中国・華南生産品質の実情 ―電気電子製品生産に関する現地現場からの報告―

投稿日

1.はじめに

 筆者は10年余りにわたり、もの作りコンサルタントとして華南での委託生産の生産効率や品質管理に携わってきました。今回は彼らの品質管理の特徴と課題を中心に述べたいと思います。品質の指導やリスクをミニマイズすることに役立てていただければ幸いです。

 

2.委託先における品質管理の特徴

 華南における企業の主体は、中国現地の市など地方政府からの誘致を受けた日系はじめ香港系、台湾系の企業です。多くは1990年代に進出し、2000年前後にISO9001の品質管理システム(QMS)の認証を受けています。日本企業も彼らを活用し、部品や装置の委託生産を行っています。以下に彼らの品質管理の特徴を述べてみましょう。

  1.  ISO9001の認証は取得: 委託生産の対象となるすべての企業は認証を取得済み。筆者が見た管理のレベルは満足といかないまでも一定以上と思える。
  2. 品質管理部門はライン: 日本では品質管理部門はスタッフの感があるが、QMSの管理以外は、IPQC(In-Process Quality Control)に代表されるようにラインである。
  3. 生産プロセスのデータ取得: 受け入れ検査、SMT(電子部品自動表面実装)、完成品組み立て、完成検査など各プロセスの品質データはよく取得されている。
  4. データの活用: せっかく取得した貴重なデータの分析や有効活用に課題がある。統計的品質管理の域に達している企業は希少。
  5. 不具合や改善への分析: 不具合の徹底した4Mやなぜなぜの繰り返し分析、改善のためのPDCAや関連/時系列データ分析に難がある。
  6. 品質管理の人材: 品質管理の主な業務はQMS管理とクレーム処理で、データの分析や改善のためにPDCAを回す余裕はない。経営的に人材資源投入や教育も消極的。客先に要求されれば行うというレベル。
  7. QC工程図、作業手順書: 生産技術者によってこれらのドキュメントは必ず準備されている。実作業でも徹底して利用されている。
  8. 追跡システム構築: 組み立てや検査の日時や作業者担当者は記録され明確化されている。ただ、指導・改善の目的よりは責任追及の感が強い。

 以上主なものを挙げてみました。概してうわべの管理はそれなりによくされていると思いますが、改善に結びつけるきめ細かな活動や品質管理への経営者意識には課題があるといえます。

 

3.品質管理の要点

 次に日本企業が生産を委託する場合、品質リスクをミニマイズするポイントを述べてみます。

  1. サンプルを作らせる: 特にOEM,ODMでは不可欠。製品への理解度向上にも有効。評価し仕様に合えば認証し、相互にマザーサンプルとして保有。
  2. 承認図や関連資料の承認: 委託先が作成した仕様書、図面を確認し承認する。
  3. リスクある作業工程はQC工程図や作業手順書を確認し、意図を反映。
  4. 不具合が発見されれば、現象や写真を添付し改善要求。
  5. 継続的不具合の場合は、社内データを開示させ分析させる。作業手順書やラインに反映させる(例: 重要工程)
  6. コミュニケーションの継続で品質要求を認識継続させる。
  7. その他: 変更管理などは不得意なので変更をできるだけ避ける。

 国内では当然なことを、異言語、異文化、長距離の状況下で実施するのは、きめ細かさや粘り強さが要ります。しかし、一定の品質確保にはそれぞれが必要なことと考え、当方のセミナーでも強調してきました。

 

4.品質管理の指導例

 当方はEMSや発注する側の現地日系企業の品質指導を行ってきました。その一部をご紹介いたします。

  1. 管理ツールの紹介: 品質管理やその他のマネージメントにも使用できるツールを紹介し、使い方のトレーニングを実施しました。下の表はその例の一部です。QC7tools
  2. Excelを使用した品質管理のトレーニング: 下の図は工程能力のグラフ化の例です。工程能力指数 中国語

 品質への関心や意識を高めるため...

