プラスチック材料の特性を考慮した強度設計(その2)

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 プラスチック材料の特性を考慮した強度設計について、2回に分けて解説しています。前回のその1に続いて今回は、その2です。
 

1.プラスチック材料の強度

 精度の高い強度設計を行うためには、プラスチック材料が持つ強度を正確に見積ることが重要です。プラスチック製品の強度設計において、どのようなポイントに注意して強度の見積りをすればよいかについて説明します。
 
(1)強度の温度依存性
 
 プラスチック材料の強度は、図4のように温度によって大きく変化します。一般消費者向け製品では、使用環境温度は0~35℃ぐらいですが、図4の「デンカABS」のケースでは、0℃の時と35℃の時で20%前後の強度差が生じています。
 
            プラスチック材料
 図4 「デンカABS」 曲げ強度の温度依存性
出所:電気化学工業株式会社HP  http://www.denka.co.jp/resin/product/pdf/abs_catalog.pdf
 
(2)劣化による強度低下
 
 プラスチック材料は使用環境の様々な要因により劣化が進み、強度が徐々に低下します。代表的な劣化要因を表2に示します。
 
表2 プラスチック材料の劣化要因 
          プラスチック材料
 
 強度低下を見積るためには、まず、各劣化要因がどの程度製品に作用するのかを想定します。その想定を元にアレニウスの式などを使った加速試験を行い、強度低下を見積ることが一般的です。通常、これらの劣化要因は外部からの荷重などと共に複合的に作用します。そのため、強度低下の見積りは非常に難易度が高く、各企業のノウハウとなっています。
 
(3)クリープによる強度低下
 
 製品に一定の荷重が継続的に作用すると、徐々に変形が進み、やがて破壊に至るクリープ現象が発生します。金属材料では常温付近におけるクリープは想定する必要はありませんが、プラスチックの場合は、図5の例でも分かる通り影響が顕著です。筆者もクリープによる製品クレームを何度も経験したので、その影響は痛いほど理解しています。
 
      プラスチック材料
図5 旭化成ポリアセタール「テナックス」 引張クリープ破断
 出所:旭化成ケミカルズ株式会社http://www.akchem.com/rs/jpn/contentsfiles/emt/etc/tenac/TeHB_10.pdf
 
(4)繰り返し応力による疲労
 
 金属と同様にプラスチック材料も繰り返し応力により疲労破壊を起こします。金属とは異なり、明確な疲労限度が出ない材料が多いことには注意が必要です。
 
プラスチック材料
図6 ABS樹脂のS-N曲線
出所:NITE(独立行政法人製品評価技術基盤機構)HP http://www.tech.nite.go.jp/mch/rpt/hakai3.pdf
 
(5)成形不良による強度低下
 
 プラスチック製品は、成形の不具合により強度低下を招くことがあります。図7はボイド(気泡)により強度が低下し、製品の破損に至った事例です。成形不具合を設計時点でどこまで考慮するかの判断は非常に悩ましいものですが、ウェルドなど発生がある程度予測できるものについては、強度低下を想定した強度設計を行った方がよいでしょう。その他の成形不具合については、金型メーカーや製造担当者・企業と入念な仕様の取り決めを行い、成形不具合の発生を防止することが重要です。
 
  プラスチック材料
図7 ボイド(気泡)による強度低下で発生した製品事故事例
出所:NITE(独立行政法人製品評価技術基盤機構)HP
http://www.nite.go.jp/data/000005663.pdf
 
<強度低下を引き起こす成形不良の例>
 
・ボイド  ・ヒケ  ・ウェルド  ・傷  ・異物
 
 その他にも、衝撃、摩耗など考慮しなければならない材料特性は様々です。製品の使われ方をしっかりと把握し、製品に発生する応力と必要な材料強度を正確に見積らなければなりません。
 

2.壊れないプラスチック製品を設計するために

 これまで述べてきたように、発生する応力や材料の強度をしっかり把握することができれば、壊れないプラスチック製品を設計することは可能です。しかし、そのデータを取得するためには非常に多くの工数と費用が必要です。一般的にプラスチック製品は単価の低いものが多いため、工数と費用が十分に掛けられるのは、航空機や自動車といったごく一部の製品に限られるのではないでしょうか。そこで、あまり工数や費用を掛けることができない企業や設計者が、プラスチック製品の強度設計を行う際のポイントをいくつか紹介します。
 
