1.設計標準はベストコストのガイドライン
前回のその1に続いて解説します。一部の大手製造業では、コスト意識を高めてベストコストでの製品設計を実現するために、設計標準をしっかりと設定しています。設計標準は、製品設計において、ある一定の品質を維持でき、業務の合理化や能率化、費用の削減を目的に設計仕様を取り決めておくことです。この説明ですと、コストがどこにあるのかという疑問が出るかもしれませんが、それは、ある一定の品質を確保するという中に、最適なコストで達成できることが含まれています。一つの製品を作るにあたって設計者は、様々な構造や構成を考えることができます。それが、部品点数や組立方法などの違いとなって、コストが大きく異なってきます。具体的な事例を考えてみましょう。
図1.動力軸
図1のような動力を伝達するための動力軸を設計しようとしています。設計者は、この図面を一体もので描きました。つまり、プーリーの直径よりも大きな丸棒材からすべて削り出していくことになります。既に上記に類似する動力軸が十数種類あります。具体的には、プーリー間のピッチが異なるだけで、他のシャフト部やプーリー部の径、プーリー幅などが同じであったのです。
一般に会社では、設計者の描いた図面の通りに作ることを考えます。製作する立場から考えるとこの動力軸は、プーリー外径よりも太い丸棒材からシャフト径まで結構な量を削ることになります。この場合、コストダウンは容易ではないでしょう。この動力軸について、プーリーとシャフト...
の2つに分けて、その2つを組合せるとしたらどうなるでしょう。削る量を大きく減らすことができますし、類似する動力軸も、同じ部品の組合せで済ますことができます。さらに、生産ロットを増やすことができ、コストダウンすることができます。
このように欲しい形状や性能に対して、その作り方(方法)は、様々にあるということです。そして、その欲しい形状や性能を満たすうえで、構造や構成と最適なコストの関係を知っておくことが必要です。しかし、コスト上の優位性を判断する能力は、多くの知識と経験を必要とします。
2.設計者の意識改革
以前にある会社の幹部の方から設計者の質を高めるには、どうしたらよいかという相談を受けたことがあります。ここで述べている質とは、社内で用いられている製品の構造や原価について、固定化してしまっているため、設計者の意識改革を行い、現状を打破したいという主旨でした。
ここで提案したことは、他の業界で設計の経験を持つ派遣社員を探して、社員の方たちと一緒に設計業務を遂行してもらい、刺激を与えるということです。派遣社員の方は、元大手の自動車メーカーで設計を担当されていました。自動車メーカーでは、早くから設計標準の整備がされており、要求される品質や性能に対してどのような構造や構成が、最適なコストになるかの選択基準をしっかりと持っているからです。この結果は、予想以上の成果をもたらしました。設計者の方たちが、従来の製品の構造や構成から抜け出すことができ、新しい構造や構成に対して強いコスト意識を持つことができるようになってきたのです。
設計標準は、特定の製品を誰が設計しても同じような品質と性能を発揮でき、安定させることができるとともに、開発期間を短縮し、最適なコストへのガイド役になるものです。つまり、設計標準を設定することによって、コスト上の優位性を判断する能力を短期間に高めることができます。
3.設計標準の作り方
それでは、設計標準を作成する手順について解説します。
① 設計標準を作成するにあたっては、まず自社の対象とすべき製品を決めます。
② 製品の大きさや材料、形状などの特徴を整理します。(製品分析)
③ 作る製品によって、必要になる設備機械が異なってきます。そのリストアップを行います。
④ 設備機械に関する詳細の加工工程を整理します。(工程の分析)
⑤ 設備機械に関するコスト情報の収集を行います。(コスト情報の収集)
⑥ 設備機械には加工限界があります。この加工限界を整理します。(加工限界分析)
⑦ 材料・部品のレベルに加工限界値を設定します。(設計標準基礎データ)
⑧ ユニットレベルでの品質や性能を、条件別にコスト情報に整備します。(ユニット別設計標準)
設計標準の一貫として、製品やサブアッセンブリなどを対象に、プロトタイプを設定して、標準化と部品の共通化を行います。プロトタイプをベースに製品の重量やサイズに応じたパラメータを求め、製品概算コストを求めます。しかし、単にプロトタイプを設定しただけでは、大きな効果を得ることはできません。ベースになる各部品について、最適なコストで設計されていることが重要になってきます。設計標準が、この最適なコストを追求していくために必要になってくるのです。
次回は、設計標準の必要性と作り方(その3)を解説します。