購買業務の要点(その3)見積査定、経費把握の留意点に続けて、解説します。
10. サプライヤー評価
サプライヤーマネジメントとして最初にやっていくべきことは「サプライヤー評価」です。いつも申し上げているSQDCM:安全、品質、納期、コスト、マネジメントの5つの分野から公平公正に評価していくことが求められます。この評価は最低でも年に一回は実施しておきたいものです。評価はその時点で慌てて実施するのではなく、毎月定められた項目についてデータ取得をしておきそれを集約したものを年次評価とします。
この評価の目的は何でしょうか。それは評価結果に基づき次年度の発注シェアを決めることにあります。努力して成績を向上させた会社にはより多くのシェアを与えます。
評価結果に基づきA、B、C、Dの4ランク程度に分類するとよいのではないかと思います。評価結果は必ず数字で示し、上位からAランク、Bランクと分類します。そしてDランクになったサプライヤーは原則として取引停止対象となります。それだけにこの評価は重要であり慎重に行う必要があるのです。
評価項目とレベルについては誰が採点しても同じ結果となるように工夫する必要があります。たとえば不良納入が年間3件以上あったら「1点」、不良がゼロだったら「4点」というようにできるだけデジタルで測定できるようにしていくことが望ましいでしょう。
評価結果に基づき優秀サプライヤー表彰を同時に実施することをお勧めします。そして優秀サプライヤーには報奨金などなにかしらのインセンティブを出してあげるとよいのではないでしょうか。年に一度サプライヤー大会を開催し、そこで表彰式を実施します。全サプライヤーの前で表彰されることはサプライヤーにとって名誉なことでしょう。
また表彰につきましては品質大賞や改善大賞などといったカテゴリー別の賞を設けてみることもよいかもしれません。なぜならカテゴリー別にすれば表彰されるサプライヤーが増える可能性があるからです。
サプライヤーは協力会社ですから、彼らのモチベーションが上がることは自社の品質などの向上にもつながります。だからこそ「褒めるしかけ」が必要になるのです。
11. サプライヤー集約
ものを発注する時に特定のサプライヤーだけに発注することは望ましくありません。なぜなら独占状態にあると価格が下がりづらいだけでなくサービス水準も向上しないからです。サプライヤー評価を実施したらその結果に基づきAランクからDランクまで分類します。Dランクは取引停止対象ということを前回、解説しました。
では多くのサプライヤーに分散発注すればよいのかというとそれも程度の問題です。なぜなら一定の発注量のものを多くのサプライヤーに発注すると1社当たりの発注量が少なくなり戦略的な価格を得ることができないからです。一つのコモディティ(部品や材料など)に対して2社か3社が妥当なところではないでしょうか。ポイントはサプライヤーを「競合状態におく」ことと「1社当たりの発注量を確保する」ことではないでしょうか。
購買戦略の中にサプライヤー集約という手法があります。これはまさに1社当たりの発注量を増やして価格を下げてもらうというやり方です。購買品目カテゴリー別に取引サプライヤー数の目標値を設定し、徐々にサプライヤーを集約していくことをお勧めします。
「輸送」を一つの購買品目とするならば、現在の取引輸送会社が9社あるものを3年かけて3社に集約する目標を設定したとします。毎年輸送会社評価を行い、1年目に下位2社との取引を停止し、以降2年目に2社、3年目に2社と取引を停止することで3社との取引に集約されます。
これによって今まで9社に分散発注されていた荷量を3社に発注することになりますので、単純計算で1社当たりの発注量が3倍になります。それによって輸送価格が下げられることにつながるのです。これがサプライヤー集約の効果です。もちろん、一度取引停止となったサプライヤーでも復活取引の可能性は残しておきましょう。それも根拠となるのはサプライヤー評価です。必ずしも取引停止サプライヤーは候補会社リストからまでも外す必要なはいのですから。
12. 財務的安定性
サプライヤーの財務諸表、購買担当者であれば見る機会もあると思います。取引先に関する財務的な安定性の確認は必要です。まず損益計算書から見ていきましょう。どの会社でも収益と費用と利益から成り立っています。収益から費用を差し引いた結果が利益ということになります。損益計算書には4つの利益が示されています。それは以下の4つです。
- 当期純利益:税金を差し引いた事業の最終的な利益
- 経常利益:財務活動を含め、その会社が達成した利益
- 営業利益:本業で達成した利益
- 売上総利益:売上高から売上原価を引いて求められる利益(粗利益)
ここで見方として重要なのが同業他社や同規模の会社の利益と比較してみるということです。これを調べるためには財務省の法人企業統計を参考にするとよいでしょう。次に貸借対照表を見てみましょう。ここで注目すべき2つの指標をご紹介します。
- ROE(株主資本利益率) = 当期純利益 ÷ 株主資本 × 100
- ROA(総資本利益率 )= 利益 ÷ 総資産(総資本) × 100
前者が株主資本を元にどれだけ効率的に最終的な当期純利益を生み出したかを見るのに対し、後者は負債を含めた総資本がどれだけ利益を生み出したかを見るものです。この2つの指標についても同業他社や同規模の会社と比較することでそのサプライヤーがどれだけ稼ぐ力があるのかを推測することができます。これらの財務諸表の数字は他社と比較すること、時系列での変化を見てみることで見えてくるものがあると思います。
取引をしているサプライヤーの分だけ財務諸表を並べて比較するだけでもいろいろな気づきがあることでしょう。サプライヤーと取引をしている中で最悪な状態はそのサプライヤーが倒産してしまうことです。そうなると自社にも多大な影響が生じます。下手をすると自社製品を生産できないことにつながることもあります。それだけにサプライヤーの財務的安定性については注意を払う必要があるのです。
次回に続きます。
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