設計段階でのコストテーブル活用法 (その2)

投稿日

 コストテーブル設計段階でのコストテーブル活用法を、2回に分けて解説しています。今回は、第2回として、コストテーブルの活用を整理して解説します。
 

1.コストテーブルの活用

         
◆経営活動を各部門に分けて、コストテーブルの活用を整理します。
 
(1)販売部門での活用
 
 販売部門の一番の仕事は、顧客から注文をいただくことです。そのために、製品の仕様や品質、数量、納期、そして、価格が決められます。とくに、この価格交渉では、販売することによって、利益が確保できなければなりません。つまり、採算性の判断をすることです。
 
 いくら数多くの売上高や販売数量を達成しても利益が伴わなければ、企業の存在は危ういものになってしまいます。このため、販売活動では常に採算性を意識したものでなければなりません。
 
 しかし、価格競争の激しさは、採算性を無視しても注文を受けようということになり易いことがあります。これは、注文がなければ生産活動が進められないし、生産活動が進められなければ、費用だけが発生し、経営がますます悪化していってしまうと考えるからです。
 
 これでは、いずれ企業は、成り立たなくなってしまいます。したがって、販売部門では顧客へのベストコストと自社の利益が確保できるという売価算定の基準を持って、価格を提示することが大切です。そして、この基準が、しっかりと数値で示せることが大切なのです。
 
 コスト基準によって、販売部門は説得力のある交渉が可能になり、利益を確保することができるのです。また、セースルパーソンも、価格交渉をする上で受注するために顧客からの条件を十分に知ることができるようになります。そして、顧客ごとの受注条件をもとに、より良い提案をすることができるようになるのです。
 
(2)設計部門での活用
 
 従来は、製品が開発されて、生産活動に移された段階で、初めてコストを考える傾向がありました。コストは、製造部門が検討すべきことであって、開発・設計部門は関係のないことであると主張されてきていたのです。
 
 しかし、製造部門が、検討できるコストは、発行された図面を「いかに早く作るか」ということが中心になります。したがって、工法を変えることなく、工数や時間をいかに短縮して、コストを引下げるかということです。
 
 これに対して、設計部門では、材質、形状、寸法など図面そのものを変更することによって、工法そのものを含めてコストを変えることが可能になり、広範囲にコストダウンの検討ができるのです。コストを決定している川上の設計部門なのです。
 
 このため、設計部門ではより良い製品を低価格で実現するために、製品の設計とコストの作り込みを同時並行で行うことが重要であることの認識されてきています。
 
 また、製品の開発段階でコストシミュレーションを行なうことによって、最適なコストを追求するために活用することです。製品の開発段階では目標原価が定められ、その目標原価の範囲内で製品化できているのかを確認するのです。そして、製品の目標原価を達成可能なものとして、もし、範囲を越えた場合には、設計変更などの対策をして修正することが可能になります。
 
 さらに、コストテーブルによって、方式や構造の違い、工法の選択、仕様の変更などをコスト面から知ることができるようになります。より良い製品を低価格で達成するために、VE(バリューエンジニアリング)活動での数多くのアイデアをコスト評価のモノサシにも活用することができます。
 
(3)製造部門での活用
 
 製造部門は、設計部門から発行された部品表や図面、仕様書などをもとに、製造活動が始められます。製造するためには、製造品目をどのように作っていくかを決めます。つまり、工程設計をすることです。例えば、品目Aは、旋盤加工して、焼き入れ処理、メッキ処理をする。品目Bは、旋盤加工、フライス加工、メッキ処理というようなことです。
 
 このときに、自社で使用する設備機械の能力は、いくらかを整理することが大切です。例えば、加工品目の大きさや重さによって、旋盤加工であっても使えない設備もあり、設備の必要な能力が異なるからです。
 
 次に、作業設計をします。作業設計とは、作業方法や作業条件、作業手順などについて設定することです。これは、作業指導票に表され、標準時間が設定されることになるのです。さらに、就業時間の中で、段取り時間を除く稼働可能な時間の比率を算定します。手待ちや追加作業、異常作業などの時間のことです。これらの資料がまとめられることによって、コストテーブルは、自社の製造部門の実力コストを求めることができるようになります。
 
