商品力の強化と商品開発の方向性 (その1)

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【商品力の強化と商品開発の方向性 連載目次】

 

 イギリスの EU離脱、トランプ氏の米国大統領就任と大方の予想が外れて、世界経済の行き先が不透明で、混沌が予想されています。また、IT革命の大波:「フィンテックとIoT」があらゆる分野に浸透し始めました。このような環境変化が、自社にどのような影響をもたらすかを冷静に判断して対応策を考えると同時に、経営の基盤である「売上増大」について、基本から再検討することをテーマに解説します。
  
 売上をもたらす要素は「商品力と集客力(営業力とマーケティング力)」です。商品力の弱さを集客力だけでカバーするのは困難ですので、いかに商品力を強化するかは重要なテーマです。商品力は「既存商品力」+「新規商品力」の総合力です。
 

1. 商品ライフサイクルとスクラップ&ビルド(S&B)

 商品力を強化するためには、マーケティングや企業の持つ技術から販売に至るまで、多方面の視点から検討を加える必要があります。 ここでは商品力を強化する一角をなす商品ライフサイクルと、それに付随するスクラップ& ビルド(S&B)について解説します。
 

1.1  商品ライフサイクル

 商品ライフサイクルとは、図1のように商品が販売開始され、販売を中止するまでの過程を言い、投入期、成長期、成熟期、衰退期の4段階で構成されています。
 
  商品開発
図1. 商品(製品)のライフサイクル
 
① 投入期
 新しい商品の販売を開始した直後はその認知度は低く、販売量は少ない状態です。 宣伝、広告、口コミなどの認知活動を展開します。 
 
② 成長期 
  消費者や需要家に認知され始めると需要量が増加し、生産も活発化しますが、他社も類似の 商品を企画し、市場に参入して追従してきますので競合が激しくなります。
 
③ 成熟期
 需要量は頭打ちとなり、販売、生産も水平状態になりますが、他社はさらに新規参入して くることが多く、市場はダブつきさらに競争が激化してます。
 
④ 衰退期
 技術革新、生活者の価値観の変化や法的規制等により、この商品に代わる次の商品または異なった新しいマーケットが市場に現れてくるとこの商品の需要は減少し、やがて販売中止 ということになります。
 
 そして新しい商品を投入して、また投入期として新たな商品ライフサイクルが始まります。 市場に商品を投入すると規模や期間の違いはあるものの、販売開始から販売中止までは必ず この商品ライフサイクルにならい進行するのです。 健全な企業の場合、このライフサイクルを前提に、成長期前後には次の商品の企画を開始し、 必ずやってくる商品の衰退期に備えているのです。 一般的に商品企画や開発設計は期間が掛かる上、大きな経営資源(人、モノ、金、しくみ、 情報)を投入する必要があるので、商品化の開始時期とその規模は経営にとって重要かつ 大きなテーマです。
 

1.2  スクラップ&ビルド(S&B)

 スクラップ&ビルド(S&B)の元々の語源は石炭業界のもので、老朽化した施設を廃棄し、新しい施設に切り替えることを意味していました。 しかし、現代では対象となるものや業界によって、その意味は異なっています。 例えば、建設におけるビルでは語源にほぼ同じく、老朽化したビルを取り壊し、新ビルを建設 することを指します。 あるいは、小売業では老朽化した店舗を閉店し、改めて新店舗を開業することを言いますが、 北関東にある家電量販店のY社は老朽化した店舗や小規模店舗を閉店し、同じ商圏に大規模店 をオープンする戦略を推進し、他社を引き離したという事例がありますが、今はこの手法も 限界に来ているようです。 また、経済活動では不採算や効率の悪い部門を整理し、新たな部門を設けることを言います。 いずれにしても、現況を壊し、新しい物やサービス・システム、組織体・ルール等を作ること を指しています。
 
 企業にとってのスクラップ&ビルド(S&B)といっても、上述のY社の事例のようにマーケティング戦略に 基づく前向きなものから、老朽化した自社ビルを建て直したり、不採算部門の出直しのような 後ろ向きなものまで、様々な形態があります。 技術革新の水準とそのスピードは、目を見張るものがあり、その波に乗遅れた者や企業はその 挽回に労力を要するし、また、非効率な生産や機会損失の影響を受けて市場から遠のいた 不採算製品や部門を生み出すことになり、やがて市場から消えていきます。
 
