技術企業の高収益化:研究開発者の仕事とは

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知的財産マネジメント

◆ 研究開発テーマは分かりやすく

 ドラマの世界というのは脚本家、演出家、俳優、大道具・小道具など様々な担い手が協力して一つの物語を生み出していくわけですが、実は研究開発にも似た部分が多いと思います。一つは様々な人が協力する点。例えば研究テーマを作る人、コツコツと実験する人、テーマにお金を出す人、研究を支援する人…などなど、実に多くの人が関わっています。

1、「事業化できない」という「負けグセ」

 そしてもう一つが、分かりやすいものは売れるという点です。仕事柄、いろいろな会社の研究開発組織を訪問しては取り組んでいる研究開発テーマをお聞きするのですが、技術の素人にも分かりやすく価値を提示できているテーマは成功し、そうでないテーマは成功しないという印象を持っています。

 最先端技術はとかく小難しくなりがちです。しかし一つひとつの技術は小難しくても、技術の集合がもたらす価値が分かりやすければ成功するように思います。その典型例が、トヨタ自動車のハイブリット技術です。同技術を構成する要素技術はそれぞれ高度で難しくても、全体としては「省エネ、低燃費」という分かりやすい価値に結び付いています。

 一方分かりにくい研究開発テーマの例として、とある企業の材料研究所の話をしましょう。ある時、そこでテーマ発表をお聞きする機会がありました。材料研究所ですから、カタカナ名の化合物の性質や合成方法、スケールアップ方法などについては詳しく説明されているのですが、それが一体何になるのか、どういう価値を生むのかに関しては説明が希薄で、あまり納得の行くものはありませんでした。

 そこで研究所の責任者の方にお聞きすると「失敗を繰り返している」とのことでした。確かに、研究の成功確率は「千三つ」といわれるように1000件のうち3件くらい低いものとされます。ですので、成功確率が多少低くてもあまり気にする必要はないと思うのですが「ここ10年ヒット商品がない。野球で言う『バント』のようなものもほとんどなく、研究所の存在意義が問われている」となると、ちょっと深刻です。

 研究所での活動についてお聞きすると「先端技術のテーマを研究しているものの、それを事業化するのはあまり得意ではない」ということでした。要は、技術的に優位性のあるテーマでさえあれば、たとえ分かりやすい価値が提示されなくても研究し続けられたようです。結果、研究者には「事業化できない」という意味での「負けグセ」が付いてしまい、意識改革の必要があるということでした。

2、研究開発は資金援助との戦い

 このような経験から、私は研究開発のテーマを評価する上では「分かりやすい価値」を求める必要があると思っています。分からないことを分からないままにしておけば、必ずその代償を払う機会が来てしまいます。

 例えば「安心安全をつくるための研究開発をしています」と言っている企業のことを考えてみましょう。「安心安全」という言葉は抽象的ですので、研究開発者が具体化する必要があります。では、どのようにして具体化すれば良いのでしょうか。私がオススメするのは「安心安全ではない」現場、すなわち研究開発の対象となる現場に研究開発者自身が出向くことです。そこを知れば、研究開発によって提供するのは「どんな価値か」が分かりやすく表現できるようになります。分かりやすさに勝る説得力はないのです。 

 ですから、研究開発者の皆さんは新しい技術を思いついたらそれがどんな価値になるのか、顧客課題と結びつけて調べることを習慣にしてください。そうすれば分かりやすく説明できるようになりますし、課題解決に必要なスペックを決める情報収集にもなります。

 併せて、お金を投じさせたくなるようなワクワク感も重要だと思います。日本国内ではMAKUAKEが有名なクラウドファンディングですが、ここは資金集めのためのプレゼンの集まりともいえます。テクノロジー分野では、近未来を感じさせる機能やデザインが非常に分かりやすくプレゼンされ、そのほとんどが動画化されています。しかしそこまで分かりやすくしても、成功率は半分を切って4割程度という情報もあります。

 研究開発に携わる研究開発者の中には、こうした視点に欠けている人が多いように思います。研究開発は資金援助との戦いです。どのように社内投資家を説得して資金を切れ目なく供給してもらうかを考えることも、研究開発者の大事な務めの一つではないでしょうか。

3、製品が誰にどのように使われているかを知る

 そして「分かりやすさ」は、相手にも依存することを忘れてはなりません。企業においては、研究開発テーマの評価者は常に上司です。つまり研究開発テーマは、上司が分かる範囲で設定する必...

