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この連載では、食用油脂の知識を解説しています。今回は、パーム油のはなし、その3です。その2では、パーム油が熱帯雨林を切り開きパームを栽培されていることにより自然環境や生物多様性に負の影響を与えていることを解説しました。この記事では「パーム油のはなし」シリーズの最後として、パーム油に多く含まれる飽和脂肪酸について解説します。
1. パーム油に含まれる脂肪酸
パーム油に含まれる脂肪酸は、飽和脂肪酸のパルミチン酸(炭素が16個に二重結合がゼロ)が35~48%、不飽和脂肪酸のオレイン酸(炭素が18個に二重結合が一つ)が37~50%で、おおむねパルミチン酸とオレイン酸が1:1の組成です。この飽和脂肪酸の摂取多過に課題があるのです。そこで、ここから飽和脂肪酸について解説を進めます。
厚生労働省は、国民の健康の保持・増進を図る上で摂取することが望ましいエネルギー及び各栄養素について、摂取量の基準を定めています。この基準の最新バージョンが「日本人の食事摂取基準(2015年版)」です。 この基準によりますと、飽和脂肪酸の摂取量の「目標量」は、総エネルギー摂取量に占める飽和脂肪酸摂取エネルギーの割合(%)で示されています。(トランス脂肪酸の摂取量と同じ表現です。)
その値は、18歳以上の女性、男性ともに「7%以下」です。この数字はどのように設定さ...
2. 血中LDLコレステロール
血中LDLコレステロールの増加が懸念されます。LDL(低比重リポタンパク)コレステロールは世間では「悪玉コレステロール」とよくいわれるものです。動脈硬化性疾患、特に心筋梗塞のリスクが増加することが予想されています。コレステロール。よく聞くものですが、コレステロールは脳神経や筋肉の働き、細胞膜やホルモンの生成に不可欠な物質です。
このコレステロールを必要としている細胞組織に「LDLコレステロール」が運んでいきます。そこで利用されなかったコレステロールは、一般に善玉コレステロールと呼ばれる「HDL(高比重リポタンパク)コレステロール」によって肝臓に戻ります。このLDLコレステロールの量が血中に特に増えると、HDLコレステロールとのバランスが崩れ、細胞組織に運ばれるコレステロールが過剰となります。それらが血管の壁にたまることで、動脈硬化を引き起こすと考えられています。このことから、飽和脂肪酸の摂取量には「目標量」が示されているのです。
3. 摂取量
そこで気になるのが、私たちのこの摂取量です。厚生労働省によりますと、平成 22 年、23 年国民健康・栄養調査の結果に基づく日本人 30~49歳の中央値は、15.2 g/日(男性)、13.8 g/日(女性)、「エネルギー比率では 男性で6.6% 、女性で7.6%」とのことです。ちなみに、米国人31~50 歳の中央値は、31.4 g/日(男性)、20.3 g/日(女性)、「エネルギー比率では 男性で11.4%、女性で11.0%」とのことでした。
日本人の摂取量は、米国人よりエネルギー比率で約 40% 少ないことになります。パーム油のはなし その1で、トランス脂肪酸問題の対応として、その部分水素添加油脂の代替としてパーム油が利用されていると解説しました。ですが、その代替としてパーム油を使用するには、やはりこの飽和脂肪酸の問題がついてまわり、単純に入れ替えるというわけにはいきません。
その他にも、物性や風味などの部分水素添加油脂が持つ特徴がパーム油に備わっていないという理由もありますが、この話は別の機会にしたいと思います。色々とお話をしてきましたが、とはいえ飽和脂肪酸も大切なエネルギー源であることには間違いありません。限定的で偏った品目を摂取するのではなく、多くの品目を摂取するバランスの取れた食事を心がけることが摂取多過を回避する手段の一つであり、飽和脂肪酸の問題に限らず、健康・栄養上においても大事なことと思います。
【出典】中谷技術士事務所 HPより、筆者のご承諾により編集して掲載
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