(1)使用する材料や添加剤などを集約する
 
 物性データを取る手間を減らすために、材料や添加剤などを思い切って集約した方がよいと考えます。同じPPを使用する際でも、製品や部位の違いにより、様々な材料を使用しているケースは多いと思います。設計時点で少しでも単価の安い材料を使いたくなる気持ちは分かりますが、たくさんの種類の材料を持っていると、それだけデータ取りに工数や費用が必要になります。その工数や費用が捻出できればよいですが、できない場合は安全率を高くした設計をせざるを得ません。単価に多少の違いがあっても、材料や添加剤を集約した方が、結果的に短期間、省工数、低コストで設計できるのではないでしょうか。
 
 材料メーカーは様々な評価試験設備や材料に関する知識を持っているので、設計者としては是非とも協力してもらいたいと考えていると思います。しかし、ビジネスとしては仕方がありませんが、材料の使用量が少ないと十分な協力が得られません。したがって、材料メーカーの協力を引き出すためにも、使用する材料を絞り、使用量を増やすことが重要です。
 
(2)強度設計の考え方を社内で統一する
 
 「この製品の安全率は3です」という言い方をすることがあると思いますが、これまで述べた通り、どういう発生応力とどういう強度で安全率を出しているかによって、「安全率3」の妥当性は大きく異なります。「安全率が3」もあれば十分だと安心していたら、強度や応力を平均値で見ており、バラツキを考えたらほとんどマージンがないということもあり得ます。「発生応力はバラツキの上限値、材料強度はバラツキの下限値で安全率3以上を確保」というような考え方を統一した方が品質の安定につながります。
 
(3)安全率を適切に設定する
 
 物性データや市場での不具合...
 プラスチック材料の特性を考慮した強度設計について、2回に分けて解説しています。前回のその1に続いて今回は、その2です。
 

1.プラスチック材料の強度

 精度の高い強度設計を行うためには、プラスチック材料が持つ強度を正確に見積ることが重要です。プラスチック製品の強度設計において、どのようなポイントに注意して強度の見積りをすればよいかについて説明します。
 
(1)強度の温度依存性
 
 プラスチック材料の強度は、図4のように温度によって大きく変化します。一般消費者向け製品では、使用環境温度は0~35℃ぐらいですが、図4の「デンカABS」のケースでは、0℃の時と35℃の時で20%前後の強度差が生じています。
 
            プラスチック材料
 図4 「デンカABS」 曲げ強度の温度依存性
出所:電気化学工業株式会社HP  http://www.denka.co.jp/resin/product/pdf/abs_catalog.pdf
 
(2)劣化による強度低下
 
 プラスチック材料は使用環境の様々な要因により劣化が進み、強度が徐々に低下します。代表的な劣化要因を表2に示します。
 
表2 プラスチック材料の劣化要因 
          プラスチック材料
 
 強度低下を見積るためには、まず、各劣化要因がどの程度製品に作用するのかを想定します。その想定を元にアレニウスの式などを使った加速試験を行い、強度低下を見積ることが一般的です。通常、これらの劣化要因は外部からの荷重などと共に複合的に作用します。そのため、強度低下の見積りは非常に難易度が高く、各企業のノウハウとなっています。
 
(3)クリープによる強度低下
 
 製品に一定の荷重が継続的に作用すると、徐々に変形が進み、やがて破壊に至るクリープ現象が発生します。金属材料では常温付近におけるクリープは想定する必要はありませんが、プラスチックの場合は、図5の例でも分かる通り影響が顕著です。筆者もクリープによる製品クレームを何度も経験したので、その影響は痛いほど理解しています。
 
      プラスチック材料
図5 旭化成ポリアセタール「テナックス」 引張クリープ破断
 出所:旭化成ケミカルズ株式会社http://www.akchem.com/rs/jpn/contentsfiles/emt/etc/tenac/TeHB_10.pdf
 
(4)繰り返し応力による疲労
 
 金属と同様にプラスチック材料も繰り返し応力により疲労破壊を起こします。金属とは異なり、明確な疲労限度が出ない材料が多いことには注意が必要です。
 
プラスチック材料
図6 ABS樹脂のS-N曲線
出所:NITE(独立行政法人製品評価技術基盤機構)HP http://www.tech.nite.go.jp/mch/rpt/hakai3.pdf
 
(5)成形不良による強度低下
 
 プラスチック製品は、成形の不具合により強度低下を招くことがあります。図7はボイド(気泡)により強度が低下し、製品の破損に至った事例です。成形不具合を設計時点でどこまで考慮するかの判断は非常に悩ましいものですが、ウェルドなど発生がある程度予測できるものについては、強度低下を想定した強度設計を行った方がよいでしょう。その他の成形不具合については、金型メーカーや製造担当者・企業と入念な仕様の取り決めを行い、成形不具合の発生を防止することが重要です。
 
