第8章 アロー・ダイヤグラム法の使い方
8.5 事例に見るアロー・ダイヤグラム法の効用と使い方
前回のその9に続いて解説します。
【事例説明1】多人数による生産準備作業の改善
この事例は、「新QC七つ道具の企業への展開」(日科技連出版)に、筆者らの体験事例として紹介したものを、別の角度からまとめなおしたものです。
(1) 背景説明
全長が80mある化学プラントの生産準備を10:30ラインスタート目標で12人が7:30から作業開始するのだが、10:30にスタートできる日は10%前後で、最大遅れは1時間半という状況の改善がテーマです。
(2) 改善経過の説明
職場が険悪な雰囲気に包まれていた混沌状態は、約2カ月で脱したが、ラインスタート後のトラブル解消(次章の事例)も含め1年半かかりました。
その間、10:30スタート100%達成にアロー・ダイヤグラム法がどのように貢献したかの経緯を、PDCA-TCにまとめたのが図8-4です。
図8-4 化学プラント準備作業改善PDCA-TC
※1 アロー・ダイヤグラム法が作業の全貌把握と計画立案を可能にした。
2人作業、3人作業も含む65の作業を、12人に効率よく分担させるネットワーキングは至難を極めたが、2カ月後の第5版で、やっとCPタイムが176分となり、作業計画上で目標の180分を切ることができました。トラブル処理後の深夜からの作業ゆえ、担当係長が塗炭の苦しみを味わった上での快挙でした。
※2 第5版アロー・ダイヤグラムが明快で的確な作業指示を可能にした。
この時点で、係長とリーダーが作業の全貌を的確に把握でき、指示が明快で的確になったといえます。すなわち、第5版は、“管理者用アロー・ダイヤグラム”といえる。達成率が42%にとどまったのは、作業者の理解不十分を物語っています。
※3 作業者の立場に立ったアロー・ダイヤグラムの作成。
マン・タイムスケール・アロー・ダイヤグラムというのは、縦軸に作業者、横軸に時刻を配した(7:30~10:30を5分間隔で区切った)表の中で、第5版のネットワークから各作業を分解して作業者ごとに表示したもの(第6版)です。
※4 マン・タイムスケール表示が作業者による作業把握を可能にした。
第6版のマン・タイムスケール表示により、作業者各人が、各自の作業を時刻管理できるようになったことが功を奏し、急ピッチで達成率が向上、100%となりました。すなわち、第6版は、“作業者用アロー・ダイヤグラム”といえます。
※5 マン・タイムスケール表示が係長を省力に向かわせた。
作業密度の低さが歴然と分かるマン・タイムスケール・アロー・ダイヤグラムが、これ以上の時間短縮は不必要と知る係長を、省力計画に向かわせたといえます。
※6 有効な“隠し玉”こそ、管理者・スタッフの真骨頂。
昼食時「2人減でよくやったなあ」と皆に声をかけたら「少々の無理をしても素人の応援は避けたかったので、渡りに舟だったのですよ」とご満悦でした。人手不足に限らず、やる気はあってもどうしたらよいか分からないとき、「こうすればよい」と “隠し玉”を示し得るのが、管理者・スタッフの真骨頂でしょう。
※7 手法は道具。使いにくかったら独自の工夫を加える気概が必要。
オードリックスとは、日本能率協会のIEコンサルタントである門田武治氏のオリジナルによる「ライン作業や連合作業の効率化のためのデザインアプローチによる改善技法」でORDLIX(Organized Design for Line and Crew System)と書きます。その中で、具体的な改善を進める上での着眼点として提唱している、E(Eliminate:なくせないか)、C(Combine:統合できないか)、R(Rearrangement:組み替えができないか)、S(Simplify:簡素化できないか)の「ECRS」を紹介したところ、検討過程でA(Add:付け加えるものはないか)を独自に追...