◆ 技術者にもマーケティング意識が必要な時代
戦後製造業の高度成長を支えたのは、統計手法を使った品質管理でした。作れば売れた時代には、生産しながらデータを解析し不良を出さないことが重要だったのです。しかしバブルが崩壊してモノ余りの時代となり、高品質で低価格であっても売れにくくなると、どう作るかではなく何を作ってどう売るかというマーケティングの重要性が高まると同時に技術者にもマーケティング意識が必要な時代となりました。今回は一般的なマーケティングと技術者がどう対峙するかについて解説します。
1.マーケティングとは
広辞苑でマーケティングを調べると「商品の販売やサービスなどを促進するための活動」と抽象的であり、やや要点を欠きます。マーケティングの大御所であるP.コトラーは「標的市場を選び出し、優れた顧客価値を作り出し、分配し、コミュニケーションすることによって、顧客を獲得し、維持し、増やすための技術と知識」と定義しました[1]。これは「マーケティングは顧客の創造である」というP.ドラッカーの主張[2]に反しません。
その語源は20世紀初頭、やはり産業が踊り場に差し掛かった米国までさかのぼり、社会の変化に追従して変質してきました。近年では市場をマスとしてではなく極力個別最適で扱うワントゥーワンマーケティングや、インターネット技術を駆使したWebマーケティングが潮流ですが、最終節で詳説するように技術者が意識、実践するマーケティングはこれら販促面ではなく、製品の開発企画面が中心となる特徴があります。
2.一般的なマーケティング手順
一般的なマーケティング活動の進め方を図1に示します。先月掲載した事業戦略策定手順の後半から継続する形で事業の外部/内部環境を分析し、その結果を反映して細分化した市場(顧客層)から自社の対象を選択して、市場における自社の位置づけを設定するという、一連のSTP(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング)を検討し、その対象に合わせた4P(商品、価格、販促方法、流通方法)[3]を決定します。
この4Pに含まれる業務要素を一覧にしたものが表1です。技術者が主体となって関わるのはProduct部分ではありますが、4Pマーケティングミックスという名の通り、それぞれのPは単独で考えるのではなく、関連付けて一体となって検討、設定していく必要があり、関係各部署の強い連携が成功のポイントとなります。
(図1)マーケティング活動の進め方
(表1)マーケティング4Pの業務要素
3.4Pマーケティングミックスの例
たとえば同じスマートフォンであっても、環境分析とSTP検討によって「女子高校生」を対象にした場合は、かわいいデザイン性を重視した製品に、比較的低い価格を設定し、通常の流通以外におしゃれ雑貨店などもチャネルに加え、LINE広告などで販促を展開します。一方企業経営者が対象の場合は、高級感のある手触りと業務にストレスがないスペックにビジネスアプリが使いやすいインターフェイスを備えた製品となり、価格は無理に抑える必要がないでしょう。販売チャネルには企業に出入りする代理店、広告にはビジネス雑誌を加えても良さそうです。
以上は若干ステレオタイプ過ぎて、競合との差別化がかえって難しいかもしれません。実際は各対象の行動様式や潜在意識をインタビューやアンケート、エスノグラフィーと呼ばれる行動観察などによって調査し、それに対応したマーケティングミックスで独自のポジションを確立することが有効です。
また3C分析で市場における圧倒的なリーダーポジションに自信があれば、iPhoneのようにたった3機種で全世界に展開するというマーケティングミックスもあり得ますが、これは特別な例でしょう。
4.技術者のマーケティング
それでは技術者が持つべきマーケティング意識はどのようなものでしょうか?既に表1で示したように、4Pの中で技術者が主に関わる業務は製品の企画、開発段階です。製品ライフサイクル(PLC)には(1)導入期、(2)成長期、(3)成熟期、(4)衰退期の4つの段階があり、それぞれによってマーケティングも変わります[4]が、技術者が特に強く関与するのは(1)でしょう。この段階では、まだユーザー層が確定していないため、販促面ではなく技術者のマーケティングが特に重要となります。
製品企画には大きくニーズ先行型とシーズ先行型がありますが、後者を進められるのは基本的に技術者しかいません。すでに保有する独自技術を応用して製品を企画する場合はシーズドリブンQD(Seeds Driven Quality Deployment)と呼ばれ、シーズを仮想のニーズと少しずつすり合わせていく方法が提案されていますが、ニーズがどこにあるか皆目見当がつかない場合は、シーズ技術やその機能名称でネット検索し、表示されたページから用途を丹念に拾っていくことも有効です。
また当該技術で実現した機能や、初期的な使用例を公開することで、開発者が知らないユーザーから用途や要望などの反応を受けることは非常に有益です。新聞などで大きく取り上げてもらうことはもちろん効果大ですが、広告と...