【中小製造業のDXへの取り組み 連載へのリンク】
1、中小製造業の2つの事業パターン
2、受託製造サービス業へ脱皮する
3、経済産業省DX Selection 2022
今回は、3回の連載で、経済産業省DX Selection 2022 優良企業事例の分析からDXの方向性を解説します。
9.経済産業省DX Selection 2022
経済産業省では、令和3年度より、中堅・中小企業等のモデルケースとなるような優良事例を「DXセレクション」として発掘・選定しています。本取組は、選定された優良事例を公表することによって、地域内あるいは業種内での横展開を図り中堅・中小企業等におけるDX推進、並びに各地域での取組の活性化に、つなげていくことを目的としています。
では、選定された中小製造業の、いくつかの取り組み事例を紹介します。
◆事例1.株式会社Y金蔵製作所
最初に、グランプリに選ばれた、株式会社Y金属製作所の事例を紹介します。
<企業概要>
「機械加工にイノベーションを起こす」 を企業存在意義と定義し、3つのコア技術を武器に、機械加工という、ものづくりプロセスからの新たな価値の創造に取り組む企業。
【3つのコア技術】
①精密加工技術
②ロボットシステムインテグレーション
③センシング制御・計測評価
<取組概要>
- 2030年に目指す姿を ”Intelligence Factory 2030“ と定義
- 「工場、生産業務プロセス、開発、営業、人財育成、海外展開」 の重点6分野に対し、デジタル技術を駆使して、変革、(=新しい形態にアップデート)することで経営ビジョンの達成を目指す
- ”Intelligence Factory 2030“ 実現のため、4つの戦略を推進中
- ①加工現場のデジタル化と自動化
- ②センシング技術の高度化
- ③ものづくりデータの蓄積と活用
- ④生産拠点の複線化
- Intelligence Factoryの成果を、日本の製造業を取り巻く、課題を解決するための、アウトプットとして、新たなビジネスモデルである、 “LAS (Learning Advanced Support)プロジェクト” を推進中
◆事例2.株式会社N電機製作所
<企業概要>
当社は、主に国内電力会社や大手重電メーカー向けに、「配電盤」と呼ばれる電力制御装置を、設計開発から一貫生産しています。当社の製品は、発電所や鉄道、浄水場等に設置され、私たちが安心して生活するうえで、重要な電気の安定供給を支えています。
<取組概要>
【自社開発の生産管理システムによる、デジタル化と、ものづくりの高付加価値化】
・1990年代から独自の経営管理システム、「NT-MOLシステム」を自社開発
- 原価・工程・在庫の見える化と共有化、3D-CADと、電気回路CADを融合した3D配線測長、データと加工機の、オンライン接続による板金加工の半自動化などデジタル化を実現
・社長が中心となり、「チームIoT」を組織し、現場の困り事の洗い出しと、IoTによる解決を実施
- 電線加工プロセスのロボット化を、自社のエンジニアのみで開発し、社内申請業務を電子化するアプリを、非プログラマの、社員がノーコード開発するなど、社員が自らのアイデアにより、業務改善し、デジタル人材の育成にもつなげている。
◆事例3.株式会社R社
<企業概要>
当社は、 油圧装置の販売・修理・メンテナンスを手掛け、来年で創業55年を迎えます。昨今の様々な外的要因による、電気駆動式への置き換え需要に伴い自社の強みを活かして、AI外観検査システム市場に参入しました。タイ大学内LABOと、同時開発できる環境を整備するなど、社内DXを進めながら新システムの開発・販売で、製造業の生産性向上に寄与しています。
<取組概要>
【デジタイゼーション】
- 開発環境の見える化、(GitHubの活用で日本とタイのグローバル開発の効率化)
【デジタライゼーション】
- 新業務システム、(見積・販売・給与・会計)、導入によるデータ連携
- 外観検査システムの、サブスクリプションによる販売
【DX】
- 自社オリジナルの、クラウドAI外観検査システム、[CLAVI]の開発(スマホやMアールでの部品検査)
初期投資20万円、月2万円の低価格なクラウドAI検査システムのサービス提供
