海外進出の成功は簡単ではないが不可能でもない

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1. 経済グローバル化の本質

 1989年ベルリンの壁崩壊以来、世界は自由貿易に向けて着実に動いていましたが、2017年に就任したD.トランプ米大統領は保護主義に戻そうとしています。その成否は分からないものの、大勢としては「ワンワールド」に向かっていると考えて良いでしょう。その根拠は次の3つです。

(1)物理的距離の減少

 100年前は船で1週間かかっていた距離が、今は航空機で8時間です。飛行機のスピード自体はここ30年ほど進歩がないとはいえ、新興国の大衆にとって以前は高値の花だった海外旅行が一般化し、各国間の距離が近くなっています。

(2)情報技術の発展

 100年前は文字、50年前はラジオ、30年前はテレビなどを通じて行われていた海外情報入手でしたが、いまやインターネットを通じて世界中のあらゆる地域の多くの情報が一瞬で手に入ります。物理的距離以上に情報の距離は短くなっているのです。

(3)文化的距離の減少

 上記2項目の変化で、人的・情報交換が進んでも、長年の文化は簡単には変わりません。ただし、相互理解が徐々に進みます。特に事業の営利が関係すると、理解を進めようとするエネルギーが強まり、変化が加速されます。

 これら3つの力によって世界的観点で産業を効率化しようとなると、各国が相互に得意なものを生産して、他国に輸出しようとするのは当然です。

 国内では自働車の組み立ては愛知県周辺、メガネは石川県、タオルは愛媛県、ワインは山梨県で多く生産されます。その起源はともあれ、結果的に技術、人、材料などのインフラが整っている場所が効率よく生産できるわけで、世界でも同じことが進むとみて良いでしょう。その自然な動きを関税で阻止しても、消費者に不合理を強いることが長く続くわけがありません。いずれ最も合理的な場所で生産するようになるはずです。

 それでは日本が得意な製品とはなんでしょう?

2. 生産の国際分業

 図1は工業品目別に国際的な日本シェアと市場規模をグラフにしたもので、点(丸)の大きさが市場サイズを表わしています。規模が小さいうち(グラフの下方)は全量を国内で作ることも可能ですが、市場が拡大し工場数が増えるにつれて(グラフの上方)生産地は世界各地に分散し、日本生産のシェアが低下する傾向が分かります。この右下から左上に分布する点群の中で、比較的右上に分布すれば日本が得意な品目と言えます。

図1.日本製品の分野毎世界シェア(出展:産業構造審議会産業技術分科会2006年資料)

 図中で紫の点線で囲まれた領域がそれであり、かなり上方でひと際大きなオレンジ色の丸が、世界最大の工業製品である「自動車」です。その右下やや小さなグレーの丸は「電子部品」、右下方の青い小丸「複合プリンター」あたりがかなり日本に向いているようで、いずれもアナログなすり合わせ技術がキーとなる製品です。

 一方左下にはPCや携帯電話などのデジタル製品や、巨額の投資が必要な医薬品が位置しており、技術的に不得意なわけではないものの、競争力を発揮しにくい分野といえるでしょう。短期での状況変化は難しいかもしれません。

3. 中小製造業の海外進出成功事例

 国内での事業維持が難しくなった時に、海外へ進出すれば成功するというほど簡単なものではありません。それでは海外が専門ではない私なりに、知っている3件の成功事例を紹介します。

(1)日本人が一人もいない日系企業

 2011年当時MOT大学院に在籍していた私が、研修旅行で深圳の日系中堅金型メーカーを尋ねたところ、工場代表以下全従業員が中国人であり、ほどほどしっかり管理されていました。この代表は日本留学先の大学を卒業と同時に日本本社に就職し、数年の勤務後に海外進出と同時に派遣されたため、日本語や日本文化、企業文化を熟知しながら当然、中国語や中国文化も完全に理解しているため、費用のかかる日本人駐在が不要なのです。

 駐在員が複数いる日系企業の現場よりはやや管理が緩い印象はありましたが、ほどほどの方が現地従業者は働き心地が良いかもしれません。受注は全量近辺の日系大手企業で、売り上げが急激に拡大し、従業員数とともに日本本社を大きく上回っているとのことでした。

(2)定着率が極めて高い日系企業

 私が産学官連携コーディネーターで県内中小企業を巡回していた2年前に、たまたま訪問した50人ほどの部品加工企業です。古びた建屋で、正直あまり活気が感じられなかったのですが、聞いてみると何と上海と東莞の2工場で4000人の従業員が電子部品を生産しているそうです。

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1. 経済グローバル化の本質

 1989年ベルリンの壁崩壊以来、世界は自由貿易に向けて着実に動いていましたが、2017年に就任したD.トランプ米大統領は保護主義に戻そうとしています。その成否は分からないものの、大勢としては「ワンワールド」に向かっていると考えて良いでしょう。その根拠は次の3つです。

(1)物理的距離の減少

 100年前は船で1週間かかっていた距離が、今は航空機で8時間です。飛行機のスピード自体はここ30年ほど進歩がないとはいえ、新興国の大衆にとって以前は高値の花だった海外旅行が一般化し、各国間の距離が近くなっています。

