新規事業を作りたいならそれなりの変革をしてからにせよ~技術企業の高収益化:実践的な技術戦略の立て方(その19)

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新規事業を作りたいならそれなりの変革をしてからにせよ~技術企業の高収益化:実践的な技術戦略の立て方(その19)

【目次】

    前回に続き今回も新規事業の開発に悩む経営者のお話です。「なぜ新規事業が立ち上がらないのか?」とは誰しも悩むものですが、その典型的な症状に関するお話です。今回の主人公はA社のCTO、とある上場企業のCTOです。以下、Aさんと呼びます。Aさんはいわゆる「生え抜き」の優秀なエリートCTO。技術畑を歩まれて留学もされた、華々しいキャリアをお持ちのAさんのお悩みとは?

     

    A社の環境についてご紹介します。A社は化学や材料のプロセス系の製造業です。昭和時代にとある物質の合成に成功し、その後事業を広げてきた会社です。詳しいことは書けませんが、サプライヤーとして一定の力がありました。

     

    Aさんは技術者として入社して、コア技術の基礎研究や商品化などに携わられたそうです。その後機会があって留学。研究生活は非常に充実していたそうですが、残念ながら持ち帰った技術はあまり会社では用いられなかったと言います。とはいえ、既存事業への貢献で十分にエリートコースを歩まれたAさんは今やCTOで、傍から見れば十分に報われたように見えました。

     

    1. CTO Aさんのお悩みとは?

    「これからどのようなステップを踏もうとされているのですか?」と私がAさんにお聞きすると、Aさんは次のように答えられました。「まずは技術の棚卸しをして、どのようなテーマが可能なのかを検討しようと思います。」「そうなんですね、どうしてそう思われるのですか?」と私がお聞きすると、Aさんは困ったような表情をされました。「どのようなテーマが出ることを期待されているのですか?」と私がお聞きすると、Aさんは困った表情をされました。そして借りてきた言葉を話すかのように「社会課題を解決するようなテーマがでると良いですかね、、、」と話されました。ここで私はAさんがビジョンらしいものを持っていないな、と確信しました。「痛いところを突かれた」という表情をご本人もなさったからです。

     

    Aさんの肩を持つわけではないのですが、Aさんはすばらしく優秀な方です。仕事では成果を上げられ留学まで果たされたのですから。しかし問題は、A社が現在必要とする能力を持っているか?でした。

     

    2. 必要なのはエリート力ではなく、異端力だった

    比喩的に言えば、Aさんは勉強はよくできるもののダンスは苦手な高校生とでも言えましょう。勉強もダンスも、とは人間いかないものです。先日のコラムにも書きましたが、新規事業に必要なのはダンス力です。Aさんに限らず、A社にはダンス力がない、というのはAさんとの会話で明らかになりました。

     

    「お手元には新しいテーマがないのですか?」と私がお聞きすると、Aさんは待っていましたという勢いで答えられました。

     

    「それが、全く面白いテーマがないのですよ。うちの社員は優秀なのですけどね、真面目でいわゆるタコツボなのです。もう少し外の技術に目を向けてくれれば良いのですけどね。

     

    Aさんの話をまとめると、面白いテーマがなさすぎて選びようがない、そんな状況でした。いくつもテーマはあるのです。しかしながら、全てが今までの延長線上で尻すぼみなテーマ。極端な話「成熟産業に成熟技術を投入するために金をくれ」、と言っているようなテーマだったのです。

     

    ここまで読んで頂くと、読者の皆さんもAさんに少しは同情して頂いたのではないでしょうか。そう、Aさんが悪いのではなく、それまで上がってくるテーマがそもそも良くないものだったのです。とはいえ、AさんはCTO。Aさんには上がってくるテーマを良くしていく責任があります。そこで「技術の棚卸し」という方策をお考えだったのですが、私にはこれが極めて残念に思えました。というのは、いかにも一般的だったからです。そこに七味唐辛子的な一工夫があれば良かったのですが、ピリリとした刺激もなく普通にやりそうな響きがあったのです。

