発明原理を使って根本原因から工学的矛盾(技術的矛盾)を克服する方法

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 1.はじめに

 TRIZにおいてもっともポピュラーなアイデア発想の技法は、40の発明原理と矛盾解決マトリックスを使った工学(技術)的矛盾の克服でしょう。しかし、その具体的な使い方についてはなかなか理解が進まないのも現実です。今回は当社で実施している具体的な方法を説明します。

 

2.根本原因から矛盾をモデル化する

 たとえば「電動シェーバーでひげを剃ると肌を痛める」事の根本原因分析を行った結果、「外刃が薄いから」を根本原因として取り上げてみます。本来外刃と内刃のせん断によってひげが刈り取られるのですから、外刃は厚くてもかまわないはずですが、外刃の板厚が厚いとその分だけひげが残ってしまい、剃り残しが出てしまいます。ですから、外刃は出来るだけ薄い方が良い。しかし、薄すぎると、内刃が外刃の穴を通して肌を削り取ってしまうので、肌を傷めるという矛盾が生まれます。これをモデル化したものが図1です。

電動シェーバーの外刃における工学的矛盾

図1 電動シェーバーの外刃における工学的矛盾

 

 次に、工学的矛盾を克服していくフローを図2に示します。

    

図2 工学的矛盾解決のフロー

 

3.39の特性パラメータへの言い換えと発明原理の選定

 TRIZといえども、すべての技術分野の問題解決のヒントが列挙されているわけではなく、そこにはおのずと数量的な限界があります。そのため、自分の分野の問題で定式化した工学的矛盾を一般的な表現に言い変える必要があります。そこで使うのが「39の特性パラメータ」です。この特性パラメータで、自分が改善したいと考えている特性とそれに伴い悪化が予想される特性を39種類のどれかに言いかえることになります。

 たとえば、電動シェーバーの外刃の厚さを薄くすると内刃が肌を削ってしまうと考えた時、改善したい特性とは「外刃の厚さ=長さ(幅)」であり、それに伴って悪化すると予想される特性は「肌に接する面積」と考えることができます。 したがって、

   ・改善する特性=移動物体の長さ

   ・悪化する特性=移動物体の面積

と言いかえてみました。その後矛盾解決マトリックスを使って、それらの交点にある発明原理を抽出することになります。 図3にそのマトリックス部分を抜粋して示します。

   40の発明原理の抜粋

図3 発明原理の抜粋

 

 この場合マトリックスから得られた発明原理は、以下の3つです。

   (a).15:ダイナミック性原理

• 物体の特性、外部環境、プロセスを変更して、あるいは変更するように設計して、最適にするかまたは最適の作業条件を見出す。

• 互いに相対的に運動できるように、物体を部分に分割する。

• 物体またはプロセスが不動あるいは不変である場合は、可動にするかまたは適応性を高くする。

   (b).17:他次元移行原理

• 物体を2次元または3次元空間内で移動する。

• 物体を単層ではなく多層に配列する。

• 物体を傾けたり、方向を変えたり、横向きに置いたりする。

• 指定された領域の「反対側」を利用する。

   (c).4:非対称原理

• 物体の対称な形を非対称に変更する。

• 物体が非対称である場合は、非対称の度合いを強める。

 

 少し抽象化の解釈を変えて、改善することを目的機能とし「外刃を薄くする目的は、ひげを根元から取り去る事」であるとすれば、改善する特性は「物質の量」と置き換えて、

   (a).15:ダイナミック性原理

   (d).14:曲面原理

• 直線状の部品、表面、形を使用する代わりに、曲線状のものを使用する。平坦な表面を球面にする。平行パイプの立方体形状の部品を球状の構造にする。

• ローラ、球、螺旋、ドームを使用する。

• 直線運動を回転運動に変更し、遠心力を利用する。

   (e).29:流体利用原理

• 膨張、液体充填、エアクッション、静水圧、流体反応など、物体の固体部分ではなく気体または液体部分を使用する。

の3つが選択されます。

 

4.発明原理からのアイデア発想

 つまり、外刃というツール、および外刃の厚さというリソースをダイナミックにしたり、他次元に移行させてみたり、非対称にしたり、更には流体を使ってみたりすると、何か良いことはありませんか?という提案が得られたため、実際にアナロジーを働かせてアイデアを出していくことになります。しかもここでは、アイデアの効果(ひげをうまく剃れるか?とか、肌荒れを起こしにくいなど)は一旦棚上げして、発明原理を外刃と内刃と肌に適用するとすれば、どんな事が考えられるか?という「批判厳禁」の姿勢を貫くことが大切です。

 たとえば、以下のようなアイデアが簡単に生まれます。

(a).ダイナミック性原理から、「外刃の硬さを自由に変えられる」「肌の状態に応じてモードチェンジする」「シェーバーの押しつけ圧に応じて穴の大きさを変え...

