技術営業とは(その2)

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その1からのつづき

 

(2)  顧客提供価値の仮説形成

 次に社会における自身の技術の意義や役割を捉えたうえで、実際にどのような顧客に対して価値を提供できるのかを具体的に考える。研究開発部門が陥りがちなのは、自身は技術開発に関する取り組みを行えばよく、実際の用途については事業部が行うことであると、人任せにしてしまうことである。しかし研究開発の時点からどのような顧客にどのような価値を提供できるのかを想定しておくことで、むしろ多くのヒントを得られるようになる。具体的には、以下の手順で進めるのがよい。

①     技術から導かれる機能を想定する

 技術原理そのものは、ユーザにとって実はあまり重要ではない。例えば蓄電池で言えば、材料として鉛を使おうがニッケルを使おうがリチウムを使おうが、少なくともエンドユーザからは関心が向けられない。重要なのは、その蓄電池が連続で何時間使えるかとか、エネルギー効率はどの程度であるかとか、何千回充放電できるか、などの機能である。ユーザから価値を認めてもらうには、技術原理から機能に「翻訳」する必要がある。その技術があることで、どのような機能を実現できるのかを考える。 

②     機能に基づいて顧客をターゲッティングする

 機能が分かれば、どのようなプレーヤーがその機能で喜ぶのかについて考えることができる。蓄電池の例で言えば、五千回の充放電ができるという機能を、どのようなプレーヤーがどのようなシーンで価値を感じるのかを想定するのである。生産財であれば具体的な顧客名を挙げて検討するのもよいだろう。生活者向けであれば、具体的にどのような人物であるのかというイメージをメンバーで共有するのもよい。

③     想定されるターゲットのニーズや業務への貢献を考える

 新技術である場合、顧客自身も気づいていないニーズということもある。従来からの業務プロセスや生活習慣の改善というよりは、まったく新しいプロセスや習慣の提案になる場合などである。潜在的なニーズを掘り起こす可能性を検討したい。そのためにも、顧客の業務プロセスや生活習慣に関する理解が必要となる。まずは二次情報レベルで情報収集し、分かる範囲で検討してみるのがよい。

  

(3)  潜在顧客など外部の方との対話

 主に相手の意見を聞きに行くということは、相手の知識量のほうが多い分野の話をするということである。例えばB2Bの場合、相手の業務などについての理解が足りないと、意見交換が成り立たないばかりかマイナスの印象を植え付けてしまう。緊張感のある取り組みである。しかし自身の技術が社会でどのような役割を演じるのかという理念を持ち、さらには相手にとってどのような価値を提供できるのかという仮説を持っていれば、潜在的な顧客との対話は互いに実りあるものになる可能性が高い。口下手か話上手かという表面的なことは大きな問題ではない。

 ここでよく技術者の方から聞くのは、人脈がないから誰とも話ができないという悩みである。しかしネットワークとしては次のようなものがあり、活用可能性はある。

a.自社の営業部門が有しているネットワークを活用する

 大企業であるほど、このネットワーク資産を活用できていない可能性が高い。部門間の微妙な関係性だったり、そもそも部門を越えた交流が少なかったりするからである。しかし営業部門の人脈はそれ自体が資産であり、その資産を活用しないのはもったいないことである。会社としても研究開発部門が外部にアクセスしやすいように、部門間の交流を促す「場」の設定が必要である。

b.展示会や学会で顔を合わせたネットワークを活用する

 営業部門のネットワークの活用と同時に、研究開発部門でも独自のネットワークを構築する努力を忘れてはいけない。先端技術が並ぶ展示会で最も存在感をアピールできるのは技術者である。また技術者どうしが交流する機会となる学会や、国などが主導するプロジェクトでの研究開発部門どうしの交流もできる。

c.コンサルティング会社などの外部ネットワークを活用する

 営業部門にせよ研究開発部門にせよ、自社が保有しているネットワークは既存の事業の延長である場合がほとんどである。新しい技術を開発することで、従来の顧客とは異なる分野のプレーヤーが顧客になる場合もある。その際は外部のコンサルティング企業や調査会社などのネットワークを活用する選択肢も考えられる。特に自社内にターゲット分野に関する知見が蓄積されていない場合には有効である。

 ネットワークの他によくいただくご相談は、実際にどのようにファースト・コンタクトをしたらよいか分からないということである。しかし特別なノウハウが必要なわけではない。意見交換までのステップとしては、たとえば以下のような手順で進めるのがよい。

①     接点のある人物に仲介してもらう

 メールでよいので、〇〇という者から連絡が行くということを事前に伝えてもらい、そのうえでメールにてアポイントメントを取る。最初からある程度、どのようなことについて意見交換したいのかというテーマを用意しておくことが必要である。

②     質問項目を用意する

 面談の際に意見を聞きたい項目について、事前に相手に知らせておくことが望ましい...

