1. 労働災害リスク
ビジネス界では常にさまざまなリスクを考慮しながら経営を実行しています。経営はリスクと裏腹ともいえるでしょう。物流も例外ではありません。むしろ他産業よりもリスクの大きな業界といえるかもしれません。そこで今回は、物流リスクマネジメントについて考えてみたいと思います。
平成28年度の労働災害保険料率を見てみましょう。貨物取扱事業は1000分の9、倉庫業も1000分の7です。一方で、金属材料品製造業は1000分の5.5、電気機械器具製造業は1000分の3です。一般的に物流関連業は製造業よりやや危険度が高いと推測されます。つまり、労働災害のリスクについて物流業は慎重に対応する必要があるということです。重いものを扱う際に腰を痛めることがあります。このような仕事には補助具を導入するなどの措置を取ることが望ましいでしょう。
また、トラック運送事業の場合、公道を使って仕事をしますので、他車輛や人との接触リスクが存在します。運輸安全マネジメントに沿った活動を行なうなどして他社への加害をはじめとする交通事故リスクを軽減する必要があります。フォークリフト荷役は非常に大きなリスクを抱えています。たとえば荷役中にフォークリフトの爪で何かを刺してしまう危険があります。この対象が倉庫内の柱やパレットなどであればまだよいのですが、人でしたら大変なことになります。大けがあるいは死亡事故の可能性もあり得るのです。
フォークリフトで荷役中に転倒すればその下敷きになって作業員が死亡する事故も発生しています。フォークリフトを使う職場では入念なリスク管理が必要でしょう。トラックへの荷物の積み降ろし時も注意が必要です。トラックから転落して大けがあるいは死亡という重大災害が発生する可能性があるからです。
このように物流の仕事では労働災害リスクがたくさん潜んでいます。ヒヤリハット制度を導入するなどして隠れたリスクを顕在化させ、あらかじめ対策を施しておくことが望ましいと思われます。多種多様の商品を扱う物流倉庫では別のリスクも考えておく必要があります。それが盗難リスクです。物流事業者がお客様の荷物を預かる寄託業では盗難は致命的です。自社の社員やパート、アルバイト社員などを疑いたくない気持ちはわかります。しかし実際問題として盗難はゼロではありません。
2. 盗難リスクと有事への対応
物流倉庫ではお客様の商品を預かっています。この契約を寄託契約と呼びます。お客様から出庫指示があればその商品をタイムリーに出庫することが求められます。この物流倉庫ではいろいろな商品を扱っていますが、残念ながら盗難はゼロにはなりません。日本では盗難頻度は少ないことがせめての救いであるといえます。ですから最低限の盗難対策を実施することは企業におけるリスクマネジメントの一つになります。従業員が持ち物を移動する際には必ず会社指定の透明バッグを使うという措置も必要でしょう。
また、倉庫内に防犯カメラを設置することもリスクマネジメントとして有効です。そして定期的に棚卸を行うことで数の管理をしっかりと行うことも必要でしょう。商品の数が合わなくなる要因は盗難だけではありません。入庫した時にそもそも数が狂っていたことも考えられます。必要に応じて入荷検品を行うこともリスクマネジメントの一つになります。保管方法もきちんと行われていないとモノを無くしたりどこにあるのか分からなくなったりします。この意味で、しっかりと5S活動を実施することも物流リスクマネジメントにつながることを覚えておきましょう。
別の視点でのリスクマネジメントについて見ていきましょう。日本では地震も多く発生し、火災はそれ以上の確立で起きることが予測されます。このような「有事」の際にどのような行動を取るのかについても日常で考えておくべき事項だと思います。インフルエンザなどの流行病もその一つです。地震やインフルエンザの流行などは従業員の出勤に支障をきたします。
普段集まる必要人員が、このような有事には大幅に不足する可能性があります。会社は常時余剰人員を抱えているわけではありませんので、有事の際には仕事に支障が出ます。従業員が半分しか出勤できなかった際にはどの仕事を優先させるのでしょうか。このような想定で業務の優先順位付けを行い、それに人を集中させる訓練を行っておくことが望ましいでしょう。そのためには日頃から技能訓練を実施し、どのような仕事でもできるようにしておくことが求められるのです。
3. コンプライアンスリスク
物流リスクマネジメントの一つとしてコンプライアンスリスクが挙げられます。コンプライアンスリスクの多くは物流事業者が法令を犯してしまうことで発現します。その一つは過積載です。トラック能力を上回る荷物を積載する重量オーバーは道路や橋梁に影響を与えます。社会インフラを破壊する重量オーバーは許すわけにはいきません。警察も重点的に過積載を取り締まっていますが、これが一定のレベルを超えると業務停止処分につながります。
仮に荷主からもっと積むように言われても、直接的に罰則の適用を受けるのは物流事業者です。荷主側も荷主勧告制度による罰則がありますが、業務停止は物流事業者に科されるのです。過積載と共に問題となるのが速度超過です。荷主の出荷が遅れたために急いでトラックを走らせることもあるのでしょう。しかし同様に直接的な罰則は事業者が受けることになります。
トラックドライバーの労働時間超過も同様です...