- MRを活用した油圧装置の遠隔メンテナンスサービス(2022年度より実証実験開始予定)。
◆事例4.株式会社M社
<企業概要>
弊社は昭和25年の設立以来、主に輸送用板金部品を生産しており、主要な製品はトラックの車体部品、乗用車のミッション部品である。金型設計製作、プレス加工、機械加工、溶接、塗装、組立までを自社内設備で一貫生産できること、1個の小ロット生産から、1万個超/月の大量生産まで顧客のニーズに合わせた生産ができる体制を備えていることが特徴である。
<取組概要>
自動車のEV化に対応する為 「IoT技術を活用して、QCDを大幅に向上することで、新規受注や異業種への参入を可能にする会社に変革し、競争上の優位性を確立する」ことを目的に、2018年「M社IoT5ヵ年計画」を始めた。主な活動は、次の4点である。
- ①計測器をネットワークに接続して、検査データをデータベースに転送、工数削減すると共に誤記入防止、統計処理の自動化等で、管理向上を図る。
- ②作業指示、作業標準、報告書類を電子化し、情報へのアクセス性を高めると 共に、管理工数の削減をする。
- ③全製造設備にマイコンを組込み、稼働データを発信、データベースに集約見える化して、生産性向上に繋げる。
- ④大量生産ラインのプレス、切削、検査工程にロボットを導入して、スマートファクトリー化し、品質安定化、生産性向上を実現する。
IoTコア組織を立上げ、育成して主な開発を、内製化することで、技術の蓄積と低コスト化を図った。 今後は協力会社様との連携も含め、活動を継続する予定である。
◆事例5.株式会社H製作所
<企業概要>
H製作所は、「お客様に信頼され、満足していただける会社づくり」という経営理念のもと、常に時代の最先端の技術を追い求めています。当社は金属プレス技術の中でも、「深絞り」技術を得意としており、「超高張力鋼板」の深絞り加工や成型加工が主要製品となっています。また、製品を加工するための金型や溶接治具、生産設備を自社で一括生産できることも強みです。
<取組概要>
グローバル市場拡大に加え、CN対策などにより、更に競争が激化する時代に必要とされる企業を目指し、「情報化時代における、高い技術の専門性追求と新しい管理技術の実現による、プロフィット改革の実現」を中期経営改革方針に掲げ、2019年より下記DX活動を中心に取り組んでいる。当社はこの活動により生まれた人材を中心に、生産・管理両面の業務改革とともに、培ったIT技術のサービス化を進めている
- ①全部門とのデータ共有を可能にする、「社内プラットフォーム」を自社開発し 各種管理データとノウハウを連携させることで、品質・生産性向上の両面を実現
- ②製造工程に精通する人材と、ITエンジニアの双方を集めた“ブリッジエンジニア”と呼ばれるチームを発足させ、生産現場とシステム開発を繋ぐことにより、「使えるアプリ」の開発と、デジタル人材の育成を促進
- ③過去の品質情報などから、各種トラブルの事象に対する原因と対策、及びその評価を学習させる、「AI技術伝承システム」の開発により、社員の学び直しや、技術伝承を強化
10.まとめ(DX化の取り組み)
以上紹介した5社以外も含め、製造業11社が優良企業として選定されています。では、企業の実像を捉えてみましょう。
①企業規模について
社員数は11社の平均で、105名、最小が24名、最大が280名、資本金の平均は約6千万円となっています。 ちなみに、資本金が3億円以下、あるいは従業員数300人以下を中小企業と法律で定義されているため、やや、小規模の部類に入ります。しかし、20名以下の零細企業とは異なり、ある程度の規模を持った中小製造業ともいえます。
②経営ビジョン
11社中6社が、デジタル技術、IT技術によるデータ分析などを取り入れた経営ビジョンを打ち出しており、社長自らが中心となってチームを結成しIOTによる現場の改善に取り組んでいる企業もあります。ここで、トップのリーダシップの重要性が見て取れます。
③コア技術について
得意分野の加工技術であらゆる業界の製品に対応する、すべての製造工程を自社で賄う、あるいは設計から製造まで一貫して受注生産し、顧客のきめ 細かい要望に対応しているなど、技術+き...