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「儲けるよりも儲かる経営」これはリコー創業者の市村清の言葉です.
この言葉は儲けることそのものを目指すのではなく,価値を提供した結果として儲かるのであって,道に即してやれば,自然に儲かり利益は無限大になるという意味です.納得感のある言葉ですが,これこそ言うは易く行うは難しなのです.「儲けるより儲かる」を実践するためには潜在ニーズの着想とリスクを伴う投資の意思決定が必要なのです.市村清が「儲けるよりも儲かる」を最初に実践した事例が,明治神宮で結婚式や披露宴を開くという事業です.
終戦直後の明治神宮は参拝者が激減し,寂れた状態になっていました.そこで1947年に市村清に再建の依頼がきたのです.そこでひらめいたアイデアが結婚式場だったのです.今でこそ神社で結婚式は当たり前のことですが,当時としてはそんな発想をする人は他にいなかったのです.おそらく,市村清の頭の中には神社で結婚式を挙げるシーンが描かれていたのでしょう.こ...
もう一つの壁は投資判断です.テレビや車のようにすでに市場が存在していて,確実に売れるとわかっているものであれば投資判断に反対する人はいません.ところが,お客様自身が有用性を実感していない潜在ニーズを充足する商品の場合,本当に市場があるかどうかはその商品を市場に投入しないとわかりません.つまり,潜在ニーズに対する投資判断は未来予測の意思決定なのです.
そして市村清が提案した明治神宮を結婚式場にする提案に対して,当時の重役会は猛反対したのです.おそらく重役の方々には明治神宮で結婚式を挙げる素晴らしいシーンを創造できなかったのでしょう.そこで,市村清は損失が出た場合は個人で責任を負う覚悟で建設事業を引き受けたのです.このあたりは,当時のソニー、ウォークマンでは再生専用のテープレコーダーなど売れるわけないと反発されたという話と共通しています.
このように潜在ニーズを充足する商品の実現には新たな利用シーンの創造と意思決定の2つの大きな壁が存在します.こう言ってしまうと我々凡人には潜在ニーズを充足する商品の実現などとてもできないと思ってしまうかもしれませんが,実はそんなことはありません.福原先生が提案された新市場提案型QFDを効果的に活用することで新たな市場創造の現実性が高まります.
ただし,投資の意思決定という経営マネジメントの課題は残ったままです.私がニコン時代に開発したLIMDOW-MOの事業化成功要因の一つは当時の日立マクセルの事業部長が量産リスクのある案件にもかかわらず,リスクをとって20億円の投資を即断即決してくれたことにあります.あの即断即決がなければ事業は失敗していたはずです.最近はこのような大胆な経営判断が少なくなったような気がします.
【出典】QECompass HPより、筆者のご承諾により編集して掲載
◆[エキスパート会員インタビュー記事] 品質工学の魅力とその創造性への影響(細川 哲夫 氏)
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