プラスチックの燃焼時に発生する温室効果ガスや廃棄などが原因で環境や生態系に悪影響を与える「プラスチック問題」。これら問題の解決に向け、不要となったプラスチックをトレイやマグネットなど、新たな製品として生まれ変わらせるサービス「ParallelPlastics（パラレルプラスティックス）」を展開するHamee（ハミィ）株式会社（代表取締役社長・水島育大氏）はこのほど、企業間でリサイクルプラスチック原材料の取引を行うECサイト「再生プラスチック取引所」を開設しました。同社の取り組みについて紹介します。
旅先で見つけた天然石ヒントにECサイトを開始
Hamee株式会社の設立は、インターネット・ショッピングモール「楽天市場」などの大衆向けサービスが始まって間もない1998年。「これからはネットの時代。ネットを使って何かを始めたい」と模索していた樋口敦士会長が、旅先で見つけた天然石をヒントに、ガラケー（ガラパゴス携帯）用アクセサリーやストラップを販売したところ、好評だったことから、ストラップを販売するECサイトを開始。現コマースセグメントの祖業となります。
その後は、時代とともにスマートフォンへと切り替わってゆく中、同社もスマホケースやリング、充電器といった周辺アクセサリー全般の開発・販売へと移行。現在は、世界累計販売2,900万個を数える「iFace（アイフェイス）」を筆頭に、これまでのECやマーケティングのノウハウを生かし、ゲーミングアクセサリーやコスメティクス事業も展開しています。
【写真説明】全世界で累計約2,900万個を売り上げている「iFace」（同社提供）
組成の異なるプラスチックを混ぜ、きれいな模様を表現「ParallelPlastics」
米アップル社のiphone用ケース（現在はアンドロイド用も販売）として国内販売が始まったiFaceは、年間約300万個が生産されていますが、一方で年に一度のモデルチェンジに伴い発生する型落ちしたケースの在庫も問題となっていました。これに加え、EC事業者向けサービスを行っているグループ会社（NE株式会社）の顧客・約4万店舗の中でも、少なからずプラスチックの在庫を抱えた業者がいることを想定し「有効活用のソリューションになれば」と、約2年の準備期間を経て2023年5月、プラスチックの有効活用を目的としたリサイクルサービスParallelPlasticsを開始しています。
代表的な事例では、リサイクルを検討していた育児用品メーカーからの相談を基に、哺乳瓶の製造過程で発生するプラスチックを活用した指輪やトレイ、マグネットなどを生産。プラスチックをアップサイクルし、新たな製品として生まれ変わらせています。これまで、オリジナル製品やノベルティとして4社がサービスを利用しています。
サービスの流れは①リサイクルを希望する自社製品を預ける②リサイクルに適しているか検証（POC、マテリアルデザイン）③問題がなければ生産に移ります。材料は同社で買い取ります。
【写真説明】哺乳瓶の製造過程で発生するプラスチックを活用し、生産されたトレイ（左）とマグネット（同社提供）
現在、プラスチックリサイクルは主にマテリアルリサイクル［1］とケミカルリサイクル［2］、サーマルリサイクル［3］の3つがあり、例えばマテリアルリサイクルは耐久性や汎用性の高さがメリットである一方、単一素材が求められるため、種類ごとの分別や異物除去が必要となりますが、ParallelPlasticsでは分別する作業を省いています。
また、マテリアルリサイクルでは、回収したプラスチックは分別や洗浄を行ってから一度、ペレットというプラスチック原料に戻し、これにバージン材を加えることで強度を補完して再利用していますが、ParallelPlasticsではペレット化の工程を省き、バージン材も一切加えず、あえて組成の異なるプラスチックを混ぜることで、天然石のようにきれいな模様を表現するなど、素材の表情を生かした製品づくりを目指しています。同社も「天然石をつかったアクセサリーの販売から始まった当社が、ここに至ったのも何かの縁」と振り返ります。
需給者を仲介するECサイト「再生プラスチック取引所」
一方「再生プラスチック取引所」は、ParallelPlasticsを立ち上げて以降、顧客との打ち合わせの中で、希望通りの色や材質を探し出すことが難しいという課題があったことから今年の5月、製造工程で発生したプラスチックの端材や在庫などを出品する企業と購入を希望する企業を仲介するECサイトとして始まった新サービスです。
サ―ビスの仕組みは①出品する企業は会員登録を行う（無料）②購入希望の企業は、出品企業に希望の量や色などを伝え、商談成立後はシステム使用料を含んだ料金を支払います。サービスは有価物を前提とし、フェノール樹脂やメラミン樹脂などの熱硬化性樹脂[4]のほか一部、熱可塑性樹脂[5]の塩化ビニルとバージンプラスチックが受付不可となっています。
【写真説明】スマートフォンケースの粉砕材（同社提供）
「今後も温暖化が進み、脱炭素化に向けた流れも加速する中、再生プラスチックの利用や需要は増えてくる」と話す同社。“100％のリサイクル” “CO2排出量ゼロキログラムのものづくり”を目指し、日々改善を進めています。
【写真説明】再生プラスチック取引所サービスの仕組み（同社提供）
経営理念に「脱炭素」加え、10年後も選ばれる企業に
このままものづくりだけ続けても、5年先10年先に選ばれる企業にならないと捉え、企業理念に「脱炭素」を加えたという同社（Hamee）ですが「各ブランドを展開する中、地球のために何ができるかを見つめながら、当社の“やるべきこと”（使命）を考え始め、ようやく一歩を踏み出した。ParallelPlasticも始まったばかりだが、当社のスマホケースと絡め、プラスチック削減など、分かりやすい施策を打ち出せたら」と話します。同社の今後の取り組みに期待が高まります。
記事：産業革新研究所 編集部 深澤茂
【用語解説】
[1]マテリアルリサイクル：廃棄物を新たな製品や原材料として再利用するもの。
[2]ケミカルリサイクル：廃棄物に化学的処理を施し、元の製品や他の製品の原料として再利用するもの。
[3]サーマルリサイクル：廃棄物を燃焼することで、発生する熱エネルギーを回収する方法。
[4]熱硬化性樹脂：加熱すると硬化(固体化)する性質を持つプラスチック。
[5]熱可塑性樹脂：加熱すると溶け、冷却すると固体化する性質を持つプラスチック。
【会社概要】
Hamee株式会社
所在地：神奈川県小田原市
HP:https://hamee.co.jp/
