今回は、自分の仕事を見直してみるための手法である「ジョブ・クラフティング (Job Crafting)」を紹介します。
仕事に関する悩みは大きく、「今年こそは転職しよう、でも、今よりも良いところに転職できるかどうかわからないから今のところで我慢することにしよう」と逡巡した思いをずっと抱えながら仕事を続けていることもあるでしょう。期待や希望を胸にもっとイキイキと仕事したいと異動や転職に踏み切るのも悪くありませんが、実行に移す前に今の自分の仕事を見直してみるのもいいはずです。今回は、そのための方法・手法である「ジョブ・クラフティング (Job Crafting)」を紹介したいと思います。
ジョブ・クラフティングとは、「個々人が仕事や人間関係を物理的、心理的、認知的に変化させること」(Wrzesniewski and Dutton, 2001)と定義されていて、その特徴は、会社や上司の指示ではなく、自分で自らの仕事に工夫を加えることであり、大切なのは、仕事や役割によって自分がコントロールされるのではなく、自分が仕事をコントロールしていることを実感するということです。実施方法は様々ですが、今回はミシガン大学で開発されたエクササイズを参考にして実施した演習を紹介します。
まず最初に、現在の仕事を振り返って一つひとつポストイットに書き出します。このとき、もっとも多くの時間やエネルギーを使っているものは大きなポストイット、中程度のものは中くらいのポストイット、小程度のものは小さなポストイットにその仕事内容を書きます。仕事のサイクルに合わせて、1週間、あるいは、1ヶ月というように振り返ってみてください。
ある設計を行っているリーダーを例にとって説明しましょう。図180のようにして、今の仕事を大中小に分けてポストイットに書き、どんなことを感じるのか、どうしてそう感じたのか、自問自答します。自分の仕事を見える化することで、いろいろと気づきを得ることがあります。このリーダーは、「こうやって見ると、上司やお客さんに振り回されていることばかりで、技術者としてのレベルアップや新しいことにはほとんど時間を使えていないなぁ」と言っていました。
図180. 現在の仕事
次に、自分が大切にしている価値(Value)、情熱(Passion)、強み(Strength)をそれぞれ2〜4個ポストイットに書きます(図181)。価値は、仕事や生活をする中で自分が大切だと考えていることや成果です。情熱は、やっているときにワクワク、イキイキする行為です。強みは、才能や技能をもとに実際に外に現れている能力です。
図181. 価値・情熱・強み
そして次に、自分がやりたい仕事をポストイットに書き出します(図182)。このとき、新たにポストイットを作成しても、最初に作成した「現在の仕事」にあるものをそのまま使っても、文章を追加して使ってもかまいません。今の仕事でも、問題を解決することに関係することは続けた上で、さらに新製品開発など何か新しいことに挑戦できる仕事がしたいということでした。ただし、仕事に追われるのではなく、しっかりと自分のための時間を確保して、新しいことをやるための勉強ができる余裕を持ちたいとも言っていました。
図182. やりたい仕事
最後に、やりたい仕事に「価値・情熱・強み」を関連づけるとともに、目標や役割によって仕事をグルーピングします(図182)。このとき、新たに仕事を追加したり、文章を追加・修正してもかまいません。このリーダーの場合、いろいろと工夫や調整をすることで困っている人たちの問題を解決してあげることに価値を感じ、自分の強みや情熱も発揮することができるということでした。加えて、仲間を作って自分から積極的に新しいことに挑戦することが自分にとって大切だということでした。
図183. 整理したやりたい仕事
ポストイットを動かしながら自分の仕事を見直すことによって、仕事同士がどのように関係しているのか、自分の価値観や能力とどう関係しているのかなどを明確に認識することができます。そして、誰のために仕事をするのか、どうしてそうなのかを考えることで、やりたいことに対する理解を深めることができます。さらに、「整理したやりたい仕事」を現実のものにする際の障害や問題を考えます。これによって、今から自分は何をすべきなのかが明確になるのです。
このリーダーは演習の最後に次のような発表をしました。
「これまでの自分は、不満に感じながらも上司から与えられたことをやり遂げることが仕事だと思っていた。上司から評価してもらえる結果を出すことが大切だった」「でも、サブリーダーのときに自分が責任をとるからと上司を説得して、これから重要になると考えていた新技術の採用を決め、苦労しながらもメンバーと協力して実際の製品に組み込んだことを思い出した」「開発しているときは本当に苦しかったが、リリースできたときの喜びは大きく、チームメンバーとはずっと強い絆で結ばれている。顧客の反応もとてもよく、多くの感謝の言葉を聞くことができたプロジェクトだった。」
「今、必要なのはこのときのような積極性だとわかった。...