【SDGs取組み事例】“もったいない”から始まる事業を通じた地域貢献 「おつけもの慶」(神奈川県川崎市)

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おつけもの慶で販売されているキムチの数々

川崎市で青果卸・販売ほか、キムチ・漬物の製造販売を行う「おつけもの慶」(運営・有限会社グリーンフーズあつみ・渥美和幸代表取締役社長)では「安心・安全」な製品を提供する一方、ジェンダー平等や脱プラ推進といった環境保護活動などにも力を入れています。昨年、同市主催の「かわさきSDGs大賞2022」で大賞を受賞した同社独自の取り組みを紹介します。

【目次】

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    1.慶キムチとして親しまれ、今年20周年

    今年、20周年を迎えた「おつけもの慶」ですが元々、川崎コリアンタウンで青果の卸売業としてグリーンフーズあつみを経営していた渥美社長が、キムチづくり歴40年の職人・城野勝さんに声を掛けたことをきっかけに開業。おつけもの慶の「慶」は、城野さんが同地区で努めていた焼肉店「慶北苑」が廃業する際に店名から受け継いだものです。
    同社のあるコリアンタウンは戦中戦後に、朝鮮半島から移り住んだ人々が居住していた多文化共生地域として知られ、渥美社長も幼少期から焼肉やキムチを食べる文化に慣れ親しんだ町です。当時は多くの焼肉店やキムチ販売店(個人店)が軒を連ねたそうですが現在、キムチの製造・販売は同社を含め数社となってしまっています。
    たった一坪の店舗で始まったおつけもの慶ですが、日本人好みの「甘さとコクと辛さ」が口コミで広がると評判が評判を呼び、メディアに取り上げられる機会も増加。その味の秘訣はリンゴやモモ、イカの塩辛のほか、何種類ものトウガラシを使ったうま味の調合です。現在は川崎市内に5店舗を構えるほか、東京・神奈川29店舗のスーパーマーケットや羽田空港内のお店でも取り扱われるなど、今では長蛇の列ができるキムチ専門店に成長。2019年からは、キムチとして初めて「かながわの名産100選」にも選ばれ、「慶キムチ」として地元で愛され続けています。

    「慶の白菜キムチ」(左)と渥美社長考案で人気No1の「元祖!おなかいっぱいイカキムチ」※Web通販限定

    写真説明】「慶の白菜キムチ」(左)と渥美社長考案で人気No1の「元祖!おなかいっぱいイカキムチ」※Web通販限定(同社提供)

    おつけもの慶の従業員(左)と大島上町店に続く長蛇の列

    写真説明】おつけもの慶の従業員(左)と大島上町店に続く長蛇の列(同社提供)

    2.平等な雇用対策や循環型社会に向け、地域と連携

    創業当時より、キムチづくりの過程で発生する白菜やダイコンなどの端材を横浜市立野毛山動物園に飼料として寄付して以降、20年にわたり同社の食を通じた地域貢献活動は続いています。ただ、企業規模が大きくなると需要と供給の問題など、様々な課題が発生してきたことから、いろいろな取り組みが行われました。

    人材の確保

    工場の拡張や商品の増産に伴う人員確保の面では日本人をはじめ、韓国、中国、フィリピン国籍の従業員(外国籍は7人)を雇用。企業の持続性を高めるため、国籍や性別、年齢を問わない平等な雇用対策が行われています。

    ②容器の見直し

    使用する包材や備品の増加に伴い、使い捨てプラ容器使用の見直しを進め、再生可能な植物原料由来の包材(PP袋)に転換しています。また、市内高津区の町工場など25社からなる「タカツクラフト」と連携し、繰り返しの使用が可能なステンレス製の器「K-Pot(ケーポット)」の販売を開始。「鍋(容器)を持って豆腐を買いに行く」といった、昔ながらの買い方と現代のものづくり技術を組み合わせた、地産地消を実現しています。このほかタカツクラフトとは、安全な食の安定供給と生産性向上を目的とした、設備導入の検討も進められています。

    タカツクラフトとの連携で生まれたステンレス製の器「K-Pot(ケーポット)」

    写真説明】タカツクラフトとの連携で生まれたステンレス製の器「K-Pot(ケーポット)」(同社提供)

    ③事業を通じた地域貢献活動

    地元6カ所の障害者・就労支援センターからの協力を得て、包材の下準備作業を委託しています。また、コリアンタウンのキムチ文化を伝えようと、ワークショップや工場見学のほか、地元高校生のインターンシップの受け入れも積極的に行われるなど、若い世代に対する地元企業の認知向上と市内企業への就労機会の創出を目的とした取り組みが進められています。このような事業を通じた社会貢献は同社の理念でもあります。

    左から、包材の下準備作業、ワークショップ、インターンシップの様子

    写真説明】左から、包材の下準備作業、ワークショップ、インターンシップの様子(同社提供)

