クリーン化を成功させる条件とは クリーン化について(その19)

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◆ クリーン化活動の組織と現場の重要性

 下図はクリーン化活動を進めるうえで重要なことを私の経験、体験を元に整理したものです。これは現場や現場に近い部門だけでなく、経営者や管理監督者など会社全体が知っておいてほしいことです。クリーン化を成功させる条件について、今回も前回に続き「クリーン化のなぜを考える」についてお話します。

図1. クリーン化活動の重要ポイント

 

4. クリーン化のなぜを考える

① なぜ防塵衣が必要なのか

 最初に、クリーンルームの中で発生するゴミについて図2で説明します。

クリーン化

図2. クリーンルームの中で発生するゴミ


 図2は以前、半導体前工程の乱流式クリーンルーム内で採取されたゴミです。管理清浄度[1]は、0.5マイクロメートルでクラス1000~5000(Fed.Std.)くらいです。

 採取ゴミを大別すると、以下のようになります。それぞれの具体的なゴミは図2を参照してください。

  • 人体から出るもの
  • 人の活動、行動から出るもの
  • 建物から出るもの
  • メンテナンス作業から出るもの
  • 原材料から出るもの    

 各ゴミの数を比率でみると“人から出るものと人の活動から出るもの”の合計が全体の半分以上を占めます。このことからクリーンルームの中では、人がゴミの最大の発生源、汚染源だということが分かります。つまりクリーンルームを人が汚すのです。これら人から出るゴミをクリーンルーム内にまき散らさないために着る服が防塵衣です。

 

【防塵衣についての不具合事例】

クリーン化

図3. なぜ防塵衣を着るのか

 

 防塵(ぼうじん)衣を着用する理由は、これまでも説明してきましたが、その理由を知らず、防塵衣という白い服を着ただけで安心してしまう事例が次のように沢山(たくさん)あります。

a.名札などを安全ピンで固定したことで穴が開く

 ある会社の現場診断をした時、クリーンルームで作業者の服装を見ると、胸に名札を付けていました。安全ピンでとめているのです。また「〇〇活動をしています」といったプレートを安全ピンでとめているところもありました。安全ピンで固定するとどうなるか考えてみましょう。どんなに苦労しても1度に2つの穴が開きます。クリーニングに出す時外し、戻ったら付けるという繰り返しで胸の付近は穴だらけになります。ピンの太さは0.5ミリほど、管理レベルである0.5ミクロンよりも桁(けた)違いに大きな穴が開き、パーティクル(ちり・ほこり)は容易に通過します(参考:1ミクロンは1000分の1ミリ)。さらに作業者の前面、つまり製品側に向かって吹き出すことになります。

b.ポンピング現象

 防塵衣の腰の部分には紐(ひも)、或(ある)いはゴムが入っています。この紐やゴムを締めないと着用している人は楽です。他者から見ればみっともないという風にみえるでしょう。腰紐やゴムの目的は、防塵衣の中にできるだけ空気をためないという考え方です。防塵衣の中に空気が沢山(たくさん)溜まってしまうと様々な動作、行動時にその中の空気がその場所をはじめ、多くの場所から外に漏れ出します。その時、中のゴミも一緒に出てしまいます。腹部、胸部を押さえると空気が出てしまうことを、ポンピング現象(ポンプの原理)と呼びます。タンスの引き出しを押し込むと、他の引き出しが出てくるのと同じ原理です。

c.クリーニングによる劣化

 防塵衣劣化の最大の原因はクリーニングです。防塵衣には、縦または縦横の格子状に黒い糸(導電糸)が織り込んであります。静電気を逃がす目的です。クリーニングの回数を重ねると、この黒い糸が徐々に擦(す)り切れてきます。すると、静電気が発生しても逃げ道が遮断(しゃだん)され、中々減衰しません。そこにパーティクルが引き寄せられ付着するのです。定期的な静電気性能を確認し、劣化が確認されたら交換していくことが必要です。

d.食品関係の防塵衣について

 本原稿は、電気、電子、精密、機械などのものづくりを対象にした話題を解説、説明しています。医薬、食品は対象外ではありますが、心配になっていることがあるので取り上げます。古い話になりますが、中国で食の問題がありました。この時、日本の食品業界は大丈夫かと、TVで取材して放映されたことがありました。TV局のクルーが、ある食品会社を訪問した時のものです。

