人間が実際の行動をするまでには、外部情報を目や耳などの感覚器官から受け取り・認識し、知識や過去の経験に基づいて処理・判断し、行動するというプロセスを経ます。外部情報を体調、環境、感情等の状況によって間違って受け取る、知識自体の間違いや記憶違いによって誤った判断をする、実際に行動する際に操作を間違えるといったように、ヒューマンエラーは行動までのプロセスの各段階、またはそのプロセス全てでエラーが起こることで発生します。今回は、ヒューマンエラー対策の具体例、製造業での要因解説です。
1. ヒューマンエラーとは
ヒューマンエラーとは、言葉の定義では「意図しない結果を生じる人間の行為(JIS Z8115より) 」となっています。即ち、事故やトラブルなど「意図しない結果」を生じた原因が人的ミスなどの「人間の行為」である場合がヒューマンエラーになります。このヒューマンエラーによる事故やトラブルは数多く発生しており、場合によっては生命や財産に関わる事故や、トラブルによる顧客への迷惑、さらに最悪の場合は事業継続が困難となることもあるため、そういった事態にならないためにもヒューマンエラーを防止する必要があるのです。
2. ヒューマンエラーの種類
ヒューマンエラーは、一般的に「故意によるもの」と「過失によるもの」に分けられます。それぞれの種類について、具体例を挙げて説明します。
(1)故意によるヒューマンエラー
故意によるヒューマンエラーとは、意図的に行われる行動や判断ミスを指します。これには、ルールや規則を無視したり、悪意を持って行動することが含まれます。
- 不正行為・・・企業の従業員が、利益を得るためにデータを改ざんするなど。
- 情報漏洩・・・機密情報を意図的に外部に漏らすなど。
- 安全規則の無視・・・工場の作業員が、安全手順を無視して危険な作業を行うなど。
(2)過失によるヒューマンエラー
過失によるヒューマンエラーは、意図せずに発生するミスや判断の誤りを指します。これは、知識不足や注意力の欠如、疲労などが原因で起こることが多いです。
- 誤操作・・・コンピュータの操作ミスで、重要なデータを削除してしまうなど。
- コミュニケーションエラー・・・チーム内での情報伝達ミスにより、プロジェクトの進行が遅れるなど。
- 判断ミス・・・医療現場で、医師が誤って患者に間違った薬を処方するなど。
3. ヒューマンエラーが起こる要因、その理由と背景
次にあげるような要因は個人や組織のパフォーマンスに大きな影響を与えるため、対策を講じることが重要です。
(1)手を抜く
時間や労力を節約しようとするあまり、作業をおろそかにすることがあります。特に、慣れた作業や単調な作業では、注意が散漫になりやすいです。
(2)リスクの過小評価
ある作業や状況において、リスクを軽視することがあります。過去の経験から「大丈夫だろう」と思い込むことで、注意を怠り、エラーを引き起こすことがあります。
(3)忘れる
忙しい日常や多くの情報に圧倒されると、重要なことを忘れてしまうことがあります。特に、複数のタスクを同時にこなす場合に起こりやすいです。
(4)確認不足
作業の結果や手順を確認しないことで、誤りが見逃されることがあります。特に確認作業がルーチン化されると、注意が散漫になりがちです。
(5)疲労
身体的または精神的な疲労は、集中力や判断力を低下させます。長時間の作業やストレスが蓄積すると、エラーが増える傾向があります。
(6)作業負荷が大きい
タスクが多すぎたり時間が足りなかったりすると、焦りやプレッシャーが生じて注意力が散漫になり、エラーが発生しやすくなります。
(7)思い込み
自分の知識や経験に基づいて、正しいと思い込むことがあります。この思い込みが誤った判断を招くことがあります。
(8)連携不足
チーム内でのコミュニケーションが不足していると、情報の共有が不十分になり、誤解やミスが生じることがあります。
(9)作業環境
照明が不十分だったり騒音が多かったりする環境では、集中力が低下し、エラーが起こりやすくなります。
(10)知識や経験の不足
必要な知識やスキルが不足していると、適切な判断ができずエラーを引き起こす可能性が高まります。特に、新しい作業や技術に対しては経験が重要です。
4. ヒューマンエラー対策の具体例
ヒューマンエラー対策の具体例を、エラーの抑制と、エラーの検知の二つの側面から考えます。
(1)エラーの抑制対策
- 標準作業手順の策定・・・明確な手順書を作成し、作業者がそれに従うことで、作業のばらつきを減らし、エラーを防ぎます。
- トレーニングと教育・・・定期的なトレーニングを実施し、従業員が必要なスキルや知識を身につけることで、エラーの発生を抑制します。
- 作業環境の改善・・・作業スペースを整理整頓し、必要な道具や情報がすぐに手に入るようにすることで、作業中の混乱を減らします。
- チェックリストの使用・・・作業の各ステップを確認するためのチェックリストを用意し、作業者が漏れや誤りを防ぐ手助けをします。
- フィードバックの仕組み・・・作業後にフィードバックを行い、エラーの原因を分析し、改善策を講じることで、同じエラーの再発を防ぎます。
(2)エラーの検知対策
- 自動化システムの導入・・・自動化されたシステムを導入することで、人間の判断ミスを減らし、エラーを早期に検知します。
- ダブルチェック制度・・・重要な作業については、別の人が確認するダブルチェックを行うことで、エラーを見逃さないようにします。
- リアルタイムモニタリング・・・作業の進捗や結果をリアルタイムで監視し、異常があればすぐに対応できる体制を整えます。
- エラーログの記録・・・発生したエラーを記録し、分析することで、どのようなエラーが多いかを把握し、対策を講じることができます。
- アラートシステムの導入・・・特定の条件が満たされた場合にアラートを発するシステムを導入し、エラーの兆候を早期に検知します。
これらのヒューマンエラー対策を検討するうえで重要なのは、「人は誰でもエラーを犯すもの」という視点に立って、製品やシステムの操...
解説記事『人間とは「エラーする生き物」 ヒューマンエラー対策の考え方』はこちら
5. まとめ
ヒューマンエラーの発生を防止していくためには、重大事故や問題、トラブルに繋がる要因を普段から無くしていくことが重要になります。それが現場の安全へと繋がっていきます。そのためには、ヒヤリハットの対策をしっかりと行い、従業員からヒヤリハットを感じた内容などをしっかりと汲み上げないといけません。ヒヤリハットとは文字通り、作業や業務中にミスや事故に繋がりそうになり、ヒヤリとしたり、ハッとしてしまう事象のことです。また似たような言葉に「インシデント」があります。システムやサービスに問題がある事態が起こって、従業員や顧客、さらには一般社会に対して、大きな事故やミスにはならない程度の悪影響が発生することを意味しています。ヒヤリハットやインシデントを見逃したり放置したりしていると、同じ原因による大きな事故やミスに繋がってしまいます。必ず対策を講じて、大きな事故やミスの芽を事前に摘み取っていきましょう。