デザインによる知的資産経営:企業理念の具体化(その1)
2016-07-25
映画『風立ちぬ』(監督:宮崎駿)の中で、主人公の堀越二郎がジャンニ・カプローニ(イタリアの飛行機開発者)の言葉を夢の中で聞く場面があります。「夢は未来をつくる。技術は後からついてくる」「少年よ、君の夢はなんだ」「(飛行機を造りたいという二郎の意思表示に対して)美しい夢だ……設計者は夢にカタチを与えるのだ」。
この言葉は、図らずも本稿のテーマである「デザインによる知的資産経営」を言い当てているように思います。試しに「夢」を「企業理念」に置き換えると、「企業理念は未来をつくる。商品は後からついてくる」「商品開発者は企業理念にカタチを与えるのだ」となるのではないでしょうか。
企業理念とは、企業の存在意義を言葉で表現したものです。何のために企業が存在するのか、そのためにはどのような行動をとるべきなのかということにつながります。企業としての「夢」です。企業としての夢である企業理念を経営につなげるには、これを具体的な規範に落とし込まなければなりません。
企業理念に基づいて具体的な基準(規範)を策定することが必要であり、そのためには、自社の事業分野を深掘りすることが必要です。ここで注意すべきことは、深掘りのキーワードの本質は技術力ではないということです。技術は後からついてくるのです。
しかしながら、企業理念だけでは「夢」が漠然としすぎていることが多く、「未来をつくる」源泉としての力が弱いのです。すなわち、新しいものをつくり出すきっかけになりにくいということです。ここで、シャープのスローガンを例に挙げて、企業理念と具体的な規範との関係を考えてみようと思います。
『いたずらに規模のみを追わず、誠意と独自の技術をもって、広く世界の文化と福祉の向上に貢献する』これは、シャープの企業理念の冒頭部分です。そしてこれを具体化したのが、1990 ~ 2009年まで使われていた筆者が大好きなスローガン「目の付けどころがシャープでしょ。」だと理解できます。
この言葉に基づいて種々の経営判断を行うことが可能だと思われるので、具体的な規範ということができるでしょう。しかし、このスローガンの制定前から、シャープは世界初、日本初とされるユニークな商品を開発していました。例えば、以下のとおりです(※出典:「Wikipedia」)
シャープには、単なる改良品ではなく、社会にインパクトを与える商品を開発してきた歴史があったのです。企業理念が商品に具現化されていたといえるでしょう。このように、技術を背景としてその技術を「世界の文化と福祉の向上に貢献する」という方向性をもって商品開発してきた企業の姿勢を、より明確で分かりやすくするものとして「目の付けどころがシャープでしょ。」というスローガンが制定されたものと思われます。
その後、1990年ごろには左右どちらからも開く冷蔵庫(「どっちもドア」商標登録第4348294号)、液晶画面を装備した家庭用ビデオカメラ(「液晶ビューカム」商標登録第3228174号)など、スローガンと一致したひと...
味違う商品を開発しています。液晶技術に裏打ちされたブランド(「亀山」商標登録第5228410号、「AQUOS」商標登録第4489184号他)の構築も同じ流れの中にあるといえます。
分かりやすいスローガンが、現場に広く、深く浸透し、開発を後押ししたのではないでしょうか。企業理念とそれを規範化したスローガン、そして商品開発がきれいにつながった好例だと思います。
次回は、その2として、企業理念の策定(規範策定の前に)を解説します。