 まず会社の役員の方がTVカメラを引き連れクリーンルームへ入って行く風景でした。防塵衣に着替え、手袋をして、靴洗い機で靴を洗い、エアシャワーを浴び、クリーンルームに入って行きました。雑菌なども持ち込まないよう靴も洗浄されていることがよく分かりました。

 クリーンルーム内での説明のあと「当社の原材料は外の倉庫に保管してある、それも見てください」と言って裏口から出て行ってしまいました。エアシャワーもなく、1枚の扉の向こうは外でした。そして倉庫の中の状態をみせ「うちはこんな風にしっかり管理しています」と話し、また先ほどの裏の扉からクリーンルームに入ってしまいました。私はこの時“なぜ防塵衣を着用するのか理解されていない”と思いました。特に食品ですから心配になります。着用したまま屋外に出ると、微生物やバクテリアなどが付着する可能性があります。もっと大きい昆虫なども付くかも知れません。それを持ち込むことになると、クリーンルーム内はバクテリアや微生物、昆虫などは住みやすい(生きやすい)環境でもあるのです。エサや水があり、適度な室温ですから、産卵もするでしょう。...

 

◆ クリーン化活動の組織と現場の重要性

 下図はクリーン化活動を進めるうえで重要なことを私の経験、体験を元に整理したものです。これは現場や現場に近い部門だけでなく、経営者や管理監督者など会社全体が知っておいてほしいことです。クリーン化を成功させる条件について、今回も前回に続き「クリーン化のなぜを考える」についてお話します。

図1. クリーン化活動の重要ポイント

 

4. クリーン化のなぜを考える

① なぜ防塵衣が必要なのか

 最初に、クリーンルームの中で発生するゴミについて図2で説明します。

クリーン化

図2. クリーンルームの中で発生するゴミ


 図2は以前、半導体前工程の乱流式クリーンルーム内で採取されたゴミです。管理清浄度[1]は、0.5マイクロメートルでクラス1000~5000(Fed.Std.)くらいです。

 採取ゴミを大別すると、以下のようになります。それぞれの具体的なゴミは図2を参照してください。

  • 人体から出るもの
  • 人の活動、行動から出るもの
  • 建物から出るもの
  • メンテナンス作業から出るもの
  • 原材料から出るもの    

 各ゴミの数を比率でみると“人から出るものと人の活動から出るもの”の合計が全体の半分以上を占めます。このことからクリーンルームの中では、人がゴミの最大の発生源、汚染源だということが分かります。つまりクリーンルームを人が汚すのです。これら人から出るゴミをクリーンルーム内にまき散らさないために着る服が防塵衣です。

 

【防塵衣についての不具合事例】

クリーン化

図3. なぜ防塵衣を着るのか

 

 防塵(ぼうじん)衣を着用する理由は、これまでも説明してきましたが、その理由を知らず、防塵衣という白い服を着ただけで安心してしまう事例が次のように沢山(たくさん)あります。

a.名札などを安全ピンで固定したことで穴が開く

 ある会社の現場診断をした時、クリーンルームで作業者の服装を見ると、胸に名札を付けていました。安全ピンでとめているのです。また「〇〇活動をしています」といったプレートを安全ピンでとめているところもありました。安全ピンで固定するとどうなるか考えてみましょう。どんなに苦労しても1度に2つの穴が開きます。クリーニングに出す時外し、戻ったら付けるという繰り返しで胸の付近は穴だらけになります。ピンの太さは0.5ミリほど、管理レベルである0.5ミクロンよりも桁(けた)違いに大きな穴が開き、パーティクル(ちり・ほこり)は容易に通過します(参考:1ミクロンは1000分の1ミリ)。さらに作業者の前面、つまり製品側に向かって吹き出すことになります。