(4)購買部門での活用
 
 購買部門は、外部から必要...
 コストテーブル設計段階でのコストテーブル活用法を、2回に分けて解説しています。今回は、第2回として、コストテーブルの活用を整理して解説します。
 

1.コストテーブルの活用

         
◆経営活動を各部門に分けて、コストテーブルの活用を整理します。
 
(1)販売部門での活用
 
 販売部門の一番の仕事は、顧客から注文をいただくことです。そのために、製品の仕様や品質、数量、納期、そして、価格が決められます。とくに、この価格交渉では、販売することによって、利益が確保できなければなりません。つまり、採算性の判断をすることです。
 
 いくら数多くの売上高や販売数量を達成しても利益が伴わなければ、企業の存在は危ういものになってしまいます。このため、販売活動では常に採算性を意識したものでなければなりません。
 
 しかし、価格競争の激しさは、採算性を無視しても注文を受けようということになり易いことがあります。これは、注文がなければ生産活動が進められないし、生産活動が進められなければ、費用だけが発生し、経営がますます悪化していってしまうと考えるからです。
 
 これでは、いずれ企業は、成り立たなくなってしまいます。したがって、販売部門では顧客へのベストコストと自社の利益が確保できるという売価算定の基準を持って、価格を提示することが大切です。そして、この基準が、しっかりと数値で示せることが大切なのです。
 
 コスト基準によって、販売部門は説得力のある交渉が可能になり、利益を確保することができるのです。また、セースルパーソンも、価格交渉をする上で受注するために顧客からの条件を十分に知ることができるようになります。そして、顧客ごとの受注条件をもとに、より良い提案をすることができるようになるのです。
 
(2)設計部門での活用
 
 従来は、製品が開発されて、生産活動に移された段階で、初めてコストを考える傾向がありました。コストは、製造部門が検討すべきことであって、開発・設計部門は関係のないことであると主張されてきていたのです。
 
 しかし、製造部門が、検討できるコストは、発行された図面を「いかに早く作るか」ということが中心になります。したがって、工法を変えることなく、工数や時間をいかに短縮して、コストを引下げるかということです。
 
 これに対して、設計部門では、材質、形状、寸法など図面そのものを変更することによって、工法そのものを含めてコストを変えることが可能になり、広範囲にコストダウンの検討ができるのです。コストを決定している川上の設計部門なのです。
 
 このため、設計部門ではより良い製品を低価格で実現するために、製品の設計とコストの作り込みを同時並行で行うことが重要であることの認識されてきています。
 
 また、製品の開発段階でコストシミュレーションを行なうことによって、最適なコストを追求するために活用することです。製品の開発段階では目標原価が定められ、その目標原価の範囲内で製品化できているのかを確認するのです。そして、製品の目標原価を達成可能なものとして、もし、範囲を越えた場合には、設計変更などの対策をして修正することが可能になります。
 
 さらに、コストテーブルによって、方式や構造の違い、工法の選択、仕様の変更などをコスト面から知ることができるようになります。より良い製品を低価格で達成するために、VE(バリューエンジニアリング)活動での数多くのアイデアをコスト評価のモノサシにも活用することができます。
 
(3)製造部門での活用
 
 製造部門は、設計部門から発行された部品表や図面、仕様書などをもとに、製造活動が始められます。製造するためには、製造品目をどのように作っていくかを決めます。つまり、工程設計をすることです。例えば、品目Aは、旋盤加工して、焼き入れ処理、メッキ処理をする。品目Bは、旋盤加工、フライス加工、メッキ処理というようなことです。
 
 このときに、自社で使用する設備機械の能力は、いくらかを整理することが大切です。例えば、加工品目の大きさや重さによって、旋盤加工であっても使えない設備もあり、設備の必要な能力が異なるからです。
 
