前回のクリーン化について(その130)人財育成(その31)の続きです。今回は、クリーンルームの神話についてお話します。神話と言えば、ギリシャ神話やローマ神話などが有名ですが、紀元前の話です。そして日本の各地でも、古くからの神話が残っていて、語り継がれています。昔の文献にも記されているので、記録を残すと言う価値を感じます。
1. クリーンルームにもあった神話
さて、近年、ものづくり分野でも品質向上のため、現場をクリーンルーム化する事例が増えています。この話の元を辿ると、“クリーンルームにすると歩留まり、品質が向上する”という神話のような、あるいは思い込みのようなところに辿り着く場合があります。勿論全てではありませんが、かなり多いと思います。これは乱流方式のクリーンルームのことです。
クリーンルームにすることは、大きな投資も伴います。クリーンルームにする一時的な費用だけでなく、運転に必要な費用が継続的に掛かリ続けるのです。そのことを問題視しない、疑問に思わないまま、それまでの現場を、クリーンルームにしたという場合です。恐らく、客先からの要求であり、それに応えないと取引に影響する、と言うことを優先して考えてしまうのでしょう。
同業他社が採用しているのを見たり、聞いたりすると、疑いなくそうしてしまうかも知れません。“なぜクリーンルームにすると歩留まりが向上するのか” を考えるところまで行かなくても、その神話だけで、意思決定ができてしまうのです。
実際にクリーンルームにして、生産活動に入ってしまうと、品質が向上しないばかりか、経営を圧迫するような事態になる。あるいは、利益が薄くなると言うことになりかねません。皆さんのところでのクリーンルーム導入の経緯はどうでしたのでしょうか。
2. 費用対効果を考える
私も多くのクリーンルームを見てきました。その多くは乱流方式のクリーンルームです。これは、国内の床面積では最も多く使われているタイプです。テレビでは最新のクリーンルームが良く映ります。層流方式と呼ばれるタイプです。大企業ではこのようなクリーンルームにしているところが多いでしょう。
この層流方式であっても、テレビ画像をクリーン化の視点で良く見てみると、瞬時でも気になることが幾つか見つかります。クリーン化の基礎知識の理解がまだ不十分ではないだろうか、まだ突き詰められてはいないんだろうと言うことですね。その時は、近くに行って、良く観察したいものだと思ってしまいます。この層流方式は、乱流方式とは比べものにならない程多くのお金が掛かります。そこに繋がるサプライチェーンの多くは、乱流方式がメインです。
客先からクリーンルーム化を要求される場合は、この乱流方式でしょうが、これにしたからと言っても自然に品質、歩留まりが向上するのではありません。ただし、取引の関係でやむなくクリーンルームにしても、そのクリーンルームに相応しい管理をしないと改善は見込めません。
現場を見ると、その管理方法を知らないまま、クリーンルームの中で旧態依然のものづくりをしている場面を見かけます。クリーンルームの運転費用の最も多いのは電気代です。一度運転すると殆ど止めることができないからなのです。これでは品質が向上しないばかりか、電気代などにより、会社の規模によっては経営に影響する場合もあります。また、要求してくる客先も、企業の競争力であるノウハウの流出防止として、指導しないとか、要求部門によっては、先ほどのような神話を信じて要求してくる場合もあります。
こうなってしまってから、どうしていくかです。きちんと管理しなくて、利益が薄くなった。良く考えると「クリーンルームにする前も製品はできていたじゃないか」と考えてしまう。それによってクリーンルームの運転をやめ、元に戻そうとするわけです。そしてやめたら、クリーンルームではない時(元の)のレベルを下回ってしまった。慌てて、クリーンルームを運転しても、今度はクリーンルームにした時のレベルにも戻らなかった。こうなると、どこがいけないのか、何がいけないのかわからなくなって混乱する訳です。このことを理解、整理、対策立案、実施という手順を踏んで、良い状態にするまでには相当な各種ロスが発生することが容易に想像できます。
壁にぶつかったら基本に戻れと言いますが、その基本はどこなのか、何をすべきかわからないのです。ものづくり企業内でも「クリーンルームにすれば品質、歩留まりが向上する」とは言っても、“これは神話です” とは表面的には言ってはいません。現場をたくさん見てきた私だけがそう思っているだけかも知れません。そのような事例も見たり、聞いてきました。
はじめにクリーンルームとは何か、なぜクリーンルームにする必要があるのかを考え、理解し、さらにクリーンルームの管理ノウハウを持って、品質改善に繋げて欲しいです。
2~3年前に、クリーンルームを初めて導入するという企業から、その県の産業振興財団を通じ、クリーン化の指導の依頼がありました。クリーンルームの工事は、クリーンルーム専門業者が担当し、着手したところでした。依頼元の社長は、クリーンルームの工事と並行し、社員全員のクリーン化教育を実施して行くという考え方を持っていました。日々変化していくクリーンルームを見ながら、教育も進めるわけです。その場に教材があるので、理解しやすいのです。非常に効果的な対応だと感じました。
3. ノンクリーンルーム化について
クリーンルーム化を要求されたら、なぜクリーンルームにすれば品質、留まりが向上するのかを知ること、考えることです。そのことが理解できない場合は、先方に良く聞いてみてください。それは常識ですとか、そう言われているという曖昧な回答だったとしたら、すぐには導入しないことです。そもそも依頼している人がわかっていない場合があります。昔からそう言うでしょう、から始まってしまうのです。
これまで ”クリーン化のノウハウは門外不出” という扱いになっていました。それは企業の競争力ですから、安易にノウハウを公開しないのです。それ故教えて貰えない場合もあります。クリーンルームを正しく管理していくノウハウを保有し、活用して行かなくては、品質、歩留まりは向上しないのです。そのことを要求している客先でも教えたくない、もしくは知らないのかをきちんと把握してから行動しましょう。
一方で、ノンクリーンルーム化という考え方もあります。これは単にクリーンルームの運転をやめると言うだけでは実現しません。
ノンクリーンルーム化を実現したところを指導したことがありました。そこではクリーンルームの運転はやめても、感心するほど非常に綺麗でした。クリーンルームをやめてもクリーン化の教育を定期的に実施し、作業員もクリーン化4原則をきちんと理解していました。その過程で、これはやめても良いと言う風に、石橋を叩いて、一つひとつ確認しながら省いていくのです。また、その過程で品質問題などが発生した場合は、その前まで戻れば良いのです。
トレーサビリティ(原因遡及容易性)という言葉があります。
何か不具合が発生した場合、その原因を容易に遡ることができる仕組みです。早く捕まえることで、損失も少なく抑えられるのです。これを地で行く感じですね。ただやめたのではないのです。これは理論だけでなく、“理論と実際” を兼ね併せて実現するのです。こうなると、自信を持って自走でき、指導の必要もないです。それでも...