中小企業の特許技術導入について ―森田テックの事例―

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1.はじめに

 経済のグローバル化など外部環境が大きな変革期を迎える中で、中小企業も、下請け型を脱して、自社固有製品の開発を行うことが必要となりつつあります。しかし、中小企業はリソースが限られているため、すべての技術を自社開発することは難しいのが現状です。 

 そこで、他社の特許技術を導入することも選択肢の一つとなります。技術導入に関して、最近では以下のニュースが話題になりました。 

製品の高精度化へNECの開放特許導入、市が市内中小企業を仲介/川崎

 電気、電子機器設計・製造の川崎市内の中小企業、森田テック(麻生区)が、自社製品の高度化へ向け、市内に中央研究所を置く日本電気(NEC)の開放特許を導入することになった。川崎市の橋渡しでNECの特許技術を市内中小企業に移転する初めてのケース。今回の成果を踏まえ、市は知的財産戦略をさらに推進する方針だ。(2012年4月20日 神奈川新聞)

  特許技術を導入するためには、このニュースのように外部の組織に仲介を依頼することも考えられますが、技術導入には事業上のリスクもありますので、自社で導入候補をある程度、選定できるようにしたいものです。

  ここでは、森田テックのケースから、特許情報を利用した候補の選定方法について考えたいと思います。

 

2.事例分析

(1)森田テックの技術の概要

 森田テックは下図のような、EMC試験用検出装置を製造しております(特開2011-185857号)。EMC試験用検出装置とは、家電や携帯電話などの製品内のLSIチップやプリント基板から放射され、回路の誤作動の原因となる電磁ノイズ(GHz帯域の高周波磁界)を検出して可視化する装置です。

 

 上図の高周波磁界検出プローブ150が、この装置のコアの技術となります。このプローブに外部の特許技術を導入して、より高性能化し商品価値を高めることを考えたいと思います。

 

(2)特許調査の手順

 森田テックのコア技術に他社の技術を組み合わせて技術力を向上し、商品価値を高めることを目的とします。このような観点で導入可能な特許技術の調査を行うとともに、技術と企業の絞込みをかけます。 

①共通技術を有する企業の確認

 まず、高周波磁界検出プローブに関して特許調査を行い、この分野の出願を行なっている企業をピックアップします。

 高周波磁界検出プローブに関しては、日本電気、リコー、三菱電機等の企業が同様の出願を行なっていることがわかります。 

 上記リストから10~20社をピックアップして、自社との技術との関係を一社ずつ確認することになります。なお、以下の説明では、一例として、ニュースにある日本電気のみの検討とします。

 ②技術の補完性確認

 次に、森田テックと日本電気との技術分野別出願件数を比較して、森田テックの技術を補完する技術を確認します。

 日本電気は、磁気抵抗効果素子(2G017AD55)、磁気光学効果(2G017AD11)、ファラデー効果(2G017AD12)等の、森田テックが有しない技術を有していることがわかります。 

 したがって、これら技術が導入の第一の候補となります。ここでは、磁気光学結晶を用いた磁気光学効果技術(2G017AD11)について検討します。 

③技術内容の確認

 下図は、日本電気の出願明細書におけるキーワード「磁気光学結晶」が、どのようなキーワードと関連が高いか示した図です。

 

 この図から、「磁気光学結晶」は、光ファイバを用いて、EMI源探査対象であるIC/LSIパッケージを高空間分解能で、磁界を測定するための部材であることがわかります。 

 森田テックの技術とは、LSIチップの電磁ノイズを検出する点で技術が共通しておりますので、森田テックは日本電気の磁気光学効果技術を導...

