【記事要約】
SiO2の結晶構造には、低温型石英、高温型石英、 低温型トリディマイト、高温型トリディマイト、低温型クリストバライト、高温型クリストバライトの6形態のほか、超高圧で安定なコーサイトやスティ ショバイトがあり、合計8形態が存在する。このうち地球上で圧倒的に多量に産出するのは低温型石英であり工業材料として多くの分野で利用されています。一方、コーサイト、スティショバイトは、非常に硬度が高く、密度が大きく、弗化水素に対する耐性を有しているため、魅力的な工業材料である。しかし、非常に高い高圧が必要なため、自然界では非常に希少価値の高いシリカです。また、人工的に作成することは可能ですが、コストがかかるため現時点では工業化が課題となってします。しかし、今後高圧化の技術が進み、低コストで作成することができるようになることで、次世代のシリカ材料になることが期待されています。
1. シリカの構造
(1)シリカの結合
SiO2の結晶はダイヤモンドのように純粋な共有結合の結晶として扱われることが多く、この共有結合がシリカの構造には重要な役割を示します。更に、Siは4つの電子を持ち、Oは6の電子を持ちます。なので:O::Si::O: (それぞれのOの上に1対の非共有電子対があります。=電子16個)。このため、電気陰性度(ポーリングの値)はSiが1.8、Oが3.5となり、その差は1.7もあるため、Si-Oの 結合は、イオン結合性に富んだ共有結合であると考えられています 1)。
SiO4四面体は、O原子が隣り合う2個のSi原子に共有されて結合しているため、組成を示すときはSiO2として表現されます。
(2)シリカの骨格
シリカの骨格は、Siに配位した4個の酸素が形成する正4面体構造をとります。Si4+およびO2-のイオン半径は、それぞれ0.41Åおよび1.4Åで、図1に示すようにSi4+を中心とした各頂点にO2-を置いた四面体構造(a)を最小構造単位としてします。この四面体が(b)に示すように頂点を共有しながら連続した構造を形成してしたとき、O2-と2個のSi4+との間でできる結合角θが異なることで構造が決定され、SiO44面体の酸素同士が結合して3次元のネットワーク構造(c)が形成されています。このSiO44面体が周期的な規則性をもって結合したものを結晶質シリカと呼び、反対に規則性がない場合には非晶質シリ力と呼ばれています。また、結晶質シリカの単位がサブミクロン程度ときわめて小さい場合は、微細結晶質シリカと呼ばれています。尚、作図にあたり、a)はイオン半径比と結合を考慮して作成。b)、c)については、骨格と結合角ならびに3次元ネットワークの関係を理解していただくため、イオン半径の大きさを考慮しています 2)。
図1.シリカの骨格とネットワーク構造2)
(3)非可塑性材料
シリカは、非可塑性材料の代表的なものともいわれています。可塑性とは、ものに力を加えた後にその力を取り去った途端もとの形状に戻ろうとする性質で、弾性ともよばれます。一方、非可塑性とはその逆で、ものに力を加えた後にその力を取り去ってもとには戻らず、更に力を加えた場合には崩壊してしまうこともあり、このような非可塑性の性質はシリカの構造に関係します1)。
(4)シリカ(SiO2)の多形と転移
一般にSiO2 の結晶はダイヤモンドのように純粋な共有結合の結晶として扱われることが多い。しかし、熱により構造変化するため、多くの形を持ったものが存在します。SiO2 のように同一組成の物質が 2 種以上の結晶構造で存在するとき、これらの各構造を多形(同質異像)といい、各構造間での変化を相転移(転移)といいます。多形を示す物質が各温度・圧力においてどの構造が最も熱力学的に安定に存在するかを表した図を相図(状態図)といいます。図2にSiO2 の相図を、SiO2 融解液の冷却速度と転移の関係を図3に示します。
図2. SiO2の相図 3)
図3. SiO2 融解液の冷却速度と転移の関係 3)
一般に、高温では、SiO4 四面体は O2-同士の反発力が増し、Si-O-Si 結合角は大きくなり、低密度の結晶構造へ変化しやすくなり、低温ではこの逆の傾向を示します。一方、高圧では、結晶内での SiO4 四面体間の空隙が減るため、Si-O-Si 結合角は小さくなり、高密度の結晶構造へ変化しやすくなり、低圧ではこの逆の傾向を示します。つまり、圧力が高くかつ温度が低いものほど結晶密度が高密度化し、反対に圧力が低くかつ温度が高いものほど結晶密度が低密度するといえます(図4)。
