繰り返される動作は、脳が意識しないでスルーする:ヒューマンエラー防止策(その4)

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繰り返される動作は、脳が意識しないでスルーする:ヒューマンエラー防止策(その4)

【目次】

    1. 日常いつも見ているものほど、実は見ていない

    嘘でしょ!と言われるかもしれませんが、面白いほどよくわかる事例ですので、セミナーの時に使う松田マジックを2つ紹介します。

     

    1つは「さあ皆さん、おはようございます。良くいらっしゃいました。このセミナー会場を見渡してもらいます。『黒い』ものがたくさんありますが、椅子、ハンガーなど10個以上数えてください。ようーい、はじめ!」と掛け声をかけます。15秒で十分です。「さて、数えましたね?」と参加者の顔をうかがい確認します。

     

    「さて、目を閉じてください。これからクイズを出します。先ほどは、『黒い』ものを探してもらいました。クイズは、丸いもの(四角でも、赤でも何でも構いませんが、予め数えておいてください)もありましたね。さあ、思い出してください。5つ思い出した方は手を挙げてください♪」と投げかけます。

     

    皆さん困った顔をして、頭を抱えます。10秒くらい待っても誰も手を挙げる人はいません。「皆さん、見たはずですね!誰も手が挙がりませんねえ。それでは、目を開けてください!」と手を大きく叩きます。参加者全員が、目を大きく開けて丸いものを探します。

     

    誰でもよいので、キョロキョロした人を指名して「目を開けて何を探しましたか?もしかして丸いものですか?」。指名された人は、バツが悪そうに「そうです」とボソボソと答えます。部屋を見渡した時に色々と見たのですが『黒い』ものだけを集中して探したから、他のものは一切記憶から除外したのです。パッと目を開けた瞬間に「丸いものはどこだ?」と探したのです。意識するとは、こんな簡単なことなのです。

     

    もう一つの事例紹介です。腕時計で時間を確認してもらいます。「いい時計をしておられますね。今何時ですか?」と聞きます。「11時17分です!」「ありがとうございます。」と言ってその人の時計を軽く握って見えなくします。「さて、今時計を見てみらいましたが、12時のところの文字盤の表示はどうなっていましたか?針の色は?」。

     

    持ち主は、どういうわけだか応えられません。苦し紛れに「アラビア数字の1と2ですぅ。針の色はシルバーだったような気がしますが。」としどろもどろになります。手を外して見せてあげるとまったく違う答えに、さらに追及して「これはあなたの時計ですか?昨日買った時計ですか?」「私のです。もう5年になり毎日使っています。トホホ」。嘘のようで本当の話ですが、2つとも実験してみてください。それほど意識しないと、今見たことも記憶に残らないのです。 

     

    2. ベテランほど単純なミスを犯しやすく、その原因もわからない

    このように毎日繰り返される動作や考え事は、見ていても脳が反応しなくなるのです。時計を見て時刻を確認する動作は、1日に数十回あります。でも時計全体をみているのに、文字盤や針の色や形はまったく記憶に残らないのです。なぜかと言えば、いちいち反応して考えていると、脳がパニックになってしまうからです。必要な情報が判断できれば、あとは一瞬のうちに脳が消してしまうのです。

     

    そのために習慣化している動作や確認項目などは、脳が反応しないで意識しないでスルーしてしまうのです。例えば、朝起きて右の方から起きるのか、それと左にしようかなど1日寝るまで、なんと2万回以上もどっちにするかなど判断しているそうです。毎回もやっておられません。だから習慣化している動作は、スルーという巧妙な手を使って脳を休ませているのです。

     

    これは特にベテランのオペレータが、何でこのような単純なヒューマンエラーをやってしまったのか全く想像もつかないことがあります。当人は確実に作業をしているようでも、誰かが声をかけたり、機械のトラブルがあったり、作業中断をせざるを得ないことがあったりしたあとに、いつものように無意識で作業をしてしまうことが時にあるのです。なんであのベテランが?と思うようなミスが発生し、本人もなぜこんなことをしたのか記憶にないことがあります。

     

    外乱があって作業が中断しても体が長年覚えており、その作業や確認項目をスルーしてしまうことがあるのです。本人を責めないでください。オペレータの責任ではなく、仕事や作業の仕組みの中で防止していかなければなりません。私たち日本人は、誰かの責任にしてしまって一件落着する精神がDNAに刻みこまれています。これではヒューマンエラー防止策になりません。仕組みの中で解決していきましょう。 

     

    3. 意識して見えるようになる観察の仕方

    このような作業中断時や何かが変化した時に、発生するミスが多くあります。さらに設計変更、作業方法の変更、材料変更、機械や設備の変更などの変化点があった時に、ヒューマンエラーは発生しやすいのです。作業観察してムダや改善点を探す時に、意識する項目が予め決まっていると発見しやすくなります。最初の事例の部屋に黒い物と丸い物を5つずつ探してくださいと言えば、それぞれを簡単発見することができます。

     

    【意識する7つの項目】

    • (1)安全:エッジやバリ、床の凸凹、ケーブル類の直置きなどです。
    • (2)作業姿勢(エルゴ...