  プラスチック材料
図7 ボイド(気泡)による強度低下で発生した製品事故事例
出所:NITE(独立行政法人製品評価技術基盤機構)HP
http://www.nite.go.jp/data/000005663.pdf
 
<強度低下を引き起こす成形不良の例>
 
・ボイド  ・ヒケ  ・ウェルド  ・傷  ・異物
 
 その他にも、衝撃、摩耗など考慮しなければならない材料特性は様々です。製品の使われ方をしっかりと把握し、製品に発生する応力と必要な材料強度を正確に見積らなければなりません。
 

2.壊れないプラスチック製品を設計するために

 これまで述べてきたように、発生する応力や材料の強度をしっかり把握することができれば、壊れないプラスチック製品を設計することは可能です。しかし、そのデータを取得するためには非常に多くの工数と費用が必要です。一般的にプラスチック製品は単価の低いものが多いため、工数と費用が十分に掛けられるのは、航空機や自動車といったごく一部の製品に限られるのではないでしょうか。そこで、あまり工数や費用を掛けることができない企業や設計者が、プラスチック製品の強度設計を行う際のポイントをいくつか紹介します。
 
(1)使用する材料や添加剤などを集約する
 
 物性データを取る手間を減らすために、材料や添加剤などを思い切って集約した方がよいと考えます。同じPPを使用する際でも、製品や部位の違いにより、様々な材料を使用しているケースは多いと思います。設計時点で少しでも単価の安い材料を使いたくなる気持ちは分かりますが、たくさんの種類の材料を持っていると、それだけデータ取りに工数や費用が必要になります。その工数や費用が捻出できればよいですが、できない場合は安全率を高くした設計をせざるを得ません。単価に多少の違いがあっても、材料や添加剤を集約した方が、結果的に短期間、省工数、低コストで設計できるのではないでしょうか。
 
 材料メーカーは様々な評価試験設備や材料に関する知識を持っているので、設計者としては是非とも協力してもらいたいと考えていると思います。しかし、ビジネスとしては仕方がありませんが、材料の使用量が少ないと十分な協力が得られません。したがって、材料メーカーの協力を引き出すためにも、使用する材料を絞り、使用量を増やすことが重要です。
 
(2)強度設計の考え方を社内で統一する
 
 「この製品の安全率は3です」という言い方をすることがあると思いますが、これまで述べた通り、どういう発生応力とどういう強度で安全率を出しているかによって、「安全率3」の妥当性は大きく異なります。「安全率が3」もあれば十分だと安心していたら、強度や応力を平均値で見ており、バラツキを考えたらほとんどマージンがないということもあり得ます。「発生応力はバラツキの上限値、材料強度はバラツキの下限値で安全率3以上を確保」というような考え方を統一した方が品質の安定につながります。
 
(3)安全率を適切に設定する
 
 物性データや市場での不具合情報が蓄積されるまでは、ある程度高めの安全率を設定した方がよいでしょう。しかし、すべての部分で安全率を高めに設定してしまうと、非常に高コストの製品となってしまうので、安全に関わる所とそれ以外で安全率を変えることも一つのやり方です。
 
(4)製品の壊れ方を知っておく
 
 いくら安全率を適切に設定していても、想定に反して製品が壊れることもあります。その場合でも、使用者が怪我をするといった最悪の事態にならないように、安全な壊れ方になるような設計を心がける必要があります。また、本当に安全な壊れ方をするのか、試作品を実際に壊れるまで使用、評価することも重要です。
 

3.プラスチックの強度設計の重要性

 NITE(独立行政法人製品評価技術基盤機構)によると、近年の5年間に発生した製品事故(約21,000件)のうち、プラスチックの破損事故は500件を占めるそうです。私はプラスチックの強度設計不良をかなりたくさん見て来たので、NITEに報告されている事例は氷山の一角に過ぎないと考えています。それだけプラスチック製品の強度設計は難しいとも言えます。低コスト化や軽量化といったニーズはますます高まっており、プラスチック製品が今後も増えて行くのは間違いありません。プラスチック材料の特性を考慮した上で、強度設計を行うことの重要性を理解して頂ければ幸いです。
 
参考文献
NITE(独立行政法人製品評価技術基盤機構)HP 「プラスチック製品の事故原因解析手法と実際の解析事例について」
http://www.nite.go.jp/data/000005694.pdf
 

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この記事の著者

田口 宏之

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