1.製造業の損得勘定
日常生活と反対のことを、製造現場では正しいと思い込んでいることがあります。例えば、朝食をつくるとき、朝食べられる分だけつくります。しかし、製造現場では、食べられる以上につくってしまう。こんなことが自然と起きています。
車の例で説明しましょう。車をローンで購入するとします。例えば、月々のローンが60,000円。1ヶ月を30日とすると、1日あたり2,000円となります。これが、車を所有するための1日あたりのコストです。一方、レンタカーを借りる時は、1日ごとにコストが発生します。例えば、1日あたり1,500円としましょう。さて、車を所有していて、月々のローンを払っているのに、1日あたりのコストが安いから、別途レンタカーを借りる人がいるでしょうか?
聞くまでもないと思われるかも知れません。しかし、同じような状況が製造現場で起こった場合はどうでしょう。
2.外注依頼の理由
外注に加工依頼をしている工場は多くあり、その理由には、大きく分けて2つあります。
- (1)設備・技術がないので社内ではできないケース。塗装やめっきなどが代表例です。
- (2)社内でやろうと思えばできるけれど、何らかの理由で外注に依頼しているケース。
前者は外注依頼せざるを得ないので、後者の方を考えましょう。社内でできるのに、外注依頼する理由を、「外注に出す方が安くあがる」と考える管理者がいます。これは大きな錯覚です。もし、外注に出す方が安くあがるなら、すべての作業を外注に出せば一番安あがりなわけです。
自社工場がある以上、全作業を外注依頼することが現実的ではないことは分かります。しかし、部分的には外注依頼した方が低コストと考えてしまうことがあります。車の例に当てはめると、自分の車を持っているのに、月に何日かはレンタカーを借りているということです。
3.社内単価と外注単価
外注依頼すると安くあがるという錯覚に陥るのは、社内単価と外注単価という性質の異なるものを比較してしまうからです。外注A社と外注B社の見積もりを比較して、単価が安いほうに発注するのは、同じ性質のものを比較しているので問題ありません。
しかし、社内単価と外注単価を比較してはいけません。費用形態が異なるからです。社内で加工する場合は、加工単位ごとに別途費用が発生するのではなく、毎月の給与として従業員に支払われる、つまり固定費です。一方、外注依頼する場合は、加工単位ごとに別途費用が発生する変動費なのです。
性質の異なるものを同じ基準で比較するから錯覚が起こるのです。社内単価は、外注単価よりも高い場合が多いので、どうしても外注に依頼すれば安くあがると考えてしまいがちです。
そもそも、社内単価とは一体何でしょう。社内の人が変われば変わる。同じ人でも給与が変われば変わる。社内単価設定の目的とその価値を検証する必要がありそうです。
外注依頼すると、従業員給与という固定費に、外注依頼の費用が変動費として上乗せされます。だから、外注依頼が安いという論理は成り立たちません。外注依頼すれば、外注単価に関係なく、全体としてコストアップになります。ここをしっかりと理解しましょう。
次に、外注依頼している加工について、社内でできないものとできるものに区別します。社内でできないものは、そのまま外注依頼を継続します。社内でできるものは、徹底的に内製化を検討します。ただし現実的には、「本当に社内が忙しい!」、「慣れた外注に依頼しておけばトラブルが少ない」、「外注依頼しておかないと、いざというとき依頼できなくなる」など、外注依頼を継続する必要性について現場から意見が出ます。「社内より外注の方が、技術力が高いから安心」という悲しい意見もあるかも知れません。事情は様々あっても、外注依頼は経営に大きな影響を与えることを理解すべきです。
4.外注依頼の事例
携帯電話部品メーカーの事例を挙げましょう。そのメーカーでは、印刷と切断の2工程で、11社の外注に加工依頼をしていました。その金額は、月5,000万円ほどでした。製造部長は、社内が忙しくて外注に出さないと納期に間に合わないと言っていました。そこで、社内の印刷機、NC...