量は約2年で43.1%を削減(-24,823kWh)。同社も「地質や気温など、社有のバックデータを検証しながら、その土地のユーザーに合ったサービスを提供していきたい」と話します。
【写真説明】...