1.はじめに

 筆者は10年余りにわたり、もの作りコンサルタントとして華南での委託生産の生産効率や品質管理に携わってきました。今回は彼らの品質管理の特徴と課題を中心に述べたいと思います。品質の指導やリスクをミニマイズすることに役立てていただければ幸いです。

 

2.委託先における品質管理の特徴

 華南における企業の主体は、中国現地の市など地方政府からの誘致を受けた日系はじめ香港系、台湾系の企業です。多くは1990年代に進出し、2000年前後にISO9001の品質管理システム(QMS)の認証を受けています。日本企業も彼らを活用し、部品や装置の委託生産を行っています。以下に彼らの品質管理の特徴を述べてみましょう。

  1.  ISO9001の認証は取得: 委託生産の対象となるすべての企業は認証を取得済み。筆者が見た管理のレベルは満足といかないまでも一定以上と思える。
  2. 品質管理部門はライン: 日本では品質管理部門はスタッフの感があるが、QMSの管理以外は、IPQC(In-Process Quality Control)に代表されるようにラインである。
  3. 生産プロセスのデータ取得: 受け入れ検査、SMT(電子部品自動表面実装)、完成品組み立て、完成検査など各プロセスの品質データはよく取得されている。
  4. データの活用: せっかく取得した貴重なデータの分析や有効活用に課題がある。統計的品質管理の域に達している企業は希少。
  5. 不具合や改善への分析: 不具合の徹底した4Mやなぜなぜの繰り返し分析、改善のためのPDCAや関連/時系列データ分析に難がある。
  6. 品質管理の人材: 品質管理の主な業務はQMS管理とクレーム処理で、データの分析や改善のためにPDCAを回す余裕はない。経営的に人材資源投入や教育も消極的。客先に要求されれば行うというレベル。
  7. QC工程図、作業手順書: 生産技術者によってこれらのドキュメントは必ず準備されている。実作業でも徹底して利用されている。
  8. 追跡システム構築: 組み立てや検査の日時や作業者担当者は記録され明確化されている。ただ、指導・改善の目的よりは責任追及の感が強い。

 以上主なものを挙げてみました。概してうわべの管理はそれなりによくされていると思いますが、改善に結びつけるきめ細かな活動や品質管理への経営者意識には課題があるといえます。

 

3.品質管理の要点

 次に日本企業が生産を委託する場合、品質リスクをミニマイズするポイントを述べてみます。

  1. サンプルを作らせる: 特にOEM,ODMでは不可欠。製品への理解度向上にも有効。評価し仕様に合えば認証し、相互にマザーサンプルとして保有。
  2. 承認図や関連資料の承認: 委託先が作成した仕様書、図面を確認し承認する。
  3. リスクある作業工程はQC工程図や作業手順書を確認し、意図を反映。
  4. 不具合が発見されれば、現象や写真を添付し改善要求。
  5. 継続的不具合の場合は、社内データを開示させ分析させる。作業手順書やラインに反映させる(例: 重要工程)
  6. コミュニケーションの継続で品質要求を認識継続させる。
  7. その他: 変更管理などは不得意なので変更をできるだけ避ける。

 国内では当然なことを、異言語、異文化、長距離の状況下で実施するのは、きめ細かさや粘り強さが要ります。しかし、一定の品質確保にはそれぞれが必要なことと考え、当方のセミナーでも強調してきました。

 

4.品質管理の指導例

 当方はEMSや発注する側の現地日系企業の品質指導を行ってきました。その一部をご紹介いたします。

  1. 管理ツールの紹介: 品質管理やその他のマネージメントにも使用できるツールを紹介し、使い方のトレーニングを実施しました。下の表はその例の一部です。QC7tools
  2. Excelを使用した品質管理のトレーニング: 下の図は工程能力のグラフ化の例です。工程能力指数 中国語

