在庫保管と倉庫改善(その1)

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1. 在庫削減と物流コスト改善

 物流コスト改善でもっとも効果のあるアイテムとして注目を浴びているのが在庫削減です。たしかに在庫を下げることで物流にはさまざまなポジティブな影響が出てきます。一番大きな効果はスペースセービングでしょう。在庫置場には多くの会社が苦労しています。場所が狭い、狭いという言葉を皆さんも聞かれることがあるのではないでしょうか。この在庫が場所を食うことは日常生活でも同じなのでイメージはしやすいと思います。ものがあふれた家では生活空間が狭くなり、圧迫感を感じます。
 
 在庫を減らせば容器も少なくて済みます。容器もスペースと同様、足りない、足りないという言葉を聞くことがあります。在庫があふれてくると先入先出のためのモノの移動や、場所探し、余分な横持ち作業など、付随的な作業を生じさせます。在庫削減でこういった作業も軽減されます。そして在庫管理業務も少なくて済みます。在庫が多い場合、どこに何があるのかの管理が必要になります。古い在庫と新しい在庫の管理も必要になります。このような管理も軽減されるため、在庫削減は大方物流コスト改善には効果があると考えられます。
 
 私たちは在庫を必要最小限で持ちたいと考えます。しかし、この原則は必ずしも適用されているとは限りません。特に安全在庫と称される在庫の扱い方について課題がありそうです。安全在庫は何かトラブルがあった時にサプライチェーンを寸断させないために保有する在庫です。もう少しミクロの視点で見てみましょう。メーカーの工場では生産ラインを停止させることは何が何でも避けなければなりません。
 
 たとえば、設備がトラブルを起こしたとします。設備が故障で停止すると復旧するまでの間、製品が出てこないことになります。過去の事例から、設備が1時間停止する可能性が大きい場合、1時間分の在庫を保有することがあります。これが設備トラブルに備えた安全在庫です。しかし、この安全在庫自体にも課題があります。それは安全のための根拠が明確か否かという課題です。先ほどの例で考えると、1時間の安全在庫の理由が「1時間の停止の可能性」という明確なものがあります。でもこのような明確な理由が無い場合は注意が必要です。
 
 SCM
 

2. 安全在庫と安心在庫

 多くの会社で安全在庫に関する課題を抱えています。それはどのような点で問題になっているのでしょうか。それはずばり「多すぎる」ということです。前回の例でいえば1時間の設備停止が予測されるために1時間の安全在庫を持つということでした。しかし、多くのケースで1時間のリスクに対して1日分の在庫量になっているのです。ひどいものになると全く根拠のない「安全在庫」を保有している場合があるのです。根拠のない安全在庫は安全在庫ではなく「安心在庫」です。その担当者の安心のための在庫なのです。本当にはそこまでの量は必要ないかもしれませんが、「万一」のことを不安に思い、持ってしまうのです。
 
 こうなると現物を管理する物流担当者は大変です。あらゆる資材について購買担当者が安心在庫を持ち始めると膨大なスペースが必要になるからです。在庫量はまめに管理する必要があります。安全在庫については必ず根拠を明確にさせなければなりません。設備停止分で1時間分、顧客のオーダーの振れで1日分など、必ず根拠と数字で保有すべき安全分を明らかにしましょう。 
 
 安全在庫でもう一つ在庫が膨らむことを防止する方策があります。これは効果的ですからぜひ皆さんにも取り入れていただきたいと思います。それは在庫置場の在庫ごとに「管理担当者の名前」を掲示することです。もしいつも量が一定かつ膨大な在庫があったとしたら、その在庫は誰が管理しているのかが一目瞭然となります。通常であればその担当者はいい加減な在庫管理を行っていると見られますから、もっとしっかりとした管理を行うようになると思われます。
 
 在庫を持つ前提はそれが売れるあいは使う見込みがあるから保有するはずです。工場では生産することが決まっているものに対して資材発注を行います。今目の前にある在庫はいつ使われるのでしょうか。これは今日の夕方に使われるとか、明日出荷されるというようにわかることが重要です。
 

3. 発注の仕方と在庫

 在庫が増える要因の一つに調達タイミングが早すぎるということがあります。あるいはいつ使うかは明確になっていないけれども買っておこうということもあるかもしれません。もう一つ、よく物流現場を見ていて気になることがあります。それは購入ロットが大きすぎるということです。本来であれば明日使う分を今日買う、といったデイリー発注が望ましいと思います。しかしいろいろな理由のもと、まとめて購入しているケースもあります。これはまさに発注の仕方で在庫が発生するわけですから、よくよく物流現場の状況を見ながら現実的に対処していく必要があります。
 
 「まとめて買えば安くなる」ということで今必要のないものまで購入していることがあります。一方で保管コストがかかり、実質その安くなった分が帳消しになっている場合もあります。在庫の評価は多くの会社で「金額」で行っています。財務値上、これはこれで重要です。しかし、物流上でも見ていく必要があ...

