安全認証の落とし穴

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1.安全認証に関する環境の変化

 ここ数年来、安全に関わる製品の試験データ改ざんや、電気製品の自主回収といったニュースがあとを絶ちません。現場の技術者の思いとは関係無く、経済性を優先せざるを得なかったのか・・・。それは分かりませんが、製品の安全に対する消費者の意識が、非常に高くなっていることは間違い無いでしょう。

 今回は、電気製品の安全認証に関し、製造メーカーに是非とも知っておいていただきたい落とし穴をご紹介します。
   

2.CBスキーム(CB Scheme/”CB”は”Certified Body“の略)とは

 電気製品を外国へ輸出する際、メーカーは各輸出先の国の認証を取得するために、かつてはそれぞれの国の認証機関に、それぞれ必要な製品サンプルを提出しなくてはなりませんでした。製品は各国毎の安全規格に基づきバラバラに試験・評価され、各々の認証書が発行されていたという状態です。しかし大変無駄が多いため、各国ごとの安全規格は共通の国際規格として次第にまとめられ、その枠組みに加盟する国々の間で試験データを相互に認め合い、作業を効率化しようというシステムが登場しました。それが、「CBスキーム」と呼ばれるシステムです。

 日本もこのCBスキームに加盟しており、現在日本にある認証機関は、そのほとんどがCB試験所になっています。これらのCB試験所が共通のフォーマットで発行する試験レポートは、「CBレポート」と呼ばれます。
  

3.相互認証の実際

 ある日本のメーカーが、製品をA国とドイツに輸出しようとしていました。このメーカーはA国の認証機関に対し、A国認証の発行を依頼しました。それと同時に、その後ドイツの認証も取得すべく、別途CBレポートの発行も依頼しました。

 A国の認証機関に仕様書や図面、サンプルなどひと通りのものを提出し、しばらくして試験と評価を全て終え、A国認証(数枚程度の認証書)が無事に発行されました。時をほぼ同じくして、CBレポートも発行されました。これには、製品の概要や安全性に関連する構造や特徴についての記述や、適用された安全規格の各要求事項について、(必要に応じて)評価コメントと合否判定、試験データ、安全上重要な部品の情報、写真などが含まれています。 

 A国認証とCBレポートが発行されると、メーカーはこう安心しました。「A国認証が無事に発行された!A国でOKだったから、ドイツの認証も問題無いだろう。」

 国によっては電源電圧やコンセントの形状等が違うため、「国別要求」として付随的に追加の評価が必要な場合がありますが、ここでお伝えしたいポイントはそこではありません。そのCBレポートは、ドイツの認証機関に提出されました。そこで内容が確認され、大きな問題が無ければ(サンプルの提出を求められる場合もあります)ドイツの認証が発行されるのですが・・・、ドイツの認証機関の担当者はその内容について、A国の認証機関にこう問い合わせました。「◯.◯項はコメント無しで“合格“となっていますが、合格と判断された根拠をご説明ください。」
   

4.安全認証の注意点

 残念ながら、その後A国の認証機関から回答が来ることは無く、メーカーは結局、設計の変更を余儀なくされました。部品の追加が必要になり、作業工程が増え、量産スケジュールへの影響もあったようです。落とし穴は、A国認証が発行された時点で、安心し過ぎてしまった点にあったと言えるでしょう。

 上記の「ドイツの認証機関の担当者」とは、実は私のことなのですが、私が指摘したこの点は、特殊な材質を使用していることを実機で見ればすぐに気が付き得るもので、A国の認証機関に落ち度があったと言えるでしょう。しかし現実は、メーカーに落ち度がある、ということにな...

1.安全認証に関する環境の変化

 ここ数年来、安全に関わる製品の試験データ改ざんや、電気製品の自主回収といったニュースがあとを絶ちません。現場の技術者の思いとは関係無く、経済性を優先せざるを得なかったのか・・・。それは分かりませんが、製品の安全に対する消費者の意識が、非常に高くなっていることは間違い無いでしょう。