知的財産マネジメント

◆ 研究開発テーマは分かりやすく

 ドラマの世界というのは脚本家、演出家、俳優、大道具・小道具など様々な担い手が協力して一つの物語を生み出していくわけですが、実は研究開発にも似た部分が多いと思います。一つは様々な人が協力する点。例えば研究テーマを作る人、コツコツと実験する人、テーマにお金を出す人、研究を支援する人…などなど、実に多くの人が関わっています。

1、「事業化できない」という「負けグセ」

 そしてもう一つが、分かりやすいものは売れるという点です。仕事柄、いろいろな会社の研究開発組織を訪問しては取り組んでいる研究開発テーマをお聞きするのですが、技術の素人にも分かりやすく価値を提示できているテーマは成功し、そうでないテーマは成功しないという印象を持っています。

 最先端技術はとかく小難しくなりがちです。しかし一つひとつの技術は小難しくても、技術の集合がもたらす価値が分かりやすければ成功するように思います。その典型例が、トヨタ自動車のハイブリット技術です。同技術を構成する要素技術はそれぞれ高度で難しくても、全体としては「省エネ、低燃費」という分かりやすい価値に結び付いています。

 一方分かりにくい研究開発テーマの例として、とある企業の材料研究所の話をしましょう。ある時、そこでテーマ発表をお聞きする機会がありました。材料研究所ですから、カタカナ名の化合物の性質や合成方法、スケールアップ方法などについては詳しく説明されているのですが、それが一体何になるのか、どういう価値を生むのかに関しては説明が希薄で、あまり納得の行くものはありませんでした。

 そこで研究所の責任者の方にお聞きすると「失敗を繰り返している」とのことでした。確かに、研究の成功確率は「千三つ」といわれるように1000件のうち3件くらい低いものとされます。ですので、成功確率が多少低くてもあまり気にする必要はないと思うのですが「ここ10年ヒット商品がない。野球で言う『バント』のようなものもほとんどなく、研究所の存在意義が問われている」となると、ちょっと深刻です。

 研究所での活動についてお聞きすると「先端技術のテーマを研究しているものの、それを事業化するのはあまり得意ではない」ということでした。要は、技術的に優位性のあるテーマでさえあれば、たとえ分かりやすい価値が提示されなくても研究し続けられたようです。結果、研究者には「事業化できない」という意味での「負けグセ」が付いてしまい、意識改革の必要があるということでした。

2、研究開発は資金援助との戦い

 このような経験から、私は研究開発のテーマを評価する上では「分かりやすい価値」を求める必要があると思っています。分からないことを分からないままにしておけば、必ずその代償を払う機会が来てしまいます。

 例えば「安心安全をつくるための研究開発をしています」と言っている企業のことを考えてみましょう。「安心安全」という言葉は抽象的ですので、研究開発者が具体化する必要があります。では、どのようにして具体化すれば良いのでしょうか。私がオススメするのは「安心安全ではない」現場、すなわち研究開発の対象となる現場に研究開発者自身が出向くことです。そこを知れば、研究開発によって提供するのは「どんな価値か」が分かりやすく表現できるようになります。分かりやすさに勝る説得力はないのです。 

 ですから、研究開発者の皆さんは新しい技術を思いついたらそれがどんな価値になるのか、顧客課題と結びつけて調べることを習慣にしてください。そうすれば分かりやすく説明できるようになりますし、課題解決に必要なスペックを決める情報収集にもなります。

 併せて、お金を投じさせたくなるようなワクワク感も重要だと思います。日本国内ではMAKUAKEが有名なクラウドファンディングですが、ここは資金集めのためのプレゼンの集まりともいえます。テクノロジー分野では、近未来を感じさせる機能やデザインが非常に分かりやすくプレゼンされ、そのほとんどが動画化されています。しかしそこまで分かりやすくしても、成功率は半分を切って4割程度という情報もあります。

 研究開発に携わる研究開発者の中には、こうした視点に欠けている人が多いように思います。研究開発は資金援助との戦いです。どのように社内投資家を説得して資金を切れ目なく供給してもらうかを考えることも、研究開発者の大事な務めの一つではないでしょうか。

3、製品が誰にどのように使われているかを知る

 そして「分かりやすさ」は、相手にも依存することを忘れてはなりません。企業においては、研究開発テーマの評価者は常に上司です。つまり研究開発テーマは、上司が分かる範囲で設定する必要があるのです。自社から遠く離れた事業を提案しても、採択される可能性はそう高くはないでしょう。そう考えると、自社事業や自社技術をよく理解した上で周辺を探るのが、企業での研究開発者の仕事といえます。

 さらに研究開発者が実験や設計を行うことは業務なので簡単にできますが、例えば自社製品が誰にどのように使用されているかを知るためには、そうした機会を積極的に作らなければなりません。それには、意識的な努力が必要なのです。それを通じて自社事業や自社技術を理解できれば、その周辺の様々な研究開発テーマを思い付くようになります。無論、自社事業や自社技術の周辺であれば上司は理解しやすく、研究開発テーマとして通る確率や事業として成功する確率も高くなるのです。

 私は、このような研究開発者一人ひとりの活動を通じて自社事業や自社技術の周辺を拡張していくことが、コア技術や事業の拡大につながっていくものと考えています。すなわち、地道な現地調査や意見交換が技術の事業化に結び付くのです。

 【出典】株式会社 如水 HPより、筆者のご承諾により編集して掲載

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この記事の著者

中村 大介

若手研究者の「教育」、研究開発テーマ創出の「実践」、「開発マネジメント法の導入」の3本立てを同時に実践する社内研修で、ものづくり企業を支援しています。

若手研究者の「教育」、研究開発テーマ創出の「実践」、「開発マネジメント法の導入」の3本立てを同時に実践する社内研修で、ものづくり企業を支援しています。


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