 品質への関心や意識を高めるために、ビジュアル化に心がけた指導をました。しかし、どこの企業にもできたかというと、そうではなく品質管理部門のスタッフのレベル、経営者の関心などに依存した活動とならざるを得なかったのが実態です。さらに活動の定着のために指導のプログラムを組み、理解度や実用テスト、合格認定まで行うには、関心度や時間、予算を考えると極めて限定的であることに残念さを感じます。

 

5.終わりに

 以上、華南における電子機器生産の例でご報告申し上げました。

 今インドシナ半島諸国が生産拠点として注目されていますが、部材供給や貿易インフラを見れば、当面は中国への生産依存に揺るぎはないと考えられます。特に華南地区のEMSや専門メーカへの委託生産に依存する日本企業は依然として多いと思われ、品質管理は最大関心事であることに変わりはありません。

 品質への課題は尽きないと思われますが、この投稿が生産品の品質管理に少しでもお役にたてば幸甚に存じます。

   続きを読むには・・・


この記事の著者

青山 利幸

中国進出・委託生産支援のプロ。中国華南での経験と最新情報をベースに、海外戦略に関し実行実現を見据えて適確にアドバイスします。

中国進出・委託生産支援のプロ。中国華南での経験と最新情報をベースに、海外戦略に関し実行実現を見据えて適確にアドバイスします。


「海外事業進出」の他のキーワード解説記事

もっと見る
グローバルスタンダードに席捲されるモノづくり―日本が今後主導すべき分野は?―

1.はじめに  香港を拠点に華南地区のモノ作り現場に携わって10年余りが経ちました。この間、ISOをはじめとするグローバルスタンダードの浸透を常に意識せ...

1.はじめに  香港を拠点に華南地区のモノ作り現場に携わって10年余りが経ちました。この間、ISOをはじめとするグローバルスタンダードの浸透を常に意識せ...


 ―中国華南の現場から―海外生産 納期対策最前線

1.海外生産納期事情(はじめに)  筆者は10年余りにわたり、電子機器のものづくりコンサルタントとして華南での汎用機器や業務用機器の生産に携わってきまし...

1.海外生産納期事情(はじめに)  筆者は10年余りにわたり、電子機器のものづくりコンサルタントとして華南での汎用機器や業務用機器の生産に携わってきまし...


応募の際のコツ 補助金活用で海外進出 (その2)

 前回、補助金の活用で海外進出の足掛かりをつかむ! その1で、制度の種類と概要を解説しました。本稿では、特に「中小企業の海外展開」を目的とする公的支援制度...

 前回、補助金の活用で海外進出の足掛かりをつかむ! その1で、制度の種類と概要を解説しました。本稿では、特に「中小企業の海外展開」を目的とする公的支援制度...


「海外事業進出」の活用事例

もっと見る
国際生産成功のための基本的要点(その3)

 前回のその2に続いて解説します。第3回はベネズエラの続きです。当時、ベネズエラは石油資源で潤っていて、このプロジェクトも石油資源から得られる資金をもう一...

 前回のその2に続いて解説します。第3回はベネズエラの続きです。当時、ベネズエラは石油資源で潤っていて、このプロジェクトも石油資源から得られる資金をもう一...


国内マザー工場を中心とした海外拠点の省エネ展開事例

 省エネルギーは1973年(昭和48年)の第一次オイルショックに端を発し、 以降第二次オイルショックを契機に本格的な取り組みへと移ってきています。そして地...

 省エネルギーは1973年(昭和48年)の第一次オイルショックに端を発し、 以降第二次オイルショックを契機に本格的な取り組みへと移ってきています。そして地...


国際生産成功のための基本的要点(その2)

 前回のその1に続いて解説します。日本の技術移転の先駆者は、そのミッションを心得え、方針を立て、戦略を練って、パッションを持ってコトに当り、日本の誇れる仕...

 前回のその1に続いて解説します。日本の技術移転の先駆者は、そのミッションを心得え、方針を立て、戦略を練って、パッションを持ってコトに当り、日本の誇れる仕...