その1からのつづき

 

(2)  顧客提供価値の仮説形成

 次に社会における自身の技術の意義や役割を捉えたうえで、実際にどのような顧客に対して価値を提供できるのかを具体的に考える。研究開発部門が陥りがちなのは、自身は技術開発に関する取り組みを行えばよく、実際の用途については事業部が行うことであると、人任せにしてしまうことである。しかし研究開発の時点からどのような顧客にどのような価値を提供できるのかを想定しておくことで、むしろ多くのヒントを得られるようになる。具体的には、以下の手順で進めるのがよい。

①     技術から導かれる機能を想定する

 技術原理そのものは、ユーザにとって実はあまり重要ではない。例えば蓄電池で言えば、材料として鉛を使おうがニッケルを使おうがリチウムを使おうが、少なくともエンドユーザからは関心が向けられない。重要なのは、その蓄電池が連続で何時間使えるかとか、エネルギー効率はどの程度であるかとか、何千回充放電できるか、などの機能である。ユーザから価値を認めてもらうには、技術原理から機能に「翻訳」する必要がある。その技術があることで、どのような機能を実現できるのかを考える。 

②     機能に基づいて顧客をターゲッティングする

 機能が分かれば、どのようなプレーヤーがその機能で喜ぶのかについて考えることができる。蓄電池の例で言えば、五千回の充放電ができるという機能を、どのようなプレーヤーがどのようなシーンで価値を感じるのかを想定するのである。生産財であれば具体的な顧客名を挙げて検討するのもよいだろう。生活者向けであれば、具体的にどのような人物であるのかというイメージをメンバーで共有するのもよい。

③     想定されるターゲットのニーズや業務への貢献を考える

 新技術である場合、顧客自身も気づいていないニーズということもある。従来からの業務プロセスや生活習慣の改善というよりは、まったく新しいプロセスや習慣の提案になる場合などである。潜在的なニーズを掘り起こす可能性を検討したい。そのためにも、顧客の業務プロセスや生活習慣に関する理解が必要となる。まずは二次情報レベルで情報収集し、分かる範囲で検討してみるのがよい。

  

(3)  潜在顧客など外部の方との対話

 主に相手の意見を聞きに行くということは、相手の知識量のほうが多い分野の話をするということである。例えばB2Bの場合、相手の業務などについての理解が足りないと、意見交換が成り立たないばかりかマイナスの印象を植え付けてしまう。緊張感のある取り組みである。しかし自身の技術が社会でどのような役割を演じるのかという理念を持ち、さらには相手にとってどのような価値を提供できるのかという仮説を持っていれば、潜在的な顧客との対話は互いに実りあるものになる可能性が高い。口下手か話上手かという表面的なことは大きな問題ではない。

 ここでよく技術者の方から聞くのは、人脈がないから誰とも話ができないという悩みである。しかしネットワークとしては次のようなものがあり、活用可能性はある。

a.自社の営業部門が有しているネットワークを活用する

 大企業であるほど、このネットワーク資産を活用できていない可能性が高い。部門間の微妙な関係性だったり、そもそも部門を越えた交流が少なかったりするからである。しかし営業部門の人脈はそれ自体が資産であり、その資産を活用しないのはもったいないことである。会社としても研究開発部門が外部にアクセスしやすいように、部門間の交流を促す「場」の設定が必要である。

b.展示会や学会で顔を合わせたネットワークを活用する

 営業部門のネットワークの活用と同時に、研究開発部門でも独自のネットワークを構築する努力を忘れてはいけない。先端技術が並ぶ展示会で最も存在感をアピールできるのは技術者である。また技術者どうしが交流する機会となる学会や、国などが主導するプロジェクトでの研究開発部門どうしの交流もできる。

c.コンサルティング会社などの外部ネットワークを活用する

 営業部門にせよ研究開発部門にせよ、自社が保有しているネットワークは既存の事業の延長である場合がほとんどである。新しい技術を開発することで、従来の顧客とは異なる分野のプレーヤーが顧客になる場合もある。その際は外部のコンサルティング企業や調査会社などのネットワークを活用する選択肢も考えられる。特に自社内にターゲット分野に関する知見が蓄積されていない場合には有効である。

 ネットワークの他によくいただくご相談は、実際にどのようにファースト・コンタクトをしたらよいか分からないということである。しかし特別なノウハウが必要なわけではない。意見交換までのステップとしては、たとえば以下のような手順で進めるのがよい。

①     接点のある人物に仲介してもらう

 メールでよいので、〇〇という者から連絡が行くということを事前に伝えてもらい、そのうえでメールにてアポイントメントを取る。最初からある程度、どのようなことについて意見交換したいのかというテーマを用意しておくことが必要である。

②     質問項目を用意する

 面談の際に意見を聞きたい項目について、事前に相手に知らせておくことが望ましい。相手は回答を考えておくことができるし、簡単に調べてくれる可能性もある。項目は大雑把すぎても細かすぎてもいけない。4~6つ程度に分類しておくのがいいだろう。一方で、自身のなかでは詳細な想定問答を用意しておき、いろいろなパターンを考えておくことが望ましい。

③     面談する

 自身の技術はどのような貢献ができるのか、相手にとってどのような価値を提供できるのかについて提案し、意見を伺う。もしかしたら仮説通り相手も価値を感じてくれるかもしれない。あるいはまったく関心を持たれないのかもしれない。重要なのは、未来のことについて話すということである。今はまだない世界の構想を行う。

 大前提となるマナーとして、自社のために貴重な時間を割いてくれているという、相手に対する感謝を忘れてはいけない。面談時は、聞きたかった質問項目を聞くことも大事な目的だが、むやみに話の流れを切らずに相手の話にじっくりと耳を傾ける姿勢が重要である。

 面談の相手は、用途開発から行う場合には潜在的なパートナーにもなりうる。一過性のヒアリングと捉えるのではなく、継続的な関係構築のための第一歩という意識が必要であろう。意見交換は未来のことを話す場である。眼前の営業を行うなどは論外であり、マナー違反となる。

 

その3につづく

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この記事の著者

福島 彰一郎

10年以上に渡る実績をベースに、アジア展開を含め、技術戦略のあらゆる相談に責任を持ってお応えします!

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