     

    口には出しませんでしたが「誰かから聞いた技術の棚卸しをするのだろうか、多分結果は出ないだろうな」などと思いました。なぜならば、すべてが悪い意味で「一般的」だったからです。

     

    3. 一般的、のオンパレード

    A社の人材はその業種として極めて一般的な構成でした。結果、出てきたテーマも一般的な成熟産業に成熟技術を投入するもの。人事も一般的な生え抜き人事。既存事業で業績を上げた人が常識的な判断をする。さらに、これからやろう「技術の棚卸し」も一般的なこと。これでは、ユニークなことなど起こせるはずがない、と思ったのです。

     

    テーマや戦略を期待しながら、やっていることは一般的。この構図、A社に限らずどこの会社にも実は多いのです。そりゃそうです。一般的「でない」やりかたに変えるのは軋轢(あつれき)を生みます。無駄な軋轢を生みたくない、と考えるのは日本人的ですよね。少しでも処方箋を提供しようと私が進言したのは採用でした。異分野人材をいれてテーマ検討に変化をつけることです。Aさんに「人材を入れるべき」とやんわりお伝えした所、Aさんは「採用の権限がない」という趣旨のことを言われました。いかにも日本企業的だな、と思いました。

     

    まとめると、Aさんは、面白いテーマが手元にない、生え抜き社員しかいない、人材を採用もできない、そういう制約の中でなんとか頑張ろうとしているの...

    新規事業を作りたいならそれなりの変革をしてからにせよ~技術企業の高収益化:実践的な技術戦略の立て方(その19)

    【目次】

      前回に続き今回も新規事業の開発に悩む経営者のお話です。「なぜ新規事業が立ち上がらないのか?」とは誰しも悩むものですが、その典型的な症状に関するお話です。今回の主人公はA社のCTO、とある上場企業のCTOです。以下、Aさんと呼びます。Aさんはいわゆる「生え抜き」の優秀なエリートCTO。技術畑を歩まれて留学もされた、華々しいキャリアをお持ちのAさんのお悩みとは?

       

      A社の環境についてご紹介します。A社は化学や材料のプロセス系の製造業です。昭和時代にとある物質の合成に成功し、その後事業を広げてきた会社です。詳しいことは書けませんが、サプライヤーとして一定の力がありました。

       

      Aさんは技術者として入社して、コア技術の基礎研究や商品化などに携わられたそうです。その後機会があって留学。研究生活は非常に充実していたそうですが、残念ながら持ち帰った技術はあまり会社では用いられなかったと言います。とはいえ、既存事業への貢献で十分にエリートコースを歩まれたAさんは今やCTOで、傍から見れば十分に報われたように見えました。

       

      1. CTO Aさんのお悩みとは?

      「これからどのようなステップを踏もうとされているのですか?」と私がAさんにお聞きすると、Aさんは次のように答えられました。「まずは技術の棚卸しをして、どのようなテーマが可能なのかを検討しようと思います。」「そうなんですね、どうしてそう思われるのですか?」と私がお聞きすると、Aさんは困ったような表情をされました。「どのようなテーマが出ることを期待されているのですか?」と私がお聞きすると、Aさんは困った表情をされました。そして借りてきた言葉を話すかのように「社会課題を解決するようなテーマがでると良いですかね、、、」と話されました。ここで私はAさんがビジョンらしいものを持っていないな、と確信しました。「痛いところを突かれた」という表情をご本人もなさったからです。

       

      Aさんの肩を持つわけではないのですが、Aさんはすばらしく優秀な方です。仕事では成果を上げられ留学まで果たされたのですから。しかし問題は、A社が現在必要とする能力を持っているか?でした。

       

      2. 必要なのはエリート力ではなく、異端力だった

      比喩的に言えば、Aさんは勉強はよくできるもののダンスは苦手な高校生とでも言えましょう。勉強もダンスも、とは人間いかないものです。先日のコラムにも書きましたが、新規事業に必要なのはダンス力です。Aさんに限らず、A社にはダンス力がない、というのはAさんとの会話で明らかになりました。