    繰り返される動作は、脳が意識しないでスルーする:ヒューマンエラー防止策(その4)

    【目次】

      1. 日常いつも見ているものほど、実は見ていない

      嘘でしょ!と言われるかもしれませんが、面白いほどよくわかる事例ですので、セミナーの時に使う松田マジックを2つ紹介します。

       

      1つは「さあ皆さん、おはようございます。良くいらっしゃいました。このセミナー会場を見渡してもらいます。『黒い』ものがたくさんありますが、椅子、ハンガーなど10個以上数えてください。ようーい、はじめ!」と掛け声をかけます。15秒で十分です。「さて、数えましたね?」と参加者の顔をうかがい確認します。

       

      「さて、目を閉じてください。これからクイズを出します。先ほどは、『黒い』ものを探してもらいました。クイズは、丸いもの(四角でも、赤でも何でも構いませんが、予め数えておいてください)もありましたね。さあ、思い出してください。5つ思い出した方は手を挙げてください♪」と投げかけます。

       

      皆さん困った顔をして、頭を抱えます。10秒くらい待っても誰も手を挙げる人はいません。「皆さん、見たはずですね!誰も手が挙がりませんねえ。それでは、目を開けてください!」と手を大きく叩きます。参加者全員が、目を大きく開けて丸いものを探します。

       

      誰でもよいので、キョロキョロした人を指名して「目を開けて何を探しましたか?もしかして丸いものですか?」。指名された人は、バツが悪そうに「そうです」とボソボソと答えます。部屋を見渡した時に色々と見たのですが『黒い』ものだけを集中して探したから、他のものは一切記憶から除外したのです。パッと目を開けた瞬間に「丸いものはどこだ?」と探したのです。意識するとは、こんな簡単なことなのです。

       

      もう一つの事例紹介です。腕時計で時間を確認してもらいます。「いい時計をしておられますね。今何時ですか?」と聞きます。「11時17分です!」「ありがとうございます。」と言ってその人の時計を軽く握って見えなくします。「さて、今時計を見てみらいましたが、12時のところの文字盤の表示はどうなっていましたか?針の色は?」。

       

      持ち主は、どういうわけだか応えられません。苦し紛れに「アラビア数字の1と2ですぅ。針の色はシルバーだったような気がしますが。」としどろもどろになります。手を外して見せてあげるとまったく違う答えに、さらに追及して「これはあなたの時計ですか?昨日買った時計ですか?」「私のです。もう5年になり毎日使っています。トホホ」。嘘のようで本当の話ですが、2つとも実験してみてください。それほど意識しないと、今見たことも記憶に残らないのです。 

       

      2. ベテランほど単純なミスを犯しやすく、その原因もわからない

      このように毎日繰り返される動作や考え事は、見ていても脳が反応しなくなるのです。時計を見て時刻を確認する動作は、1日に数十回あります。でも時計全体をみているのに、文字盤や針の色や形はまったく記憶に残らないのです。なぜかと言えば、いちいち反応して考えていると、脳がパニックになってしまうからです。必要な情報が判断できれば、あとは一瞬のうちに脳が消してしまうのです。

       

      そのために習慣化している動作や確認項目などは、脳が反応しないで意識しないでスルーしてしまうのです。例えば、朝起きて右の方から起きるのか、それと左にしようかなど1日寝るまで、なんと2万回以上もどっちにするかなど判断しているそうです。毎回もやっておられません。だから習慣化している動作は、スルーという巧妙な手を使って脳を休ませているのです。

       

      これは特にベテランのオペレータが、何でこのような単純なヒューマンエラーをやってしまったのか全く想像もつかないことがあります。当人は確実に作業をしているようでも、誰かが声をかけたり、機械のトラブルがあったり、作業中断をせざるを得ないことがあったりしたあとに、いつものように無意識で作業をしてしまうことが時にあるのです。なんであのベテランが?と思うようなミスが発生し、本人もなぜこんなことをしたのか記憶にないことがあります。

       

      外乱があって作業が中断しても体が長年覚えており、その作業や確認項目をスルーしてしまうことがあるのです。本人を責めないでください。オペレータの責任ではなく、仕事や作業の仕組みの中で防止していかなければなりません。私たち日本人は、誰かの責任にしてしまって一件落着する精神がDNAに刻みこまれています。これではヒューマンエラー防止策になりません。仕組みの中で解決していきましょう。 

       

      3. 意識して見えるようになる観察の仕方

      このような作業中断時や何かが変化した時に、発生するミスが多くあります。さらに設計変更、作業方法の変更、材料変更、機械や設備の変更などの変化点があった時に、ヒューマンエラーは発生しやすいのです。作業観察してムダや改善点を探す時に、意識する項目が予め決まっていると発見しやすくなります。最初の事例の部屋に黒い物と丸い物を5つずつ探してくださいと言えば、それぞれを簡単発見することができます。

       

      【意識する7つの項目】

      • (1)安全:エッジやバリ、床の凸凹、ケーブル類の直置きなどです。
      • (2)作業姿勢(エルゴノミー):特にしゃがみや背伸びさらに振り向きや重筋作業などです。
      • (3)不良手直しなど品質:手直しは結果として良品にしてしまいますが、その手直し工数などは表面に表れません。
      • (4)作業環境の5S
      • (5)無駄
      • (6)技術的な問題:やりにくい、難しい組立や加工などです。
      • (7)組織的な問題:手順、マニュアル、標準がない、あっても実際と違うなどです。

       

      この観察の仕方とエルゴノミー評価表の詳細は、筆者のHP「CHECK」欄に掲載していますので、ご活用ください。魔法のように、見えなかったことが見えるようになります。発見したことからすぐに改善していきましょう。ヒューマンエラーがすぐに削減できます。

       

      次回に続きます。

       

      【出典】株式会社 SMC HPより、筆者のご承諾により編集して掲載 

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      この記事の著者

      松田 龍太郎

      見えないコトを見えるようにする現場改善コンサルタント。ユーモアと笑顔をセットにして、元氣一杯に現地現物での指導を心がける。難しいことはわかりやすく、例え話や事例を用いながら解説し、納得してもらえるように楽しく動機付けを行います。

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