1. 在庫削減と物流コスト改善

 物流コスト改善でもっとも効果のあるアイテムとして注目を浴びているのが在庫削減です。たしかに在庫を下げることで物流にはさまざまなポジティブな影響が出てきます。一番大きな効果はスペースセービングでしょう。在庫置場には多くの会社が苦労しています。場所が狭い、狭いという言葉を皆さんも聞かれることがあるのではないでしょうか。この在庫が場所を食うことは日常生活でも同じなのでイメージはしやすいと思います。ものがあふれた家では生活空間が狭くなり、圧迫感を感じます。
 
 在庫を減らせば容器も少なくて済みます。容器もスペースと同様、足りない、足りないという言葉を聞くことがあります。在庫があふれてくると先入先出のためのモノの移動や、場所探し、余分な横持ち作業など、付随的な作業を生じさせます。在庫削減でこういった作業も軽減されます。そして在庫管理業務も少なくて済みます。在庫が多い場合、どこに何があるのかの管理が必要になります。古い在庫と新しい在庫の管理も必要になります。このような管理も軽減されるため、在庫削減は大方物流コスト改善には効果があると考えられます。
 
 私たちは在庫を必要最小限で持ちたいと考えます。しかし、この原則は必ずしも適用されているとは限りません。特に安全在庫と称される在庫の扱い方について課題がありそうです。安全在庫は何かトラブルがあった時にサプライチェーンを寸断させないために保有する在庫です。もう少しミクロの視点で見てみましょう。メーカーの工場では生産ラインを停止させることは何が何でも避けなければなりません。
 
 たとえば、設備がトラブルを起こしたとします。設備が故障で停止すると復旧するまでの間、製品が出てこないことになります。過去の事例から、設備が1時間停止する可能性が大きい場合、1時間分の在庫を保有することがあります。これが設備トラブルに備えた安全在庫です。しかし、この安全在庫自体にも課題があります。それは安全のための根拠が明確か否かという課題です。先ほどの例で考えると、1時間の安全在庫の理由が「1時間の停止の可能性」という明確なものがあります。でもこのような明確な理由が無い場合は注意が必要です。
 
 SCM
 

2. 安全在庫と安心在庫

 多くの会社で安全在庫に関する課題を抱えています。それはどのような点で問題になっているのでしょうか。それはずばり「多すぎる」ということです。前回の例でいえば1時間の設備停止が予測されるために1時間の安全在庫を持つということでした。しかし、多くのケースで1時間のリスクに対して1日分の在庫量になっているのです。ひどいものになると全く根拠のない「安全在庫」を保有している場合があるのです。根拠のない安全在庫は安全在庫ではなく「安心在庫」です。その担当者の安心のための在庫なのです。本当にはそこまでの量は必要ないかもしれませんが、「万一」のことを不安に思い、持ってしまうのです。
 
 こうなると現物を管理する物流担当者は大変です。あらゆる資材について購買担当者が安心在庫を持ち始めると膨大なスペースが必要になるからです。在庫量はまめに管理する必要があります。安全在庫については必ず根拠を明確にさせなければなりません。設備停止分で1時間分、顧客のオーダーの振れで1日分など、必ず根拠と数字で保有すべき安全分を明らかにしましょう。 
 
 安全在庫でもう一つ在庫が膨らむことを防止する方策があります。これは効果的ですからぜひ皆さんにも取り入れていただきたいと思います。それは在庫置場の在庫ごとに「管理担当者の名前」を掲示することです。もしいつも量が一定かつ膨大な在庫があったとしたら、その在庫は誰が管理しているのかが一目瞭然となります。通常であればその担当者はいい加減な在庫管理を行っていると見られますから、もっとしっかりとした管理を行うようになると思われます。
 
 在庫を持つ前提はそれが売れるあいは使う見込みがあるから保有するはずです。工場では生産することが決まっているものに対して資材発注を行います。今目の前にある在庫はいつ使われるのでしょうか。これは今日の夕方に使われるとか、明日出荷されるというようにわかることが重要です。
 

3. 発注の仕方と在庫

 在庫が増える要因の一つに調達タイミングが早すぎるということがあります。あるいはいつ使うかは明確になっていないけれども買っておこうということもあるかもしれません。もう一つ、よく物流現場を見ていて気になることがあります。それは購入ロットが大きすぎるということです。本来であれば明日使う分を今日買う、といったデイリー発注が望ましいと思います。しかしいろいろな理由のもと、まとめて購入しているケースもあります。これはまさに発注の仕方で在庫が発生するわけですから、よくよく物流現場の状況を見ながら現実的に対処していく必要があります。
 
 「まとめて買えば安くなる」ということで今必要のないものまで購入していることがあります。一方で保管コストがかかり、実質その安くなった分が帳消しになっている場合もあります。在庫の評価は多くの会社で「金額」で行っています。財務値上、これはこれで重要です。しかし、物流上でも見ていく必要があります。購買行為はソーシングとパーチェシングに分けられます。ソーシングとは発注先と取引金額を定めること。パーチェシングは納入指示を出すこと、つまり発注です。この内ソーシングは購買部門が事務所で行っても構いません。しかし、パーチェシングはその部品などを現物管理する現場で行った方がよいと思います。
 
 やはり3現主義で部品などの管理は行うべきでしょう。在庫が多すぎれば発注を止め、在庫が少なくなりかけたら緊急発注になる前に発注をかけます。物流現場の方は日々部品などを目にしていますので、この人たちに発注行為を権限移譲することをお勧めしたいと思います。在庫保管時にネックとなるもう一つの要因が「容器内入数」です。どちらかというと必要以上の数が容器に入っているというイメージです。
 
 今の容器内の数は1年分に相当するなどはよくあることではないでしょうか。ではなぜこのようなことが発生するのでしょうか。その一つに「使用量の変化」が挙げられます。あるモデルが売れ筋の時と、モデル末期では受注量が異なります。このような時に、売れ筋の時の荷姿をモデル末期でも使い続けているということを考えてみて下さい。当然のことながら、入数は今の時点では過剰ということになります。
 
 次回もこのテーマで解説を続けます。
 

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この記事の著者

仙石 惠一

物流改革請負人の仙石惠一です。日本屈指の自動車サプライチェーン構築に長年に亘って携わって参りました。サプライチェーン効率化、物流管理技術導入、生産・物流人材育成ならばお任せ下さい!

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