b.ポンピング現象

 防塵衣の腰の部分には紐(ひも)、或(ある)いはゴムが入っています。この紐やゴムを締めないと着用している人は楽です。他者から見ればみっともないという風にみえるでしょう。腰紐やゴムの目的は、防塵衣の中にできるだけ空気をためないという考え方です。防塵衣の中に空気が沢山(たくさん)溜まってしまうと様々な動作、行動時にその中の空気がその場所をはじめ、多くの場所から外に漏れ出します。その時、中のゴミも一緒に出てしまいます。腹部、胸部を押さえると空気が出てしまうことを、ポンピング現象(ポンプの原理)と呼びます。タンスの引き出しを押し込むと、他の引き出しが出てくるのと同じ原理です。

c.クリーニングによる劣化

 防塵衣劣化の最大の原因はクリーニングです。防塵衣には、縦または縦横の格子状に黒い糸(導電糸)が織り込んであります。静電気を逃がす目的です。クリーニングの回数を重ねると、この黒い糸が徐々に擦(す)り切れてきます。すると、静電気が発生しても逃げ道が遮断(しゃだん)され、中々減衰しません。そこにパーティクルが引き寄せられ付着するのです。定期的な静電気性能を確認し、劣化が確認されたら交換していくことが必要です。

d.食品関係の防塵衣について

 本原稿は、電気、電子、精密、機械などのものづくりを対象にした話題を解説、説明しています。医薬、食品は対象外ではありますが、心配になっていることがあるので取り上げます。古い話になりますが、中国で食の問題がありました。この時、日本の食品業界は大丈夫かと、TVで取材して放映されたことがありました。TV局のクルーが、ある食品会社を訪問した時のものです。

 まず会社の役員の方がTVカメラを引き連れクリーンルームへ入って行く風景でした。防塵衣に着替え、手袋をして、靴洗い機で靴を洗い、エアシャワーを浴び、クリーンルームに入って行きました。雑菌なども持ち込まないよう靴も洗浄されていることがよく分かりました。

 クリーンルーム内での説明のあと「当社の原材料は外の倉庫に保管してある、それも見てください」と言って裏口から出て行ってしまいました。エアシャワーもなく、1枚の扉の向こうは外でした。そして倉庫の中の状態をみせ「うちはこんな風にしっかり管理しています」と話し、また先ほどの裏の扉からクリーンルームに入ってしまいました。私はこの時“なぜ防塵衣を着用するのか理解されていない”と思いました。特に食品ですから心配になります。着用したまま屋外に出ると、微生物やバクテリアなどが付着する可能性があります。もっと大きい昆虫なども付くかも知れません。それを持ち込むことになると、クリーンルーム内はバクテリアや微生物、昆虫などは住みやすい(生きやすい)環境でもあるのです。エサや水があり、適度な室温ですから、産卵もするでしょう。

 会社の経営者や管理監督者がやっているので、恐らく作業者も疑問を持たず、同じことをしていると容易に想像できます。そしてそれらの持ち込みも多いでしょう。消費者が購入した製品中にそれらが入っていたら、大きなクレームになります。もしかすると出荷した全品を回収することになるかもしれません。衛生上の問題ですから、会社の信頼性やイメージも損ねてしまいます。

 もう一つ、最近、TV番組やCMなどで防塵衣を着用して屋外で集合写真を撮っている風景を見掛けることが多々あります。もちろん、食品業界だけではありません。これも、何のために着用の目的を理解しているのか疑問に思います。白い服を着て安心してしまう例です。単に画像を見ているだけでなく、おかしいと感じてもらいたいのです。

 次回は防塵衣の劣化による静電気の問題と、なぜ防塵衣に着用順があるのかについて説明します。

 

 【用語解説

 [1]管理清浄度:クリールーム空間の清浄度合いを等級分けしたものを「清浄度」といいます。清浄度の等級・クラスは、『アメリカ連邦規格』(Fed.Std.209E)と、『JIS方式』(B9920)、『ISO規格』(14644-1)に大別されます。 

◆関連解説『環境マネジメント』

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この記事の著者

清水 英範

在社中、クリーン化25年の経験、国内海外のクリーン化教育、現場診断・指導多数。ゴミによる品質問題への対応(クリーン化活動)を中心に、安全、人財育成等も含め多面的、総合的なアドバイス。クリーンルームの有無に限らず現場中心に体質改善、強化のお手伝いをいたします。

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