多面的にものを見る、考えることについて、前回の続きの前に、今回は、世界一綺麗な空港の話をします。世界一綺麗な空港は、今年も4月にランキングが発表され、その一位は、羽田空港でした。このランキングは、今回だけでなく、以前から行われています。
羽田空港の綺麗さについては、2015年2月2日 “NHK、プロフェッショナル、仕事の流儀” で放映されたのをご覧になった方もいらっしゃると思います。私もその時の内容は鮮明に覚えています。クリーン化に通じることであり、重要だと感じ慌ててメモを取りました。
その時のタイトルは、“羽田空港、世界一綺麗な空港” でした。主人公はJATEC(日本空港テクノ株)所属の新津春子さん。中国、瀋陽出身です。この方は、中国にいた時は、日本人だといじめられ、日本に来たら中国人だと仲間外れにされ、どちらでも孤立していたというのです。
この会社に入社を希望したが、女性は採用しないと言われた。それで男性並みの、それ以上の清掃員になると言い張って、入社が実現したそうです。その仕事の過程で自分の居場所を見つけたと言うのです。
私も、在職中自分の居場所がなく、孤立していた時期がありました。しかも、その期間も長く辛かった。なんだか境遇が似ていると思いました。その時のメモを以下に記します。
羽田空港、世界一綺麗な空港。主人公:JATEC 新津春子さん 中国、瀋陽出身。
・羽田空港、日本一の清掃員。
・清掃はきりが無い。最後はハート。
・日本ビルクリーニング選手権 優勝。
・うがい場所、使わなくても汚れる。空気中の埃、うがいの汚れ、人の脂。
・綺麗になればそれで良いのか。傷がついていたら仕方ない。
・清掃の職人であれ。
・目に見えない部分こそ清掃を。
・ただやれば良いのではなく、心配り。
・優しさで清掃、心を込めれば色々なことに気が付く。
・世界一綺麗な空港ターミナル、清掃を極める。もっと心を込めなさいと指導してくれた鈴木さん(上司)から、一度も誉めてもらったことはない。認められたことはない。
日本ビル選手権で優勝した時に、「優勝することは分かっていたよ」と言うのがたった一度誉められたこと。
・指導者の言葉:心に余裕が無いと良い仕事(清掃)は出来ない。
技術だけでなく、その場を思いやるやり方。
・心を込めて清掃すると、利用者からも喜んでもらえる。清掃こそ私の居場所。
・現場は自分の家と思って清掃する。
・誰がやったかではなく、自分が誇りを持ってやる。それでいい。
・プロフェッショナルとは、目標を持って、日々行動し、評価する。
メモを取り損ねたことがあるかも知れないが、印象深い内容だった。
この内容を見ると、多面的に物を見たり考えたりすること、そしてクリーン化の着眼点に通じることも見えてきます。もう一つ、言われたから、仕事だからやるのではなく、自分がやるという強い当事者意識を持ち合わせているようにも思います。それをやり通すことで、自分が磨かれてきたと感じます。
羽田空港を経由するとき、フロアーの案内の方に「今日、新津さんはいますか」と聞くと、「今日はお休みの日です」などとすぐに返事があります。それだけ注目された方ですから、多くの方の問い合わせがあると言っていました。フロアーの案内の方も、そのことは承知していて、常に情報は得ているようでした。その方達の仕事も、単にフロアーの案内だけではないと考えているのですね。数字やデータで表現できない心の部分も多々あります。
近年、成果主義が叫ばれ、数字やデータで報告が求められることが多いように感じます。要領の良い方は、数字、データを得やすいことに取り組み、評価されるかも知れません。つまり、表面だけをさらって成果を得たように思い、その内容の深さの追求がおろそかになってしまうこともあるでしょう。また評価する側は、その数字やデータで、評価します。
その中心にある “心” の部分は評価して貰えないことも多いと思います。でも、その思いやりや心の部分も重要です。在職時だけでなく、退職後も含め羽田空港を使うことが多かった。利用客数も半端ではないが、綺麗な状態が維持されている、DNAが継承されていると認識していた。
私もクリーン化に接し、そして入り込むと、これが自分の道だと考えるようになり、人がどのように見ているのかはどうでも良く、夢中で取り組めることに価値を感じ、のめり込んでいました。そこには数字やデータで表現できないことは多々あると感じました。それでは評価はされないことの方が多かったです。例えば、私が掃除をしているその雑巾を蹴飛ばしていく人もいました。このような人は、自ら掃除をしたことがないのだろうと思いました。それでも自分の心に充足感があるからやってこられました。
在職中も、クリーン化の指導依頼が多々ありました。あるところでは、クリーン化担当はその必要性を認識しているのに、上司(役員)がその気がないと言って、私に来て欲しいとの依頼があった。それは、私を通じて説得して欲しいと言うことだった。実際にその会社に行った時のこと、名刺交換をしながらその役員が放った言葉は、「あんたが掃除の仕方を教えに来た人か」と言うのです。このことばは、ここだけではなく、何回か聞きましたので、そういう捉え方をする人が少なくないとも感じていました。
なるほど担当者が苦戦するわけです。担当者と認めておきながら、それはないでしょうという感じですね。こういうところは何度行っても、その担当者だけが対応し、経営者や管理職が現場で立ち会うことはなく、変化もありませんでした。“社員にはいつも厳しく言っている” と言うのが口癖でしたので、言うだけなのだろうと感じていました。また、自分が言ったことが伝わっているのかの確認もできていないのです。現場に入って、現場の方と話をしてみると、すぐにそのことが理解できます。乖離しているのです。つまり、言い放しです。でも訪問の都度 “成果は出ていないじゃないか” と言われました。
先ほどの新津春子さんですが、私が新潟のある会社にセミナーとして呼ばれ、事前打ち合わせの時聞いた話です。新津さんの講演と私のクリーン化講演がテーブルに乗り、社長の半断で新津さんの講演が決まった。そして、翌年私の講演が実施されることになったと言うのです。私は、その翌年も呼ばれました。このようなことも偶然でしょうが嬉しいことです。
近年、大企業の不祥事が続々と表面化しています。また、それらを拾ってみると、その多くは人の命に関わることばかりです。セミナーの中では、単にクリーン化のことを話すだけでなく、以下のことも話しています。
“クリーン化は、単に現場を綺麗にすれば良いのではなく、そこには良い品質になるよう心を込めて作り込む、心の品質も重要” だと感じています。そのことも含めているわけです。ものづくりに対する心構えですね。そこには、東南アジアのものづくり現場を見て感じた、日本のものづくりへの危機感を伝えたい思いもあります。どの会社でも生産数や納期は厳しく言われると思います。その達成のために四苦八苦という印象があります。QCDと言う言葉があります。Qは品質であり、3文字の先頭にありますが、そこがボケてしまっているように感じます。そして、“誰のために、何のためにものを作るのか” が不在になっているように思います。作ることだけに終始していないでしょうか。それが成果でしょうか。
新津さんの言葉を見直して見ると、・指導者の言葉:心に余裕が無いと良い仕事(清掃)は出来ない、とあります。大企業の不祥事では、社員か...