1.はじめに

 経済のグローバル化など外部環境が大きな変革期を迎える中で、中小企業も、下請け型を脱して、自社固有製品の開発を行うことが必要となりつつあります。しかし、中小企業はリソースが限られているため、すべての技術を自社開発することは難しいのが現状です。 

 そこで、他社の特許技術を導入することも選択肢の一つとなります。技術導入に関して、最近では以下のニュースが話題になりました。 

製品の高精度化へNECの開放特許導入、市が市内中小企業を仲介/川崎

 電気、電子機器設計・製造の川崎市内の中小企業、森田テック(麻生区)が、自社製品の高度化へ向け、市内に中央研究所を置く日本電気(NEC)の開放特許を導入することになった。川崎市の橋渡しでNECの特許技術を市内中小企業に移転する初めてのケース。今回の成果を踏まえ、市は知的財産戦略をさらに推進する方針だ。(2012年4月20日 神奈川新聞)

  特許技術を導入するためには、このニュースのように外部の組織に仲介を依頼することも考えられますが、技術導入には事業上のリスクもありますので、自社で導入候補をある程度、選定できるようにしたいものです。

  ここでは、森田テックのケースから、特許情報を利用した候補の選定方法について考えたいと思います。

 

2.事例分析

(1)森田テックの技術の概要

 森田テックは下図のような、EMC試験用検出装置を製造しております(特開2011-185857号)。EMC試験用検出装置とは、家電や携帯電話などの製品内のLSIチップやプリント基板から放射され、回路の誤作動の原因となる電磁ノイズ(GHz帯域の高周波磁界)を検出して可視化する装置です。

 

 上図の高周波磁界検出プローブ150が、この装置のコアの技術となります。このプローブに外部の特許技術を導入して、より高性能化し商品価値を高めることを考えたいと思います。

 

(2)特許調査の手順

 森田テックのコア技術に他社の技術を組み合わせて技術力を向上し、商品価値を高めることを目的とします。このような観点で導入可能な特許技術の調査を行うとともに、技術と企業の絞込みをかけます。 

①共通技術を有する企業の確認

 まず、高周波磁界検出プローブに関して特許調査を行い、この分野の出願を行なっている企業をピックアップします。

 高周波磁界検出プローブに関しては、日本電気、リコー、三菱電機等の企業が同様の出願を行なっていることがわかります。 

 上記リストから10~20社をピックアップして、自社との技術との関係を一社ずつ確認することになります。なお、以下の説明では、一例として、ニュースにある日本電気のみの検討とします。

 ②技術の補完性確認

 次に、森田テックと日本電気との技術分野別出願件数を比較して、森田テックの技術を補完する技術を確認します。

 日本電気は、磁気抵抗効果素子(2G017AD55)、磁気光学効果(2G017AD11)、ファラデー効果(2G017AD12)等の、森田テックが有しない技術を有していることがわかります。 

 したがって、これら技術が導入の第一の候補となります。ここでは、磁気光学結晶を用いた磁気光学効果技術(2G017AD11)について検討します。 

③技術内容の確認

 下図は、日本電気の出願明細書におけるキーワード「磁気光学結晶」が、どのようなキーワードと関連が高いか示した図です。

 

 この図から、「磁気光学結晶」は、光ファイバを用いて、EMI源探査対象であるIC/LSIパッケージを高空間分解能で、磁界を測定するための部材であることがわかります。 

 森田テックの技術とは、LSIチップの電磁ノイズを検出する点で技術が共通しておりますので、森田テックは日本電気の磁気光学効果技術を導入することで、より高空間分解能の測定装置を製造することが可能となると予想できます。 

 これにより、EMC試験用検出装置の商品価値を高めることが可能となります。 

④最終確認

 その後、磁気光学効果技術を導入したEMC試験用検出装置の市場性を確認し、自社のEMC試験用検出装置に磁気光学効果技術を適用できるか技術的な検討をして、最終的に当該技術を導入するか否かを決定することになります。

 

3.まとめ

 特許情報を分析することにより、自社で導入可能な技術を検討することが可能となります。技術導入の際には、特許流通の仲介業者にお願いすると共に、自社で分析を行えば、より確実な導入が可能となるでしょう。 

 また、特許調査により、自社技術を改善できる技術が他にも様々存在することもわかり、競合他社の技術レベルもわかりますので、R&D戦略の構築にも役立ちます。 

 御社でも、特許情報を是非活用ください。

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この記事の著者

川上 成年

「御社の知財部」は中小企業様向けの知財支援サービスです。「御社の知財部」は御社の知財活動を推進します。

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