前回に続き、海外の人財育成の例を紹介します。
私がインドネシアのある工場を訪問した時のことです。丁度社長が交代した後でした。
その社長は、赴任直後から現場が奇麗かどうかを確認していました。彼の目で見ると、現場にはゴミが多いと映ったのです。ところが、その社長は、作業者に「掃除しなさい」とは一切言わず、毎日自分がビニール袋を持ってゴミを拾って歩いたとのことです。
すると、現地の管理職が寄ってきて、「社長何しているんですか」と聞くのだそうです。
そこで、ビニール袋の中にある、拾ったものを見せ、「これは、製品でしょ。拾えば製品だけど、踏んだり、履いて捨てればゴミでしょう。例え小さくても、一つ一つは製品なのだから大切にしなさい。ゴミとして掃いて捨ててしまうと、売り上げ、利益が減るでしょう。前工程の人たちが一生懸命作ったものですよね」と言って指導していたとのこと。
その様子を見ていた作業者が、今度の社長は、怖い人ではなさそうだということで、同じように寄ってくるのだそうです。そして同じように、拾ったものを見せるのだそうです。すると、社長がやっているんだからと、作業者も段々拾うようになるそうです。その過程を、指導、育成の場にしていったそうです。
それを、最初に、「ゴミが多い、掃除しなさい!」と言ってしまうと、とりあえず清掃するでしょう。でもなぜ叱られているのかが理解できないと、その時だけで終わってしまうかも知れません。丁度、社長のところに寄ってきて、普通に会話ができる状態になっている時、つまり“聞く耳を持っている”時に、なぜをしっかり教え、考えてもらうことや、コスト意識を持ってもらうよう指導したというのです。
色々な企業の現場診断に行く時も、その現場がちょっと汚れているなと思っても、最初から厳しく言うよりも、まず先方の理由、理解を確認しながら、どこから指導を始めるかを考えることが良いです。相互に良い関係を作りながら進めることです。ここには、国民性、(国内なら県民性)風土、習慣、そしてその現場特有の風土なども把握して進めるのも良いでしょう。
インドネシアのこの工場では、社長が背を見せて育てたという例です。同じインドネシアの工場でも、場所が変われば、指導方法も変わると思います。
参考ですが、私が定年間近に訪問した時は、セミナーも実施しました。その時は、現地メンバーでも、現場の人ではなく、技術者が対象でした。50名を超える聴講者でしたが、理工系の大学、大学院卒ばかりでした。その中には女性もいました。こうなると、かなりハイレベルの...