 次に、作業設計をします。作業設計とは、作業方法や作業条件、作業手順などについて設定することです。これは、作業指導票に表され、標準時間が設定されることになるのです。さらに、就業時間の中で、段取り時間を除く稼働可能な時間の比率を算定します。手待ちや追加作業、異常作業などの時間のことです。これらの資料がまとめられることによって、コストテーブルは、自社の製造部門の実力コストを求めることができるようになります。
 
(4)購買部門での活用
 
 購買部門は、外部から必要な資材や部品を調達する部門です。一般に製造原価の5割以上が、外部からの調達である原材料費、外注加工費、購入部品費などで占められています。
 
 したがって、資材を調達している購買部門は、重点なコストダウン課題の1つです。そして、購買部門は、コストテーブルが、最も活用されている部門でもあります。
 
 購買部門の役割は、必要な品目を、必要なときに必要な数量だけ、適正な価格で購入することです。そのためには、適切な仕入先を選定することが大切になります。
 
 そして、購買部門は、購入品について、その業者との価格交渉が行われるわけです。このとき、製品の多種少量生産の傾向やライフサイクルの短縮は、購入品の点数の増加、調達スピードのアップを要求するようになってきています。
 
 このため、数多くの品目を短期間に見積るため、限られた人数で、見積らなければなりません。このときに、個人による誤差があると適正な価格で購入することは難しくなります。したがって、この誤差を無くしていかなければなりません。
 
 最後に、経営活動の各部門と、コストテーブルの関係を整理して下図に示します。
 
    コストテーブル
 

   続きを読むには・・・


この記事の著者

間舘 正義

製品を切り口に最適コスト追求のためのコスト・ソリューションを提供します。

製品を切り口に最適コスト追求のためのコスト・ソリューションを提供します。


「経済性工学」の他のキーワード解説記事

もっと見る
Excelでの計算ロジック 経済性工学 (その4)

  前回は、第3回 、経済性工学の原理原則でした。今回はExcelを使って経済性を計算してみます。   【目次】 ...

  前回は、第3回 、経済性工学の原理原則でした。今回はExcelを使って経済性を計算してみます。   【目次】 ...


R&Dを定量評価する 経済性工学 (その1)

  経済性工学は、費用対効果、損得計算、意思決定のための経済性分析などとも表現されており、不確実性の時代には、技術者が成果を確かなものにするた...

  経済性工学は、費用対効果、損得計算、意思決定のための経済性分析などとも表現されており、不確実性の時代には、技術者が成果を確かなものにするた...


経済性工学概要 経済性工学 (その2)

  【経済性工学 連載目次】 R&Dを定量評価する 経済性工学とは 経済性工学の原理原則 Excelでの算出ロジック(NP...

  【経済性工学 連載目次】 R&Dを定量評価する 経済性工学とは 経済性工学の原理原則 Excelでの算出ロジック(NP...


「経済性工学」の活用事例

もっと見る
設計段階でのコストテーブルの活用事例 (その2)

 前回、設計段階でのコストテーブルの活用事例 その1に続き、今回のその2では、コストテーブル活用で、注意すべきことなど、事例を更に掘り下げます。設計段階で...

 前回、設計段階でのコストテーブルの活用事例 その1に続き、今回のその2では、コストテーブル活用で、注意すべきことなど、事例を更に掘り下げます。設計段階で...


設計段階でのコストテーブルの活用事例 (その1)

◆設計段階でのコストテーブルの活用事例(その1)  ある会社での設計段階でのコストテーブルの活用事例について紹介します。それは、従来の製品と関連性の...

◆設計段階でのコストテーブルの活用事例(その1)  ある会社での設計段階でのコストテーブルの活用事例について紹介します。それは、従来の製品と関連性の...


設計段階で加工品見積ソフトを生かす方法(その2)

3. コストは分けて考えること  ある企業からコストダウンの検討依頼があった時のことです。その会社(A社とします)は、包装機械を製造・販売している会...

3. コストは分けて考えること  ある企業からコストダウンの検討依頼があった時のことです。その会社(A社とします)は、包装機械を製造・販売している会...