    ④食品ロス削減に熟練職人の経験生かす

    製品づくりのほとんどを手作業で進めている同社ですが、野菜ひとつをとっても形から葉の厚さまで異なることから、必要最低限のロスで済ませられるよう、熟練職人の手と目を生かした見極めが行われています。また、各店舗と工場の間との連携により、1日に発注する販売量や生産数の調整を行うなど食品ロスの削減にも努めているため、賞味期限切れや在庫ロスとなることはほとんどないそうです。さらに、衛生面においても食中毒やアレルギー対策など、HACCP[1]方式に沿った独自の衛生管理が進められているほか、現在、タカツクラフトと共同で原料の残留物などを残さないことを目的とした使用器具の試作が行われています。


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    3.地域産業の持続的発展目指し、自治体と官民連携

    今年、20周年を迎えた同社ですが、11月17日から4日間、川崎駅東口地下街「川崎アゼリア」で開かれた「かわさき代表ブランド20周年 × 「かわさき・かながわ」SDGsローカルイベント」を開催しました。これは「川崎ものづくりブランド」[2]20周年との合同イベントで期間中は、川崎の認定職人「かわさきマイスター」の紹介や神奈川県・川崎市内の食料品をはじめ、レストランや農産物、醸造所といった事業者が参加したほか、おつけもの慶の抽選会、地元画材メーカーによるお絵かきフォーラム、川崎市立川崎高校生活科学科の2年生が考案したキムチコンテストなど様々な催しが行われ、大盛況のうちに終了しました。
    キムチコンテストは、以前からインターンシップの窓口となっていた同市教育委員会に声掛けを行い実現。32人が8グループに別れ、7月から考案したオリジナルキムチで腕を競い、選ばれた3品が12月から商品化されるというものです。

    写真説明】キムチコンテストの様子(左)とキムチを買い求める来場者たち(同社提供)


    テーマは自由ですが、材料の原価計算から販売価格に対する収益にいたるまで、両者の間で話し合いがさ...

    おつけもの慶で販売されているキムチの数々

    川崎市で青果卸・販売ほか、キムチ・漬物の製造販売を行う「おつけもの慶」(運営・有限会社グリーンフーズあつみ・渥美和幸代表取締役社長)では「安心・安全」な製品を提供する一方、ジェンダー平等や脱プラ推進といった環境保護活動などにも力を入れています。昨年、同市主催の「かわさきSDGs大賞2022」で大賞を受賞した同社独自の取り組みを紹介します。

    【目次】

      国内製造業のSDGs取り組み事例一覧へ戻る

      1.慶キムチとして親しまれ、今年20周年

      今年、20周年を迎えた「おつけもの慶」ですが元々、川崎コリアンタウンで青果の卸売業としてグリーンフーズあつみを経営していた渥美社長が、キムチづくり歴40年の職人・城野勝さんに声を掛けたことをきっかけに開業。おつけもの慶の「慶」は、城野さんが同地区で努めていた焼肉店「慶北苑」が廃業する際に店名から受け継いだものです。
      同社のあるコリアンタウンは戦中戦後に、朝鮮半島から移り住んだ人々が居住していた多文化共生地域として知られ、渥美社長も幼少期から焼肉やキムチを食べる文化に慣れ親しんだ町です。当時は多くの焼肉店やキムチ販売店(個人店)が軒を連ねたそうですが現在、キムチの製造・販売は同社を含め数社となってしまっています。
      たった一坪の店舗で始まったおつけもの慶ですが、日本人好みの「甘さとコクと辛さ」が口コミで広がると評判が評判を呼び、メディアに取り上げられる機会も増加。その味の秘訣はリンゴやモモ、イカの塩辛のほか、何種類ものトウガラシを使ったうま味の調合です。現在は川崎市内に5店舗を構えるほか、東京・神奈川29店舗のスーパーマーケットや羽田空港内のお店でも取り扱われるなど、今では長蛇の列ができるキムチ専門店に成長。2019年からは、キムチとして初めて「かながわの名産100選」にも選ばれ、「慶キムチ」として地元で愛され続けています。

      「慶の白菜キムチ」(左)と渥美社長考案で人気No1の「元祖!おなかいっぱいイカキムチ」※Web通販限定

      写真説明】「慶の白菜キムチ」(左)と渥美社長考案で人気No1の「元祖!おなかいっぱいイカキムチ」※Web通販限定(同社提供)

      おつけもの慶の従業員(左)と大島上町店に続く長蛇の列

      写真説明】おつけもの慶の従業員(左)と大島上町店に続く長蛇の列(同社提供)

      2.平等な雇用対策や循環型社会に向け、地域と連携

      創業当時より、キムチづくりの過程で発生する白菜やダイコンなどの端材を横浜市立野毛山動物園に飼料として寄付して以降、20年にわたり同社の食を通じた地域貢献活動は続いています。ただ、企業規模が大きくなると需要と供給の問題など、様々な課題が発生してきたことから、いろいろな取り組みが行われました。

      人材の確保

      工場の拡張や商品の増産に伴う人員確保の面では日本人をはじめ、韓国、中国、フィリピン国籍の従業員(外国籍は7人)を雇用。企業の持続性を高めるため、国籍や性別、年齢を問わない平等な雇用対策が行われています。

