感性工学・感性価値 :新環境経営 (その35) 

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 新環境経営への取組みについての話題を提供するに当たり、経済成長に邁進してきた中で発生した公害の歴史、CSRの取組の変遷、環境マネジメントシステム、有害物質管理の現状、エネルギーマネジメント、エコを経営に活かす、その後省エネ、創エネ、畜エネについて紹介してきました。今回からは、今後の新環境経営について、感性工学の解説です。
 

1. 「感性工学」とは

 持続可能経営を考える上で押さえておかなければならない学術分野があります。それは「感性工学」です。日本学術会議の専門委員会が平成15年から17年にかけて活動し、平成17年8月30日に「現代社会における感性工学の役割」として報告書がまとめられています。ポスト工業化社会の新しい目標として、「 物や金」という価値に代わる、新しい商品開発や、新しいシステムの構築には「感性工学」の活用が必要です。以下は、この報告書からの要旨です。
 

(1) 現代社会の問題点

・物質中心の科学技術がもたらしたものには、高効率生産などの優れた側面と、人口爆発、環境汚染、資源枯渇、人心荒廃などの負の側面とがあります。
 
・社会は、世界的な競争時代に突入しており、従来の物質科学技術のさらなる発展によって、この競争社会を乗り切ろうとする動きがあります。しかし物質科学技術の発展のみでは、新たに出現する解決の困難な問題に適切に対応することはできません。
 
・大量生産大量消費の生産流通システムは、拝金主義、物質主義の弊害を増大させ、人々の精神的荒廃を示すような社会的状況を生み出しています。また、巨大化した製造企業は、生産実態を把握することができず、形骸化して利益を上げることが難しくなっています。人々の関心は、物の取得の欲求以外に、価値の交換をする欲求に移りつつありますが、これに対する社会的基盤の整備がなされていません。
 
・従来の工学は、人間の物質取得欲を満たすための科学技術でしたが、今後は人間の交換欲求(価値の交換)を満たすような工学が産業・経済・文化を支える科学技術の中心になります。この役割を担うのが「感性工学」です。
 
・「感性工学」は、自然、人文、社会の各分野で個別に発展してきた科学技術を感性という人間力の観点から再構築することにより、豊かで安全な社会を作るための実践的工学として創始された学問分野です。
 
 このように、工業化社会からポスト工業化社会への移行は既に始まっています。これに伴って、経営のかじ取りは、上記の現代社会の問題点を押さえていく必要があります。この取り組みが、おもてなしの文化を持つ日本発である事。戦後、欧米から多くの制度を輸入してきましたが、課題ばかりの先進国日本で、ようやく世界をリードする考え方が生まれました。
 

(2) 感性工学会設立の趣旨

・感性工学会設立の趣旨は、「従来の工学に社会学や人文科学などを融合し、人間力である感性を総合的に活用する新しい科学技術として感性工学を創出することにより、工業化社会がもたらした公害や人間疎外などのマイナスの現象を解決し、調和のとれた豊かな社会の形成に資する」
 
 新たに作られた「感性工学」は、学者がポストを確保するための官学のたくらみの要素もあると思いますが、まとめられたメッセージには同意できます。これまでの時代を引っ張ってきた競争を最優先する社会は限界を迎え、これからは共生の社会を目指さねばならないでしょう。日本は停滞の20年の悶々とした時期を経て、心底から目指さなければならない方向が見えてきました。持続可能経営には、共生が先に来なければなりません。これを実現するために感性工学があります。
 

(3) 現代社会における感性工学の役割

・人類は、時代の変革期に、あたかも古い時代の殼を脱いで新しい特性の衣を纏うように時代を転換してきました。その度に、多くの人々の人命が失われ、文化遺産が破壊され、文明が荒廃しました。しかし、現在の我々にはとてつもなく危険な地雷が頭上に掲げられており、過去におきたようなドラスティック
な方法で新しい世界を迎えることは望めないでしょう。激しい社会的変革(例えば第三次世界大戦)が起こったときには、人類は壊滅的打撃を受けるに違いないでしょう。どのようにしたら時代の転換を静かに大規模に進めることができるのか、これが現在を生きる我々の設題です。
 
・転換するもの...
CSR
 新環境経営への取組みについての話題を提供するに当たり、経済成長に邁進してきた中で発生した公害の歴史、CSRの取組の変遷、環境マネジメントシステム、有害物質管理の現状、エネルギーマネジメント、エコを経営に活かす、その後省エネ、創エネ、畜エネについて紹介してきました。今回からは、今後の新環境経営について、感性工学の解説です。
 

