1. ノウハウとは
ノウハウとは「技術秘訣」と訳されることがありますが、国際商業会議所(ICC)によるノウハウ保護基準条項(1960年)の中で「ノウハウとは単独で又は結合して、工業目的に役立つある種の技術を完成し、またそれを実際に応用するのに必要な秘密の技術的知識と経験、またはそれらの集積」と定義されています。
ノウハウの法的な保護について、不正競争防止法の営業秘密と特許法による先使用権(特許法第79条・先使用による通常実施権)がありますが、ここでは先使用権について述べていきたいと思います。
2. 特許法:先使用権とはなにか
先使用権とは、他者の特許出願の日前から、独自に同一内容の発明を完成させ、さらに、その発明の実施である事業をし、あるいは、その実施事業の準備をしていた者(先使用権者)について、法律の定める一定の範囲で、その他者の特許発明を無償で実施し、事業を継続することを認める権利です。
先使用権が成立する要件として、以下の4つがあげられます。
・(特許出願の発明と関わりなく)独自に発明し、またはその発明を承継したこと。
・事業の実施または事業の準備をしていること。
・他者の特許出願時に事業の実施または事業の準備を行っていたこと。
・日本国内で事業の実施または事業の準備を行っていたこと。
これらの要件を満たす場合にのみ、事業の実施または準備をしている発明、および事業の目的の範囲内で他者の特許権を無償で実施し、事業を継続することができます。
ただし、単に「他者の特許出願日前から同じ発明技術で事業をしていた」という理由だけで成立するものではありません。これらの要件を満たすことができる疑いのない存在時点(日付)が明確である法的証拠がなくてはなりません。
3. 特許法:先使用権を有効するためには
研究開発段階から、事業の準備および事業をしている段階に至る各契機で関連資料を日頃から収集して残しておくことが必要です。そのため社内外の多くの関係先の資料が必要となることから、社内の各部署と協力・連携して取り組むことが大切です。
収集する証拠となる資料は、例えば研究開発の段階では研究ノートや技術・研究報告書などで、事業化準備の決定から準備期間では事業決定開始書、設計図・仕様書や見積書・請求書などとなります。
その後の事業が実際に開始された以降や改善・修正などの形式(仕様)を変更した際では、工場の作業日誌・作業記録、カタログ・商品取扱説明書、製品自体や販売・発注伝票などがあげられます。[1]
さらにこれらの収集した資料は、同一の技術や製品に関連するものであることを客観的に主張できるように、証拠同士をひも付けをしておくことが重要です。製品の仕様変更を行う際にも、仕様変更の前後の製品に同一の技術が含まれることを客観的に示すことができるようにしておくために、これもひも付けをすることが大切です。[1]
4. 収集した資料の証拠能力を高める方法
資料の証拠能力を高める方法として、公証制度とタイムスタンプの活用があげられます。
公証制度とは、公証役場の公証人が、私署証書に確定日付を付与、または認証をおこなうことや、公正証書を作成することによって、法律関係の事実の明確化や文書の証拠力の確保を図り、私人の法律的地位の安定や、紛争の予防を図ろうとするものです。
先使用権に係る資料に有効な公証サービスとしては「確定日付」と呼ばれるもので、確定日付の付与(捺印)した書類等がその時点で法的に存在したことを証明するものです。そして手数料は1件700円程度と比較的安価なため利用しやすいサービスとなっています。
他方で、タイムスタンプとは、電子データ(電子ファイル)に時刻情報を付与することにより、その時刻にそのデータが存在し(日付証明)、またその時刻から、検証した時刻までの間にその電子情報が変更・改ざんされていないこと(非改ざん証明)を証明するものです。
これは民間の...