1.稼働率改善のムダ
稼働率が高い、低いを比べた場合、もちろん高い方が良いように思われます。しかし、稼働率を高めることは手段であり、目的ではありません。
あるゴム製品製造メーカーの工場の事例を見てみます。複数工程を通過して製品を生産するのですが、各工程では稼働率による評価を行っており、工程間で稼働率を競わせていました。各工程のリーダーは、自分が担当する工程の稼働率が上がれば評価されるので、どんどんつくってしまいます。その結果、工程間には大量の仕掛品が積まれてしまいました。
稼働率は、高ければよいというものではありません。しかし、稼働率を上げる=生産性が上がる=コストダウン=利益が増える、と考えている人は多いようです。
2.稼働率の意味
稼働率を上げなければならないと勘違いするいくつかの理由が考えられます。
1つ目は、稼働率=生産性=利益と理解していることです。確かに部分的に見れば、同じ時間内で多くつくれば、稼働率が高まり生産性が向上したことになります。
例えば、2時間食べ放題のバイキングに行くと、元を取るため2時間の間にできるだけ多くを胃袋へ放り込もうとします。この2時間だけを見れば費用対効果が高いかもしれません。しかし、食べすぎで気持ちが悪くなったり、消化しきれずに身体に負担がかかり、得なのかどうか怪しくなります。
2つ目は、高価な機械が止まっていることをムダと考えることです。特に経営者であれば、何千万もかけて導入した機械が1日中止まっていることに、違和感と不安感を覚えるでしょう。だから、何とか動かす方法はないのかと考えてしまいます。
3つ目は、勤務中は何らかの生産をしていなければならない、と考えることです。何かをしていないと、サボっているように周りから見られると思ってしまいます。操業度が落ちていても、工場内でぽかんと突っ立っている人はいません。何かをしていなければという心理が、稼働率向上へと繋がっていくくのです。
仕事量は顧客からの受注で決まり、受注量は毎日一定ではありません。一方、工場の人員はほぼ一定です。仕事量が減れば、空き時間が発生して当然なのです。でも、空き時間だからといって何もしないのは、気が引けてしまうという心理が働きます。生産管理課においても、平準化を目指して生産計画を組みたい心理もあるでしょう。また今は受注が少なくても、いずれ注文が来ると予想される製品では、機械が空いていれば作っておこうという心理が働きます。
このような理由から、稼働率が下がるのを避けようという心理が働き、結果として稼働率を上げようと考えるのです。
3.稼働率向上の目的
このような問題を解消するには、まず稼働率を高めることが目的ではなく手段だと再認識すべきです。そのために稼働率の定義と、稼働率を上げることの目的を明確にしなければなりません。そして、上げるべきか再検証してみることです。
稼働率には、いくつかの定義がありますが、ここで私が使用している「カドウ率」の定義を説明します。
- 稼働率=生産実績数(機械稼働時間)/24時間で生産できる数(24時間)
- 可動率=生産実績数(機械稼働の実績時間)/生産計画数(機械稼働の予定時間)
「カドウ率」は、稼働率と可動率(区別するためにベキドウ率と呼ぶ)に分けて考えましょう。ここで稼働率とは、機械設備を24時間動かしたときに生産できる総数に対して、実際にどれだけ生産したのかを示す基準です。これは受注量で決まるものであり、工場でコントロールするものではありません。機械設備は一定でも、顧客からの注文は変化しますから、注文が減れば稼働率は下がるし、注文が増えれば稼働率は上がってきます。注文が減り稼働率が下がったとしても、工場側で意図的に上げてはなりません。売れないもの...
一方の可動率とは、生産計画に基づいて生産すべき数量に対して、実際にどれだけ生産したかを示す基準です。この可動率は、100%を目指さなくてはなりません。100%でなければ、何らかの問題が発生したというサインであり、その理由を現場で追求する必要があります。工場がコントロールすべきは可動率なのです。
稼働率=生産性というとらえ方は間違いではありません。ただし、生産性の定義が重要です。そこに売上の要素を含めなくてはなりません。大切なことは、顧客に届けられ現金に換わる要素を指標に含めることです。売れないかもしれない在庫は、生産性のアウトプットから除外すべきなのです。
まず機械が止まっていることへの罪悪感を取り去りましょう。大切なことは、今止まっているのが正常なのか異常なのかが分かることです。今日つくるべきモノが無ければ、機械は停止しているのが正常なのです。