1. 「感性工学」とは

 持続可能経営を考える上で押さえておかなければならない学術分野があります。それは「感性工学」です。日本学術会議の専門委員会が平成15年から17年にかけて活動し、平成17年8月30日に「現代社会における感性工学の役割」として報告書がまとめられています。ポスト工業化社会の新しい目標として、「 物や金」という価値に代わる、新しい商品開発や、新しいシステムの構築には「感性工学」の活用が必要です。以下は、この報告書からの要旨です。
 

(1) 現代社会の問題点

・物質中心の科学技術がもたらしたものには、高効率生産などの優れた側面と、人口爆発、環境汚染、資源枯渇、人心荒廃などの負の側面とがあります。
 
・社会は、世界的な競争時代に突入しており、従来の物質科学技術のさらなる発展によって、この競争社会を乗り切ろうとする動きがあります。しかし物質科学技術の発展のみでは、新たに出現する解決の困難な問題に適切に対応することはできません。
 
・大量生産大量消費の生産流通システムは、拝金主義、物質主義の弊害を増大させ、人々の精神的荒廃を示すような社会的状況を生み出しています。また、巨大化した製造企業は、生産実態を把握することができず、形骸化して利益を上げることが難しくなっています。人々の関心は、物の取得の欲求以外に、価値の交換をする欲求に移りつつありますが、これに対する社会的基盤の整備がなされていません。
 
・従来の工学は、人間の物質取得欲を満たすための科学技術でしたが、今後は人間の交換欲求(価値の交換)を満たすような工学が産業・経済・文化を支える科学技術の中心になります。この役割を担うのが「感性工学」です。
 
・「感性工学」は、自然、人文、社会の各分野で個別に発展してきた科学技術を感性という人間力の観点から再構築することにより、豊かで安全な社会を作るための実践的工学として創始された学問分野です。
 
 このように、工業化社会からポスト工業化社会への移行は既に始まっています。これに伴って、経営のかじ取りは、上記の現代社会の問題点を押さえていく必要があります。この取り組みが、おもてなしの文化を持つ日本発である事。戦後、欧米から多くの制度を輸入してきましたが、課題ばかりの先進国日本で、ようやく世界をリードする考え方が生まれました。
 

(2) 感性工学会設立の趣旨

・感性工学会設立の趣旨は、「従来の工学に社会学や人文科学などを融合し、人間力である感性を総合的に活用する新しい科学技術として感性工学を創出することにより、工業化社会がもたらした公害や人間疎外などのマイナスの現象を解決し、調和のとれた豊かな社会の形成に資する」
 
 新たに作られた「感性工学」は、学者がポストを確保するための官学のたくらみの要素もあると思いますが、まとめられたメッセージには同意できます。これまでの時代を引っ張ってきた競争を最優先する社会は限界を迎え、これからは共生の社会を目指さねばならないでしょう。日本は停滞の20年の悶々とした時期を経て、心底から目指さなければならない方向が見えてきました。持続可能経営には、共生が先に来なければなりません。これを実現するために感性工学があります。
 

(3) 現代社会における感性工学の役割

・人類は、時代の変革期に、あたかも古い時代の殼を脱いで新しい特性の衣を纏うように時代を転換してきました。その度に、多くの人々の人命が失われ、文化遺産が破壊され、文明が荒廃しました。しかし、現在の我々にはとてつもなく危険な地雷が頭上に掲げられており、過去におきたようなドラスティック
な方法で新しい世界を迎えることは望めないでしょう。激しい社会的変革(例えば第三次世界大戦)が起こったときには、人類は壊滅的打撃を受けるに違いないでしょう。どのようにしたら時代の転換を静かに大規模に進めることができるのか、これが現在を生きる我々の設題です。
 
・転換するものは、我々の意識です。弱肉強食の意識から共生幸福への意識改革です、弱肉強食の意識は、異なった物や異なった考え方を抹殺し排除する意識です。強い者が正義であり、弱者は強者によって搾取され飲み込まれます。その先にあるものは、強者一人だけの世界であったとしても、強者は生き残る運命にあると考えます。しかし、もはやこのような論理が通用することはないでしょう。共生幸福の意識、他者の存在を受け入れ、他者との価値の交換を行うのです。共生幸福の意識の中心となる物は、交換の能力である感性です。交換の価値は、「感性価値」である。共生幸福の意識改革は、感性の意識改革です。
 
 「金」を超える交換の価値として「感性価値」があります。「感性価値」を交換して、経営を継続させてきた日本の老舗企業は多いでしょう。過去からの日本の企業が培ってきた「感性価値」交換の知恵に光を当て、持続する経営に取り組む時代が到来しました。
 
 今回は、「感性工学」の存在、趣旨、役割を解説しました。これからしばらくは、「感性工学」の中身について、解説します。
 

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この記事の著者

石原 和憲

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