      ②容器の見直し

      使用する包材や備品の増加に伴い、使い捨てプラ容器使用の見直しを進め、再生可能な植物原料由来の包材(PP袋)に転換しています。また、市内高津区の町工場など25社からなる「タカツクラフト」と連携し、繰り返しの使用が可能なステンレス製の器「K-Pot(ケーポット)」の販売を開始。「鍋(容器)を持って豆腐を買いに行く」といった、昔ながらの買い方と現代のものづくり技術を組み合わせた、地産地消を実現しています。このほかタカツクラフトとは、安全な食の安定供給と生産性向上を目的とした、設備導入の検討も進められています。

      タカツクラフトとの連携で生まれたステンレス製の器「K-Pot(ケーポット)」

      写真説明】タカツクラフトとの連携で生まれたステンレス製の器「K-Pot(ケーポット)」(同社提供)

      ③事業を通じた地域貢献活動

      地元6カ所の障害者・就労支援センターからの協力を得て、包材の下準備作業を委託しています。また、コリアンタウンのキムチ文化を伝えようと、ワークショップや工場見学のほか、地元高校生のインターンシップの受け入れも積極的に行われるなど、若い世代に対する地元企業の認知向上と市内企業への就労機会の創出を目的とした取り組みが進められています。このような事業を通じた社会貢献は同社の理念でもあります。

      左から、包材の下準備作業、ワークショップ、インターンシップの様子

      写真説明】左から、包材の下準備作業、ワークショップ、インターンシップの様子(同社提供)

      ④食品ロス削減に熟練職人の経験生かす

      製品づくりのほとんどを手作業で進めている同社ですが、野菜ひとつをとっても形から葉の厚さまで異なることから、必要最低限のロスで済ませられるよう、熟練職人の手と目を生かした見極めが行われています。また、各店舗と工場の間との連携により、1日に発注する販売量や生産数の調整を行うなど食品ロスの削減にも努めているため、賞味期限切れや在庫ロスとなることはほとんどないそうです。さらに、衛生面においても食中毒やアレルギー対策など、HACCP[1]方式に沿った独自の衛生管理が進められているほか、現在、タカツクラフトと共同で原料の残留物などを残さないことを目的とした使用器具の試作が行われています。


      国内製造業のSDGs取り組み事例一覧へ戻る

       

      3.地域産業の持続的発展目指し、自治体と官民連携

      今年、20周年を迎えた同社ですが、11月17日から4日間、川崎駅東口地下街「川崎アゼリア」で開かれた「かわさき代表ブランド20周年 × 「かわさき・かながわ」SDGsローカルイベント」を開催しました。これは「川崎ものづくりブランド」[2]20周年との合同イベントで期間中は、川崎の認定職人「かわさきマイスター」の紹介や神奈川県・川崎市内の食料品をはじめ、レストランや農産物、醸造所といった事業者が参加したほか、おつけもの慶の抽選会、地元画材メーカーによるお絵かきフォーラム、川崎市立川崎高校生活科学科の2年生が考案したキムチコンテストなど様々な催しが行われ、大盛況のうちに終了しました。
      キムチコンテストは、以前からインターンシップの窓口となっていた同市教育委員会に声掛けを行い実現。32人が8グループに別れ、7月から考案したオリジナルキムチで腕を競い、選ばれた3品が12月から商品化されるというものです。

      写真説明】キムチコンテストの様子(左)とキムチを買い求める来場者たち(同社提供)


      テーマは自由ですが、材料の原価計算から販売価格に対する収益にいたるまで、両者の間で話し合いがされるなど、社会人として社会に出る前の準備も兼ね備えたこのイベント。発表会を終え同社は「居酒屋で出てきそうな『鶏塩レモンキムチ』や『えだ豆ショウガおつまみキムチ』、電子レンジで温める『もっちーず(もちチーズキムチ)』など、原料や商品アイデアに至るまで固定概念が覆される商品ばかりで驚いた」と振り返ります。得られた収益の一部は同校に還元され、発表会は来年も継続の予定です。
      「これ、もったいないよね。といった普段の気付きから生まれた課題を改善する。この“当たり前”の考えをこれまで通り続けることがSDGsに繋がると考えている。これらの取り組みがお客様にも浸透していくとうれしい」と話す同社。今後は台湾やタイ、シンガポールへの海外展開も視野に、さらなる高みを目指します。

      記事:産業革新研究所 編集部 深澤茂


      用語解説
      [1]HACCAP(Hazard Analysis Critical Control Point):食品等事業者自らが食中毒菌汚染や異物混入等の危害要因(ハザード)を把握した上で、原材料の入荷から製品の出荷に至る全工程の中で、それらの危害要因を除去または低減させるため、特に重要な工程を管理し、製品の安全性を確保しようとする衛生管理の手法(厚労省HPより引用)。
      [2]川崎ものづくりブランド:対象は川崎市内中小製造業など。「川崎ものづくりブランド推進協議会」より、独自性や先進性、品質管理力、販売実績、将来性、社会貢献度の面で優れたものとして認定された製品・技術を指す。

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