ある会社の監査に行った時の事例から、先入れ先出しとクリーン化をテーマに解説します。
1.監査の事例
監査は一般的に机上監査と現場監査があります。時間の関係で同時並行的に進めることになり、私は現場を重点的に監査しました。まず製品製造工程で使用される原材料の保管庫から監査を着手しました。対象の原材料は保管時温度管理が必要なものであり、一つひとつに使用期限が表示され、冷蔵庫に保管されていました。保管庫の扉を開けるとすでに期限が過ぎてしまっている材料がいくつか並んでいました。
その材料を取り出してみると、後ろの列にはもっと古いものが、更にその後ろには数か月前の使用期限表示のものがありました。作業者に聞いてみると、入荷したものは一番前に置いている。次に入荷したものは、既に並んでいるものを奥に押しやって手前に並べているということでした。
そして使う時は取り出しやすい一番手前のものから使うということでした。最も新しい期限のものも使いきらないうちに、次のものが入荷して来るというのです。冷蔵庫に入りきらなくなるまで、この繰り返しだそうです。現場と購入部門相互の連携が無いのです。
製品の生産量とその原材料の必要量が連動しておらず、適正在庫も把握されていないため、過剰在庫になったら注文を減らすなどもできません。これでは後ろに行くほど古いものが残るわけです。入荷日や着手日(開封日)の記録もありませんでした。期末の棚卸の有無にも疑問が残ります。
長期間置かれた製品や原材料、薬剤などは変質することが考えられます。従って、使用期限が表示されているのです。その場で管理職に、先入れ先出しするよう仕組みを整えること、適正在庫を把握し在庫管理も徹底するよう依頼しました。
在庫が少なければ、先入れ先出しの管理も楽です。また余分な発注も抑えられます。片方で発注を繰り返し片方で期限切れを捨てているようでは、製品のコストは跳ねあがるばかりです。その時に例に出したのが、飲み物の自動販売機の缶ジュースや缶コーヒーなどはどう管理されているかです。折角冷やしたり温めたりしてあるものよりも、後から供給したものが先に出てしまうと、購入者はがっかりします。期待していた商品が出てこないからです。
夏なら冷えたジュースを飲みたいと思うのに、常温にさらされた生暖かいものが出て来てしまう。逆に暖かいコーヒーを飲みたいのに、常温のものが出て来てしまうと言った具合です。
そうならないよう自動販売機の中には、後から補充したものは必ず最後尾に入り、購入者は一番手前にあるもの、つまり最も冷えたもの、或いは温まったものが出て来る仕組みがあります。先入れ先出しの仕組みが出来ているのです。これは自動販売機だけでなく、ものづくりの工場でも、在庫品の先入れ先出しの仕組みがあって、全く同じ製品であっても、古いものが先に送り出されるようになっています。そうしているところが多いと思います。
2.クリーン化側面
先に入った品物がその場に長時間置かれ、後から流動されて来たものが先に次工程に送られてしまうと、長時間置かれたものはそこで風が当たっているとすれば(例えばファンなどの風が常時当り続けるなど)、製品と風との接触で出来る摩擦で静電気が起きること(摩擦帯電)により、埃が付着することもあるでしょう。熱がある環境だとすれば、ラベルの剥がれなども起きます。あるいは、光により伝票類やシール、文書の変色(黄ばみ)なども起きるかもしれません。光が当たる時間が長いと、プラスチック製品では熱による変形も考えられ、製品そのものの機能を果たさない場合もあります。
3.先入れ先出し品質
このように先入れ、先出しをすることには品質や見栄えも含め色々な意味があります。工程在庫も全く同じ製品であっても、取引先に新しい日付のものが送られてきて、それよりも古い日付のものが後から送品されて来ると、あの会社の製品管理はどうなっているのかと思...
われてしまいます。印象を悪くしてしまいます。
また、汚れ具合によっては返品したくもなります。同じ製品でも埃が沢山付着しているものには手を出しにくい、買う気にならないでしょう。同じ機能がはたせるものでも、製品品質は印象面で低下してしまいます。
購入する人たちは、理論理屈ではなく、瞬時に見分けます。一説では人は耳の付近に集まる神経は数千、これに対し目の付近には数万の神経が集まっているようです。このことから、目から入る情報は耳の数倍になります。これが瞬時に入るわけですから感覚的に見分けるのです。視覚で品質判断をされるということです。
ものづくりの現場では、期限内にある製品、原材料であっても先入れ先出しする仕組みを実行して、これも品質と捉えることが重要です。