(2)情報技術の発展

 100年前は文字、50年前はラジオ、30年前はテレビなどを通じて行われていた海外情報入手でしたが、いまやインターネットを通じて世界中のあらゆる地域の多くの情報が一瞬で手に入ります。物理的距離以上に情報の距離は短くなっているのです。

(3)文化的距離の減少

 上記2項目の変化で、人的・情報交換が進んでも、長年の文化は簡単には変わりません。ただし、相互理解が徐々に進みます。特に事業の営利が関係すると、理解を進めようとするエネルギーが強まり、変化が加速されます。

 これら3つの力によって世界的観点で産業を効率化しようとなると、各国が相互に得意なものを生産して、他国に輸出しようとするのは当然です。

 国内では自働車の組み立ては愛知県周辺、メガネは石川県、タオルは愛媛県、ワインは山梨県で多く生産されます。その起源はともあれ、結果的に技術、人、材料などのインフラが整っている場所が効率よく生産できるわけで、世界でも同じことが進むとみて良いでしょう。その自然な動きを関税で阻止しても、消費者に不合理を強いることが長く続くわけがありません。いずれ最も合理的な場所で生産するようになるはずです。

 それでは日本が得意な製品とはなんでしょう?

2. 生産の国際分業

 図1は工業品目別に国際的な日本シェアと市場規模をグラフにしたもので、点(丸)の大きさが市場サイズを表わしています。規模が小さいうち(グラフの下方)は全量を国内で作ることも可能ですが、市場が拡大し工場数が増えるにつれて(グラフの上方)生産地は世界各地に分散し、日本生産のシェアが低下する傾向が分かります。この右下から左上に分布する点群の中で、比較的右上に分布すれば日本が得意な品目と言えます。

図1.日本製品の分野毎世界シェア(出展:産業構造審議会産業技術分科会2006年資料)

 図中で紫の点線で囲まれた領域がそれであり、かなり上方でひと際大きなオレンジ色の丸が、世界最大の工業製品である「自動車」です。その右下やや小さなグレーの丸は「電子部品」、右下方の青い小丸「複合プリンター」あたりがかなり日本に向いているようで、いずれもアナログなすり合わせ技術がキーとなる製品です。

 一方左下にはPCや携帯電話などのデジタル製品や、巨額の投資が必要な医薬品が位置しており、技術的に不得意なわけではないものの、競争力を発揮しにくい分野といえるでしょう。短期での状況変化は難しいかもしれません。

3. 中小製造業の海外進出成功事例

 国内での事業維持が難しくなった時に、海外へ進出すれば成功するというほど簡単なものではありません。それでは海外が専門ではない私なりに、知っている3件の成功事例を紹介します。

(1)日本人が一人もいない日系企業

 2011年当時MOT大学院に在籍していた私が、研修旅行で深圳の日系中堅金型メーカーを尋ねたところ、工場代表以下全従業員が中国人であり、ほどほどしっかり管理されていました。この代表は日本留学先の大学を卒業と同時に日本本社に就職し、数年の勤務後に海外進出と同時に派遣されたため、日本語や日本文化、企業文化を熟知しながら当然、中国語や中国文化も完全に理解しているため、費用のかかる日本人駐在が不要なのです。

 駐在員が複数いる日系企業の現場よりはやや管理が緩い印象はありましたが、ほどほどの方が現地従業者は働き心地が良いかもしれません。受注は全量近辺の日系大手企業で、売り上げが急激に拡大し、従業員数とともに日本本社を大きく上回っているとのことでした。

(2)定着率が極めて高い日系企業

 私が産学官連携コーディネーターで県内中小企業を巡回していた2年前に、たまたま訪問した50人ほどの部品加工企業です。古びた建屋で、正直あまり活気が感じられなかったのですが、聞いてみると何と上海と東莞の2工場で4000人の従業員が電子部品を生産しているそうです。

 まだ現地生産が本格化していない1994年に進出し、当初は苦労したものの、従業員の家族の入院費用まで負担するなど行った結果、労使の信頼関係が高まり、今では低い離職率と高い勤労意欲で日本の本社をはるかに上回る業績を上げています。

(3)現地での受注が多い日系企業

 2013年3月、ものづくりドットコム1周年記念大会で、当時の敬愛大学経済学部岸本太一准教授(現東京理科大技術経営専攻講師)が、アジアに進出した中小製造業を研究した結果として、海外進出で成功するパターンについて講演していただきました。それは日本でも十分利益を上げていた企業が、進出した海外でも現地であり得ない日本流の気遣いや気配り対応を行うことで抜群の評価を得て、高価ながらもそれなりの売り上げ、利益を上げているというものでした。

 日本では気配り対応が当たり前で、なかなかそれが価格転嫁できないものですが、海外だからこそ明確な差別化要因となるようです。

 ということで、三者三様、唯一の法則はありませんが、大きな可能性を秘める海外生産です。

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この記事の著者

熊坂 治

ものづくり革新のナレッジを広く共有、活用する場を提供することで、製造業の課題を解決し、生産性を向上します。

ものづくり革新のナレッジを広く共有、活用する場を提供することで、製造業の課題を解決し、生産性を向上します。


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