 そのような不幸な結果をもたらすことがないように、老朽化した店舗、部門、技術、生産、 設備が市場に対して陳腐化する前にスクラップ&ビルド(S&B)をタイミング良く実践に することが必要です。 それには常に市場動向をとうして、顧客のニーズをウォッチし、自社商品、設備と照合し、 部門別の採算性とキャッシュフローをPDCAして経営資源のタイミングとともに、「いつ」 「どのように」などの5W3Hに従いスクラップ&ビルド(S&B)を実践することです。
 

1.3 2方向のスクラップ&ビルド(S&B)

 商品の視点からスクラップ&ビルド(S&B)は、次の2つの点について考えなければなりません。生産設備や販売店舗などのハードウェアの老朽化に伴う、文字通りのスクラップ&ビルド (S&B)がその1つです。 生産設備は生産効率や安全面での改善に直結する課題が中心となるので、投資対効果から 判断することになりますが、販売店舗のそれは市場を見据えたマーケティング戦略の 一手段となるので、企業戦略に基づく建設的な方針と計画を立てる必要があります。
 
 もう1つは、新商品化にあたり、市場の成熟期前後に開始する商品企画における スクラップ&ビルド(S&B)です。 即ち、商品が訪れる衰退期そして販売中止となる前に、新商品を投入するための スクラップビルド(S&B)ですが、このスクラップ&ビルド(S&B)の“スクラップ” は、既存商品の完全な廃棄ではないことに注意を払ってください。 たとえ新商品であっても、商品の品質やブランドは継承されるべきであり、機能は現商品 との互換性を皆無にするわけにはいかない。(たとえば、マイクロソフト社のワードソフト はバージョンアップをしても旧バージョンのデ...

 

【商品力の強化と商品開発の方向性 連載目次】

 

 イギリスの EU離脱、トランプ氏の米国大統領就任と大方の予想が外れて、世界経済の行き先が不透明で、混沌が予想されています。また、IT革命の大波:「フィンテックとIoT」があらゆる分野に浸透し始めました。このような環境変化が、自社にどのような影響をもたらすかを冷静に判断して対応策を考えると同時に、経営の基盤である「売上増大」について、基本から再検討することをテーマに解説します。
  
 売上をもたらす要素は「商品力と集客力(営業力とマーケティング力)」です。商品力の弱さを集客力だけでカバーするのは困難ですので、いかに商品力を強化するかは重要なテーマです。商品力は「既存商品力」+「新規商品力」の総合力です。
 

1. 商品ライフサイクルとスクラップ&ビルド(S&B)

 商品力を強化するためには、マーケティングや企業の持つ技術から販売に至るまで、多方面の視点から検討を加える必要があります。 ここでは商品力を強化する一角をなす商品ライフサイクルと、それに付随するスクラップ& ビルド(S&B)について解説します。
 

1.1  商品ライフサイクル

 商品ライフサイクルとは、図1のように商品が販売開始され、販売を中止するまでの過程を言い、投入期、成長期、成熟期、衰退期の4段階で構成されています。
 
  商品開発
図1. 商品(製品)のライフサイクル
 
① 投入期
 新しい商品の販売を開始した直後はその認知度は低く、販売量は少ない状態です。 宣伝、広告、口コミなどの認知活動を展開します。 
 
② 成長期 
  消費者や需要家に認知され始めると需要量が増加し、生産も活発化しますが、他社も類似の 商品を企画し、市場に参入して追従してきますので競合が激しくなります。
 
③ 成熟期
 需要量は頭打ちとなり、販売、生産も水平状態になりますが、他社はさらに新規参入して くることが多く、市場はダブつきさらに競争が激化してます。
 
④ 衰退期
 技術革新、生活者の価値観の変化や法的規制等により、この商品に代わる次の商品または異なった新しいマーケットが市場に現れてくるとこの商品の需要は減少し、やがて販売中止 ということになります。
 
 そして新しい商品を投入して、また投入期として新たな商品ライフサイクルが始まります。 市場に商品を投入すると規模や期間の違いはあるものの、販売開始から販売中止までは必ず この商品ライフサイクルにならい進行するのです。 健全な企業の場合、このライフサイクルを前提に、成長期前後には次の商品の企画を開始し、 必ずやってくる商品の衰退期に備えているのです。 一般的に商品企画や開発設計は期間が掛かる上、大きな経営資源(人、モノ、金、しくみ、 情報)を投入する必要があるので、商品化の開始時期とその規模は経営にとって重要かつ 大きなテーマです。
 

