東南アジアでの工場操業で、日本人マネジメントの悩みの一つに現地人の会社へのロイヤリティ(忠誠心)があげられます。現地人は、虎視眈々と次の「少しでもいいサラリーの会社」へ転職することを望んでいます。「折角日本の本社まで連れて行き、研修をさせたのに・・・」と嘆きの言葉を、私は何度聞かされたことでしょう。
これからご紹介する話は、「災い転じて福となす」ではありませんが、現地人の会社へのロイヤリティについて考えるヒントになります:
フィリピンのあるメッキ加工会社の社長さんから聞かされた実話です。聞けば同社は、社員の定着率がなんと85%。正社員は、まず辞めないそうです。なぜでしょうか。
同社では、若くて優秀な人材を積極的に日本の親会社へ半年間~1年間の現場研修を受けさせています。と、ここまでは、どこでも行われていることではないか、と思われます。しかし、ある事件をきっかけに、現地人の会社への忠誠心が芽生えるのです。
ある日、日本の本社工場で研修中のフィリピン人男性従業員が出社してこない。探した結果、彼は寮の自室で息を引き取っていました。身体のどこかに持病を患っていたのか、心臓に持病があったのかどうかは分かりませんが、前日までは元気でした。
同社の社長がフィリピンの実家へと連絡をとり、親の要望で火葬せず遺体はそのまま飛行機で本国へと送ることになりました。(これは大変コストがかかったそうです。)彼には日本へ来る前に保険がかけられていましたので、死亡した彼の親へ数百万円の保険金が渡されることになりました。社長は遺体とともに現金を持ってフィリピンへ渡り、同社のフィリピン工場の会議室で彼の母親へ保険金を手渡しました。
「ぜったいに口外しないように」と社長は母親へ再三口止めをしました。しかし、この事実はすぐにフィリピン工場の従業員へと知れ渡ることになったのです。このとき、おそらくフィリピン人従業員のほとんどは、こう思ったに違いありません。「なるほど、この会社は、一生面倒見てくれるのかもしれない。家族を守っ...