食用油の劣化と酸素、酸化した食用油脂の毒性:食用油脂の知識(その12)

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  食用油の劣化と酸素、酸化した食用油脂の毒性:食用油脂の知識(その12)
【目次】

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    1. 食用油の劣化と酸素

    今回は「酸価」と酸素の関係についてのお話です。「酸価」はトリグリセライドの高温と水分による単純なエステル加水分解により、遊離脂肪酸が生じ上昇する値で、フライ油などの劣化指標として用いられています。そのため「酸素」とは関係がないように思われますが、実は関連性があることが示唆されています。具体的には、低酸素下でのフライモデル試験系において、油脂の酸価が上昇しにくかったことが報告されています。[1]

     

    フライモデル試験系とは、油200 gを500 mL三角フラスコに入れ、180℃、30時間ブロックヒーターを用いて、持続的に水噴霧(0.3 mL/min)加熱します。そして、三角フラスコに吹き入れるガスの総流量を3 L/minとし、空気ガスへの窒素ガスの混入によりフラスコ内の酸素濃度を2、4、10、20%に調整し加熱した試験系です。

     

    報告では、加熱油の酸価は酸素濃度に応じて増加し、酸素濃度10%での30時間加熱時に酸価約2.5と、弁当およびそうざいの衛生規範(注:2021年6月廃止)における使用限界とほぼ同値を示しました。また、酸素濃度が2%の場合は酸価約0.2、酸素濃度が20%の場合は酸価約5.5を示しました。

     

    これらの試験結果から、酸価は従来言われてきたような、高温と水分による単純...

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      1. 食用油の劣化と酸素

      今回は「酸価」と酸素の関係についてのお話です。「酸価」はトリグリセライドの高温と水分による単純なエステル加水分解により、遊離脂肪酸が生じ上昇する値で、フライ油などの劣化指標として用いられています。そのため「酸素」とは関係がないように思われますが、実は関連性があることが示唆されています。具体的には、低酸素下でのフライモデル試験系において、油脂の酸価が上昇しにくかったことが報告されています。[1]

       

      フライモデル試験系とは、油200 gを500 mL三角フラスコに入れ、180℃、30時間ブロックヒーターを用いて、持続的に水噴霧(0.3 mL/min)加熱します。そして、三角フラスコに吹き入れるガスの総流量を3 L/minとし、空気ガスへの窒素ガスの混入によりフラスコ内の酸素濃度を2、4、10、20%に調整し加熱した試験系です。

       

      報告では、加熱油の酸価は酸素濃度に応じて増加し、酸素濃度10%での30時間加熱時に酸価約2.5と、弁当およびそうざいの衛生規範(注:2021年6月廃止)における使用限界とほぼ同値を示しました。また、酸素濃度が2%の場合は酸価約0.2、酸素濃度が20%の場合は酸価約5.5を示しました。

       

      これらの試験結果から、酸価は従来言われてきたような、高温と水分による単純なエステル加水分解の指標ではなく、初期の酸化中間体や活性化した酸素分子が促進的に働いてはじめて上昇するフライ油の酸化的劣化指標の一つであると考えられます。この試験は、フライのモデル系であるため、実際のフライで同様の結果がどのように現れるのか興味のあるところです。

       

      2. 酸化した食用油脂の毒性と品質指標

      食用油脂の酸化は、即席めんなどの油性食品の品質に重要な影響を及ぼします。特に、油の酸化に伴う二次生成物アルデヒドの発生は、食品の品質を低下させる要因の一つです。これらの二次生成物のうち、アルデヒドやケトンは過酸化脂質の分解により増加し、徐々に減少します。そしてカルボン酸は加水分解により時間依存的に増加します。酸化した食用油脂の異味や毒性は、これらの二次生成物によるものです。

       

      ここで興味のあるところは、その二次生成物の毒性と過酸化物価や酸価などの品質指標との関係性ではないでしょうか。

       

      このテーマについて、塩澤ら[2]は、パーム油、ラードと大豆油を50℃、70℃、90℃のそれぞれの温度で酸化加速試験を行い、その際の酸価(AV)、過酸化物価(POV)とカルボニル価(CV)の挙動を調べ、GC/MS法による香気分析の結果と対比し、5つの不飽和アルデヒド(t-2-heptenal, t-2-octenal, t-2-decenal, t-2-undecenal, t,t-2,4-decadienal)の合計量と過酸化物価に強い相関があることを明らかにしました。

       

      この5つの不飽和アルデヒドはこの研究の中で、強い毒性を有することが認められている二次生成物です。

       

      特にt,t-2,4-decadienalは、この5つのアルデヒドの中で毒性が最も強く、National Toxicology Program(米国立毒性学プログラム)ではNOAEL(無毒性量)が100mg/kg/日、ADI(一日摂取許容量)が1mg/kg/日であるとされています。

       

      一方で、WHO世界保健機関がまとめたデータでは、t,t-2,4-decadienalのNOAELは34 mg/kg/日であることが示されており、このWHOのNOAELデータと日本人の一日平均油分摂取量、および上記の5つの不飽和アルデヒド合計量との相関関係で得られた相関式より算出した上限の過酸化物価は「42.8~70.9meq/kg」でした。

       

      他方で、日本における食品の品質や安全性を管理するための標準的な指標である過酸化物価30meq/kg(即席めん類など)や50meq/kg(揚げ菓子等)は、過去の食中毒事件をきっかけに導入されましたが、その妥当性を裏付ける科学的根拠は明確であるとは言い難い面があります。

       

      そのため、このような食品安全観点の科学的根拠を踏まえた指標が望まれるところです。

       

      【参考文献】

      [1] 日本調理科学会誌 Vol.50, No.6, 239~244 (2017)

      [2] “Re-evaluation of Peroxide Value as an Indicator of the Quality of Edible Oils” 食品衛生学雑誌48 巻 (2007) 3 号

       

      【出典】中谷技術士事務所 HPより、筆者のご承諾により編集して掲載

       

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      この記事の著者

      中谷 明浩

      食用油脂関連技術と知財情報の専門家。「食用油と知財情報の水先案内人」として、数々の技術課題を解決に導くエキスパート。

      食用油脂関連技術と知財情報の専門家。「食用油と知財情報の水先案内人」として、数々の技術課題を解決に導くエキスパート。


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