 1.はじめに

 TRIZにおいてもっともポピュラーなアイデア発想の技法は、40の発明原理と矛盾解決マトリックスを使った工学(技術)的矛盾の克服でしょう。しかし、その具体的な使い方についてはなかなか理解が進まないのも現実です。今回は当社で実施している具体的な方法を説明します。

 

2.根本原因から矛盾をモデル化する

 たとえば「電動シェーバーでひげを剃ると肌を痛める」事の根本原因分析を行った結果、「外刃が薄いから」を根本原因として取り上げてみます。本来外刃と内刃のせん断によってひげが刈り取られるのですから、外刃は厚くてもかまわないはずですが、外刃の板厚が厚いとその分だけひげが残ってしまい、剃り残しが出てしまいます。ですから、外刃は出来るだけ薄い方が良い。しかし、薄すぎると、内刃が外刃の穴を通して肌を削り取ってしまうので、肌を傷めるという矛盾が生まれます。これをモデル化したものが図1です。

電動シェーバーの外刃における工学的矛盾

図1 電動シェーバーの外刃における工学的矛盾

 

 次に、工学的矛盾を克服していくフローを図2に示します。

    

図2 工学的矛盾解決のフロー

 

3.39の特性パラメータへの言い換えと発明原理の選定

 TRIZといえども、すべての技術分野の問題解決のヒントが列挙されているわけではなく、そこにはおのずと数量的な限界があります。そのため、自分の分野の問題で定式化した工学的矛盾を一般的な表現に言い変える必要があります。そこで使うのが「39の特性パラメータ」です。この特性パラメータで、自分が改善したいと考えている特性とそれに伴い悪化が予想される特性を39種類のどれかに言いかえることになります。

 たとえば、電動シェーバーの外刃の厚さを薄くすると内刃が肌を削ってしまうと考えた時、改善したい特性とは「外刃の厚さ=長さ(幅)」であり、それに伴って悪化すると予想される特性は「肌に接する面積」と考えることができます。 したがって、

   ・改善する特性=移動物体の長さ

   ・悪化する特性=移動物体の面積

と言いかえてみました。その後矛盾解決マトリックスを使って、それらの交点にある発明原理を抽出することになります。 図3にそのマトリックス部分を抜粋して示します。

   40の発明原理の抜粋

図3 発明原理の抜粋

 

 この場合マトリックスから得られた発明原理は、以下の3つです。

   (a).15:ダイナミック性原理

• 物体の特性、外部環境、プロセスを変更して、あるいは変更するように設計して、最適にするかまたは最適の作業条件を見出す。

• 互いに相対的に運動できるように、物体を部分に分割する。

• 物体またはプロセスが不動あるいは不変である場合は、可動にするかまたは適応性を高くする。

   (b).17:他次元移行原理

• 物体を2次元または3次元空間内で移動する。

• 物体を単層ではなく多層に配列する。

• 物体を傾けたり、方向を変えたり、横向きに置いたりする。

• 指定された領域の「反対側」を利用する。

   (c).4:非対称原理

• 物体の対称な形を非対称に変更する。

• 物体が非対称である場合は、非対称の度合いを強める。

 

 少し抽象化の解釈を変えて、改善することを目的機能とし「外刃を薄くする目的は、ひげを根元から取り去る事」であるとすれば、改善する特性は「物質の量」と置き換えて、

   (a).15:ダイナミック性原理

   (d).14:曲面原理

• 直線状の部品、表面、形を使用する代わりに、曲線状のものを使用する。平坦な表面を球面にする。平行パイプの立方体形状の部品を球状の構造にする。

• ローラ、球、螺旋、ドームを使用する。

• 直線運動を回転運動に変更し、遠心力を利用する。

   (e).29:流体利用原理

• 膨張、液体充填、エアクッション、静水圧、流体反応など、物体の固体部分ではなく気体または液体部分を使用する。

の3つが選択されます。

 

4.発明原理からのアイデア発想

 つまり、外刃というツール、および外刃の厚さというリソースをダイナミックにしたり、他次元に移行させてみたり、非対称にしたり、更には流体を使ってみたりすると、何か良いことはありませんか?という提案が得られたため、実際にアナロジーを働かせてアイデアを出していくことになります。しかもここでは、アイデアの効果(ひげをうまく剃れるか?とか、肌荒れを起こしにくいなど)は一旦棚上げして、発明原理を外刃と内刃と肌に適用するとすれば、どんな事が考えられるか?という「批判厳禁」の姿勢を貫くことが大切です。

 たとえば、以下のようなアイデアが簡単に生まれます。

(a).ダイナミック性原理から、「外刃の硬さを自由に変えられる」「肌の状態に応じてモードチェンジする」「シェーバーの押しつけ圧に応じて穴の大きさを変える?」など。

(b).他次元移行原理から、「外刃を2重構造にして相互移動可能にする」など。

(d).曲面原理から、「外刃のラウンドをもっと複雑にする」「キャタピラー方式」「往復運動ではなく、回転運動にする」など。

(e).流体利用原理からは、「そういえば、ジェット水流でひげをせん断する?」「そこまで行かなくても、ジェル状の肌を保護する乳液を出しながら剃る」など。

 

…様々な専門分野を持った方々であれば、もっと色々な視点から多くのアイデアが出てくることと思います。要は、一直線に改善効果を得ようとせずに、発明原理に沿った色々な提案から、とりあえずは多くの思いつきを生み出し、その中でひらめきを引き出すことが大切です。そして、その思いつきは多ければ多いほど良く、大体100件から200件ほどの思いつきならば、5-6名のチームの場合8時間~16時間程度の作業で可能です。

 

 今回の内容が、皆さんの矛盾克服の一助になれば幸いです。

 

 近日中に、このページから工学的矛盾マトリクス表をダウンロードできるようにしますので、楽しみにしていてください。

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この記事の著者

桑原 正浩

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