 今回は、電気製品の安全認証に関し、製造メーカーに是非とも知っておいていただきたい落とし穴をご紹介します。
   

2.CBスキーム(CB Scheme/”CB”は”Certified Body“の略)とは

 電気製品を外国へ輸出する際、メーカーは各輸出先の国の認証を取得するために、かつてはそれぞれの国の認証機関に、それぞれ必要な製品サンプルを提出しなくてはなりませんでした。製品は各国毎の安全規格に基づきバラバラに試験・評価され、各々の認証書が発行されていたという状態です。しかし大変無駄が多いため、各国ごとの安全規格は共通の国際規格として次第にまとめられ、その枠組みに加盟する国々の間で試験データを相互に認め合い、作業を効率化しようというシステムが登場しました。それが、「CBスキーム」と呼ばれるシステムです。

 日本もこのCBスキームに加盟しており、現在日本にある認証機関は、そのほとんどがCB試験所になっています。これらのCB試験所が共通のフォーマットで発行する試験レポートは、「CBレポート」と呼ばれます。
  

3.相互認証の実際

 ある日本のメーカーが、製品をA国とドイツに輸出しようとしていました。このメーカーはA国の認証機関に対し、A国認証の発行を依頼しました。それと同時に、その後ドイツの認証も取得すべく、別途CBレポートの発行も依頼しました。

 A国の認証機関に仕様書や図面、サンプルなどひと通りのものを提出し、しばらくして試験と評価を全て終え、A国認証(数枚程度の認証書)が無事に発行されました。時をほぼ同じくして、CBレポートも発行されました。これには、製品の概要や安全性に関連する構造や特徴についての記述や、適用された安全規格の各要求事項について、(必要に応じて)評価コメントと合否判定、試験データ、安全上重要な部品の情報、写真などが含まれています。 

 A国認証とCBレポートが発行されると、メーカーはこう安心しました。「A国認証が無事に発行された!A国でOKだったから、ドイツの認証も問題無いだろう。」

 国によっては電源電圧やコンセントの形状等が違うため、「国別要求」として付随的に追加の評価が必要な場合がありますが、ここでお伝えしたいポイントはそこではありません。そのCBレポートは、ドイツの認証機関に提出されました。そこで内容が確認され、大きな問題が無ければ(サンプルの提出を求められる場合もあります)ドイツの認証が発行されるのですが・・・、ドイツの認証機関の担当者はその内容について、A国の認証機関にこう問い合わせました。「◯.◯項はコメント無しで“合格“となっていますが、合格と判断された根拠をご説明ください。」
   

4.安全認証の注意点

 残念ながら、その後A国の認証機関から回答が来ることは無く、メーカーは結局、設計の変更を余儀なくされました。部品の追加が必要になり、作業工程が増え、量産スケジュールへの影響もあったようです。落とし穴は、A国認証が発行された時点で、安心し過ぎてしまった点にあったと言えるでしょう。

 上記の「ドイツの認証機関の担当者」とは、実は私のことなのですが、私が指摘したこの点は、特殊な材質を使用していることを実機で見ればすぐに気が付き得るもので、A国の認証機関に落ち度があったと言えるでしょう。しかし現実は、メーカーに落ち度がある、ということになってしまう(されてしまう)のが実情です。なにかコトが起こっても、世界のどの認証機関も、メーカー側が望む程に責任を負うことはまずありません。とにもかくにも、全ての責任はメーカーが負うことになります。

 そこでメーカー各位にご注意いただきたいのは、次の様な点です。

  • 安全性の評価を、決して認証機関に丸投げしないこと
  • 発行された認証書やレポートは、出来るだけ内容を理解し、納得すること
  • 納得できない場合は、とことん質問すること
       

5.最後は自己責任

 どれだけ注意しても、避けようのない落とし穴があるのが現実です。たとえ認証機関に訴えたとしても、質問を受け付けてさえくれないとか、高額な技術相談とされてしまう、という話もよく聞きます。

 当然と言えば当然ですが、認証機関はメーカーの味方ではありません。安全性の確保と経費削減を両立するには、自分たちで考えるしか方法はないのです。

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この記事の著者

入江 浩彰

認証機関の言いなりでは後で大変、経費も青天井。認証の現場で長年実務を担ってきた入江が、試験、評価から認証書発行まで、安全と経費削減の両立をサポートします!

認証機関の言いなりでは後で大変、経費も青天井。認証の現場で長年実務を担ってきた入江が、試験、評価から認証書発行まで、安全と経費削減の両立をサポートします!


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