       

      「お手元には新しいテーマがないのですか?」と私がお聞きすると、Aさんは待っていましたという勢いで答えられました。

       

      「それが、全く面白いテーマがないのですよ。うちの社員は優秀なのですけどね、真面目でいわゆるタコツボなのです。もう少し外の技術に目を向けてくれれば良いのですけどね。

       

      Aさんの話をまとめると、面白いテーマがなさすぎて選びようがない、そんな状況でした。いくつもテーマはあるのです。しかしながら、全てが今までの延長線上で尻すぼみなテーマ。極端な話「成熟産業に成熟技術を投入するために金をくれ」、と言っているようなテーマだったのです。

       

      ここまで読んで頂くと、読者の皆さんもAさんに少しは同情して頂いたのではないでしょうか。そう、Aさんが悪いのではなく、それまで上がってくるテーマがそもそも良くないものだったのです。とはいえ、AさんはCTO。Aさんには上がってくるテーマを良くしていく責任があります。そこで「技術の棚卸し」という方策をお考えだったのですが、私にはこれが極めて残念に思えました。というのは、いかにも一般的だったからです。そこに七味唐辛子的な一工夫があれば良かったのですが、ピリリとした刺激もなく普通にやりそうな響きがあったのです。

       

      口には出しませんでしたが「誰かから聞いた技術の棚卸しをするのだろうか、多分結果は出ないだろうな」などと思いました。なぜならば、すべてが悪い意味で「一般的」だったからです。

       

      3. 一般的、のオンパレード

      A社の人材はその業種として極めて一般的な構成でした。結果、出てきたテーマも一般的な成熟産業に成熟技術を投入するもの。人事も一般的な生え抜き人事。既存事業で業績を上げた人が常識的な判断をする。さらに、これからやろう「技術の棚卸し」も一般的なこと。これでは、ユニークなことなど起こせるはずがない、と思ったのです。

       

      テーマや戦略を期待しながら、やっていることは一般的。この構図、A社に限らずどこの会社にも実は多いのです。そりゃそうです。一般的「でない」やりかたに変えるのは軋轢(あつれき)を生みます。無駄な軋轢を生みたくない、と考えるのは日本人的ですよね。少しでも処方箋を提供しようと私が進言したのは採用でした。異分野人材をいれてテーマ検討に変化をつけることです。Aさんに「人材を入れるべき」とやんわりお伝えした所、Aさんは「採用の権限がない」という趣旨のことを言われました。いかにも日本企業的だな、と思いました。

       

      まとめると、Aさんは、面白いテーマが手元にない、生え抜き社員しかいない、人材を採用もできない、そういう制約の中でなんとか頑張ろうとしているのだということでした。しかし客観的にみて、その状況は無理筋に見えたものです。期待するアウトプットに対して不適切なインプットしかないように見えたからです。

       

      さて、A社のように、期待するアウトプットに対してインプットが不適切な構図、皆さんの身の回りにもないでしょうか?言うまでもなく、これが不適切だと結果が出ません。しかし人間誰しも初めてのことには判断がつきにくいもの。そのために、不適切なまま突っ込んでいく、そんなことがよくあるような気がします。そんな違和感をお感じの時、どうぞご自身で吟味なさってください。「期待されるアウトプットに対して適切なインプットができているだろうか」これを吟味するだけでも見えてくる構図は変わってくるものです。

       

      次回に続きます。

      【出典】株式会社 如水 HPより、筆者のご承諾により編集して掲載

       

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      この記事の著者

      中村 大介

      若手研究者の「教育」、研究開発テーマ創出の「実践」、「開発マネジメント法の導入」の3本立てを同時に実践する社内研修で、ものづくり企業を支援しています。

      若手研究者の「教育」、研究開発テーマ創出の「実践」、「開発マネジメント法の導入」の3本立てを同時に実践する社内研修で、ものづくり企業を支援しています。


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