図4.温度と圧力による結晶構造の変化
2. SiO2の結晶構造
SiO2の結晶構造には、低温型石英、高温型石英、 低温型トリディマイト、高温型トリディマイト、低 温型クリストバライト、高温型クリストバライトの 6 形態のほか、超高圧で安定なコーサイトやスティ ショバイトがあり、合計 8 形態が存在します。
(1)クリストバライト
図5に高温型クリストバライトの構造を示します。高温型のクリストバライトは、Si-O-Si 結合角が 最大の180°のため、SiO2の結晶中では最低の密度 2.2 g/cm3 です。結晶は立方晶系、八面体の結晶で、Si 原子のみに着目すると、ダイヤモンドと同じ結晶構造となります。モース硬度は 6.5 ~7.0で、ガラスや鋼鉄などに傷をつけることができる硬さを有しています。また、図3に示すように温度が下がると速やかに低温型のクリストバライトに転移します。両者は、結晶の基本構造が同じであるが、低温型では Si-O-Si 結合角が 180°よりもやや小さく、高温型に比べて結晶格子がやや押しつぶされた格好となり、密度は 2.3 g/cm3 とやや増加する傾向を示します。
図5. 高温型クリストバライトの構造 3)
(2)トリディマイト
図6に高温型トリディマイトの構造を示します。高温型のトリディマイトは、Si-O-Si 結合角が 180°と最大のため、SiO2 の結晶中では、高温型クリストバライトと同様に最低の密度 2.2 g/cm3 です。六方晶系、六角板状の結晶で、モース硬度は 7.0です。また、SiO2 の Si を O に、SiO2 の O を H でそれぞれ置き換えると、氷の結晶構造と同じになるのが特徴の一つです。更に、クリストバライトと同様に、温度が下がると速やかに低温型のトリディイトに転移します(図3)。両者は、結晶の基本構造が同じですが、低温型のSi-O-Si 結合角は、180°よりもやや小さく、高温型に比べて結晶格子がやや押しつぶされた格好となり、その密度は 2.3 g/cm3 とやや増加します。よって、低温型のクリストバライトと同じ傾向を示します。
図6. 高温型トリディマイトの構造 3)
(3)石英
石英は、結晶を持つシリカの中で最もよく知られており、さまざまな産業に利用されています。石英は高温型石英と低温型石英に大別され。一般的に石英と呼ばれているものは、低温型石英に分類されます。更に、結晶構造は、らせん構造をもつことが特徴の一つです。また、非晶質である石英ガラス(ガラス)は、石英のガラス融液を急速に冷却することで得られます。
① 高温型石英
高温型石英のSi-O-Si結合角は155°であり、結晶の密度はクリストバライトやトリディマイトよりもやや大きく 2.5 g/cm3。六方晶系、六角錐形の結晶で、モース硬度は 7.0です。また、高温型石英も、温度が下がると速やかに結晶格子がやや押しつぶされた格好の低温型石英に転移します。
② 低温型石英
一般的に石英と呼ばれているものは低温型石英を指し、このうち結晶がよく成長したものが水晶とよばれています。低温型石英の Si-O-Si 結合角は 146.5°であり、高温型石英よりも結合角がやや小さいため、結晶の密度は 2.7 g/cm3と高温型石英よりもやや大きくなります。結晶は、三方晶系、六角柱状で、モース硬度 7.0 です。次の写真に高温型石英と低温型石英の外観を示します。
a)高温型石英 4)
b)低温型石英(石英)5)
図7 石英の構造 3)
a) 高温型石英の構造 b) 図a)を真上から見たもの c) 低温型石英の構造
矢印はらせんの方向を示す。
図8. 低温型石英の構造 3)
③ コーサイト
図9にコーサイトの構造を示します。コーサイトのSi-O-Si 結合角は 130.5°で、石英よりもさらに密度が大きく 2.9 g/cm3 である。単斜晶系、モース硬度は 8.0を示し、3 ~ 10 万 atm、すなわち、地下 100~300km のマントル表層部で安定となる SiO2 の結晶形です。コーサイトは、SiO4 四面体の単位構造を保ったまま、より高密度の構造へ転移したものとなります。つまり、SiO4 四面体が四員環構造をなし、これらが連結して二重鎖の構造を作ります。さらに、Si-O の架橋結合によって、長石と同じような三次元構造となったものです。更に、石英とは異なり、濃フッ化水...