1.2  スクラップ&ビルド(S&B)

 スクラップ&ビルド(S&B)の元々の語源は石炭業界のもので、老朽化した施設を廃棄し、新しい施設に切り替えることを意味していました。 しかし、現代では対象となるものや業界によって、その意味は異なっています。 例えば、建設におけるビルでは語源にほぼ同じく、老朽化したビルを取り壊し、新ビルを建設 することを指します。 あるいは、小売業では老朽化した店舗を閉店し、改めて新店舗を開業することを言いますが、 北関東にある家電量販店のY社は老朽化した店舗や小規模店舗を閉店し、同じ商圏に大規模店 をオープンする戦略を推進し、他社を引き離したという事例がありますが、今はこの手法も 限界に来ているようです。 また、経済活動では不採算や効率の悪い部門を整理し、新たな部門を設けることを言います。 いずれにしても、現況を壊し、新しい物やサービス・システム、組織体・ルール等を作ること を指しています。
 
 企業にとってのスクラップ&ビルド(S&B)といっても、上述のY社の事例のようにマーケティング戦略に 基づく前向きなものから、老朽化した自社ビルを建て直したり、不採算部門の出直しのような 後ろ向きなものまで、様々な形態があります。 技術革新の水準とそのスピードは、目を見張るものがあり、その波に乗遅れた者や企業はその 挽回に労力を要するし、また、非効率な生産や機会損失の影響を受けて市場から遠のいた 不採算製品や部門を生み出すことになり、やがて市場から消えていきます。
 
 そのような不幸な結果をもたらすことがないように、老朽化した店舗、部門、技術、生産、 設備が市場に対して陳腐化する前にスクラップ&ビルド(S&B)をタイミング良く実践に することが必要です。 それには常に市場動向をとうして、顧客のニーズをウォッチし、自社商品、設備と照合し、 部門別の採算性とキャッシュフローをPDCAして経営資源のタイミングとともに、「いつ」 「どのように」などの5W3Hに従いスクラップ&ビルド(S&B)を実践することです。
 

1.3 2方向のスクラップ&ビルド(S&B)

 商品の視点からスクラップ&ビルド(S&B)は、次の2つの点について考えなければなりません。生産設備や販売店舗などのハードウェアの老朽化に伴う、文字通りのスクラップ&ビルド (S&B)がその1つです。 生産設備は生産効率や安全面での改善に直結する課題が中心となるので、投資対効果から 判断することになりますが、販売店舗のそれは市場を見据えたマーケティング戦略の 一手段となるので、企業戦略に基づく建設的な方針と計画を立てる必要があります。
 
 もう1つは、新商品化にあたり、市場の成熟期前後に開始する商品企画における スクラップ&ビルド(S&B)です。 即ち、商品が訪れる衰退期そして販売中止となる前に、新商品を投入するための スクラップビルド(S&B)ですが、このスクラップ&ビルド(S&B)の“スクラップ” は、既存商品の完全な廃棄ではないことに注意を払ってください。 たとえ新商品であっても、商品の品質やブランドは継承されるべきであり、機能は現商品 との互換性を皆無にするわけにはいかない。(たとえば、マイクロソフト社のワードソフト はバージョンアップをしても旧バージョンのデータの読み取り、変更をできる) また、生産については、対象が変わり手順や装置の一部が変わっても生産ノウハウを 再利用することは当然です。ユーザー情報や市場ノウハウを新商品の“ビルド”に大いに 利用すべきです。
 

2. 製品ライフサイクルとスクラップ&ビルド(S&B)の課題

 商品力強化のためには、ライフサイクルとスクラップ&ビルド(S&B)の課題として、次の事項に注意を払い実践することが肝要です。
 
(1) 商品がライフサイクルのどこに当たるのか見極め、衰退期そして販売中止時期を予測する。
(2) 新商品の企画については、生産、販路など全ての経営資源に対するスクラップ&ビルド(S&B)戦術を盛り込んで計画する。 
                         
 次回は、「商品ライフサイクルと次期商品の開発」を解説します。

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この記事の著者

石川  昌平

(株)I&C・HosBizセンターの連絡窓口です

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