革新的テーマのスパーク(新結合)には「市場知識」「技術知識」「自社の強み」の3つの原料が必要とされます。
研究開発に携わる人たちにとっては、「技術知識」は、「市場知識」に比べ、遥かに詳しいうえ、新しい技術に対する感度が高いでしょう。しかし、革新的なテーマを継続的に創出するためには、「技術知識」も個人的、組織的に継続的に強化していく必要性があります。
「技術知識」には、周辺技術を含め既に自社が保有する技術知識と、自社が保有していない技術知識があります。前者は既に社内に相当の基盤があり、その延長線上で強化を考えればよいものですが、自社が保有していない技術知識についても、普段から広く集めておく姿勢があるかないかで、スパークが起こる可能性が大きく変わるといえます。
1.自社周辺技術知識の強化・拡大モデル『TCAS』とは
自社の技術を強化する方向性を示すモデルにTCASがあります。TCASは4つの要素から構成されます。
(1)発信(Transmit)
「技術知識」を拡大させる際に重要なのは、自社にみえる技術情報だけでなく、その外にある、気づいていない情報や知見を積極的に集めることです。そのためには、自社の技術や事業に関わる情報を主体的に『発信』することが重要です。発信することによって、外部からの自社技術についての問い合わせが増え、自社の技術知識を拡大できるからです。
(2)収集(Collect)
『収集』は文字通り、技術情報を収集し拡大するための活動です。収集には主体的な情報収集に加え、発信に対する問い合わせなどの受信によって、技術知識を増やす方法も含まれます。
(3)活動(Act)
『活動』とは、既存の技術や上で収集した新しい技術を、実際の研究開発や製品開発に活かすことです。このような活動を行うことで、その技術を更に発展させ新しい技術を創出し、また個人や組織に中にその技術を定着させることができます。
(4)共有(Share)
『共有』は、「収集」「活動」で得られた技術知識を、組織横断的に共有するための活動です。社内において、個人や組織単位では技術のレベルには当然ばらつきがありますが、組織横断的に平準化し、高めることが目的です。
『共有』についてさらに詳しく見てみましょう。
2.自社技術知識を『共有』するための2つの方向性
自社保有技術知識の共有化には、ある特定の自社の要素技術を社内横断的に『関係部門間』・『該当研究者・技術者間』で共有・強化するものと、社内にある要素技術を従来関連のなかった部門や研究者・技術者にも広く知らしめ共有化するものの2つがあります。
(1)『関係』部門間/該当研究者・技術者間で共有・強化する
このような技術の共有化の仕組みの例として、東レの「要素技術連絡会」があげられます。東レでは、自社の技術を「基幹技術」、「共通技術」、「新要素技術」の3分野、合計14の要素技術について技術毎に連絡会を開催しています。
具体的な活動としては、自社の技術力の他社比較分析や社内のシンポジウム・勉強会・自主講座の開催、大学との交流の促進、自社の技術施策への提言などを行なっています。このような自社の技術の共有・強化については、他に村田製作所の戦略的技術プログラム(STEP)、3Mのテクニカルフォーラムなどが知られています。
(2)従来『関連のない』部門間/該当研究者・技術者間で共有・強化する
「縦割りの研究開発体制に横ぐしを刺し、組み合わせの論理で面白い製品やサービスを生み出したい」(日本経済新聞2014年2月9日朝刊)。これは三菱ケミカルの...