◆「気づき」能力向上のカギは製品開発経験の活用
前回は、日本の多くの開発現場で「組み合わせ型」アーキテクチャの製品を「擦り合わせ型」の仕組み(組織能力や環境)で開発するという「ねじれ」が生じていること、「ねじれ」のない「擦り合わせ型」開発においても多大な手戻りや調整が発生していること、そして、このような状況が製品開発を非効率なものにしていることを図12を使用して指摘しました。
図12.「組み合わせ型」と「擦り合わせ型」のマネジメントの違い
しかし、日本人技術者の擦り合わせ能力が高いことは多くの人が認識していることであり、高い競争力を持つためにはこの能力を活かした開発の仕組みを構築することが重要であること、そして、そのためには、「調整」の仕組みと「気づき」の仕組みを構築する必要があることを述べました。「調整」の仕組みについては既に解説しましたので、今回は「気づき」の仕組みについて解説します。
「擦り合わせ型」開発は、現場の技術者が高い「気づき」能力を持っていることが前提の開発スタイルです。 技術者自らが、現場で起きている問題を把握し、その重要性を判断し、解決に向けて行動を起こすことが様々な「擦り合わせ」活動となっているのです。
トヨタ生産方式の「自働化」でも、人の「気づき」の重要性を説いています。「見える化」によって様々な問題が見えるようになったとしても、その問題の中から対処すべき問題を選択する必要が生じます。この対処すべき問題(解決の優先順位が高い問題)を選別する処理を、「自動化」するのではなく人の知恵を持った目で選別することが、にんべんのついた「自働化」ということです。「自働化」とは、ひとの創造性を活かした問題への対応行動であり、見える化されたものから重要なものを選別する能力が「気づき」能力だと考えられます。
擦り合わせ能力の高さは日本の技術者が持つ DNA で、「気づき」能力についても、高いレベルにあることは間違いないでしょう。ただ、最近の開発現場では、この「気づき」能力が低下してきているようで心配です。技術者の中に、指示がないと動かない、他の人の仕事内容に興味を持たない、自分の担当範囲外のトラブルには関心を持たないなど、気になる行動が増えているような気がします。技術者個人が持っている「気づき」能力に期待するだけではなく、「気づき」能力向上を製品開発の仕組みの中で考えなくてはいけないのでは...