はじめに
<未来>からのアプローチ<科学の目><経営の目>に続いて、いま多くの企業が多大な関心を寄せているDXについて、Ⅰ.DXを理解しビジネスに変革する3冊「アカン!DX」「ルポ日本のDX最前線」「ソフトウエア・ファースト」から日本のDXの大問題・最前線の真実・DX成功のカギについて、Ⅱ.「スケールフリーネットワーク」から‟ものづくり日本”の特徴を活かすDX(ビジネス革新)<DXの光>について紹介いたします。
ところで、DX(Digital Transformationデジタルによる革新)に関する情報はWeb・本・セミナーなど多々ありますが、その中で、上記のⅡ.と同様に<未来>からアプローチしてビジネスを革新するものに日立の「バックキャストの成長戦略」があります。パラダイムが激変する世界では予測(forecast)は当らないので、「将来のあるべき姿から現在なすべきことを見つめていくバックキャスト(backcast)」のアプローチが重要だということです。紙面の制約から今回は紹介できませんが、いずれ紹介する機会を見付けたいと思っています。
Ⅰ.DXを理解しビジネスに変革する3冊
1)「アカン!DX」(木村岳史著)の簡単な紹介
はじめに、から。今、日本企業はこぞってDXに取り組んでいる。・・・大半は失敗に終わると見ている。DXを平たく言えば「デジタルを活用したビジネス構造の変革」だ。
・・・その本質を理解しようとせず、いたずらに「デジタル」を叫ぶ。そんな例が多すぎる。・・・社内にDX推進組織を設置したものの「何をしてよいか分らない」と担当役員が困惑している企業もある始末。・・・DXが軒並み失敗するようなことになれば、日本はIT後進国どころか本当の後進国になってしまう恐れがある。私は日経BPの「日経クロステック」の「極言暴論」というコラムに8年にわたり日本企業/行政機関のIT活用の問題や日本のIT産業の不条理などを追求し続けてきた。・・あえて極言暴論の書きぶりを残したので反感を覚える人もいるだろうが、・・自身が取り組むDXをより良きものに「変革」して頂けたら幸いである。
- 第3章 DXを現場に丸投げ経営者の愚
- 第4章 日本のDXを阻むIT業界の惨状
とにかく痛快な本です。ぜひ原書をお読み下さり暴言を真摯に受け止めてDXの本質を理解してビジネス構造の変革に取り組んで下さるようお勧めします。
2)「ルポ日本のDX最前線」(酒井真弓著)の簡単な紹介
はじめに、から。「IT後進国ニッポン」「なぜ日本にはGAFAやBATH(Baidu, Alibaba,Tencent, Huawei)と渡り合える企業が生まれず、オードリー・タンが現れないのか・・」そう悲観的な言葉で・・・嘆くのは待って欲しい。事実、この国には・・社会や組織に変革を起すDXと正面から向き合い本気で未来を変えようとしている人達がいる。
第2章企業編では、‟コープさっぽろ‐超アナログ組織の山あり谷ありDX”で2020年に就任したCDO(Chief Digital Officer) T氏のシステム内製化への挑戦を紹介し、日清食品グループ初代CIO(Chief Information Officer) K氏への特別取材では情報システム部門の5ステップ改革を振り返って ‟システム刷新に着手して2年、180もあったシステムは8割ほど削減し38に集約した。・・・「ようやくイノベーションのスタートラインに立てた気がした」” という奮闘記として紹介し、最後に、経営層からエンジニアまで読める実践的なDXの本としてベストセラーになった「ソフトウエア・ファースト」の著者及川氏への特別取材で締め括っています。小さな本ですが渾身のルポ記事は読みごたえがありますので、原書をお読む下さることをお勧めいたします。
3)「ソフトウエア・ファースト」(及川卓也著)の紹介
副題「あらゆるビジネスを一変させる最強戦略」。見開き「ソフトウエアがビジネスの中心を担い、インターネットがあらゆるビジネスの基盤となった今、日本企業はどう変化すれば生き残れるのか? すべてはIT活用を『手の内化』することから始まる!」
1章:ソフトウエア・ファースト
サービス化する社会;「コネクテッド」と「シェアリング」
ソフトウエア・ファースト;IT(とそれを構成するソフトウエア)活用を核として事業やプロダクト開発を進めていく考え方で、決してソフトウエアがすべて・・ではない。
Column;アズ・ア・サービス開発・実践・・・サイボウズ社開発本部長S氏に聞く
2章:IT・ネットの‟20年戦争”に負けた日本の課題と光明
アプリケーションの時代になって失われた競争力;要因1・・要因2・・要因3・・
ITサービスで存在感を示すためのアイデア;「フィジカル×サイバー」領域の新規事業
【Column;・・・『フォーブス』」が選ぶ「世界で最も革新的な成長企業」2017年5位、医療の世界で世界有数のITプラットフォーマーのエムスリー社Y氏N氏に聞く】
3章:ソフトウエア・ファーストの実践に必要な変革
DXの本質はIT活用を「手の内化」すること;日本ではITシステムがレガシーシステム(自社システムの中身が不可視になり自分の手で修正できない状況)になっている。
著者は、DXを進めるには内製化が理想と考え・・・システム開発のノウハウが自社内に貯まるだけではなく・・・新たな事業を興す時は仮説検証を行うスピードと企画から運用までの一気通貫のIT活用が必須になるからです。これが ‟IT活用を「手の内化」する”ということです、と。
DXの勝者と敗者;米国DVD大手レンタル業で、IT活用を「手の内化」して成功したネットフリックスとそれが出来ずに倒産してしまったブロックバスター。
ユーザーニーズを理解する難しさ;グーグルのGmailは市場やユーザーを調査した結果生まれたものではなく、グーグルの有名な20%プロジェクト(グーグル社員は勤務時間の20%を好きな仕事に使っていいという制度)を使ったエンジニアの自由な発想から生まれた。
【Column;プロダクト開発だけでなく組織全体を変革するという観点で目を引く取り組みを行っていたコニカミノルタの執行役E氏に聞く】
4章:これからの「強い開発組織」を考える
著者は、ソフトウエア・ファーストに必要なIT活用の「手の内化」で中心を担うエンジニアリング組織のあり方について、事業サイドと正しい連携の取れる組織でなければならないことを強調し、開発を外部委託する企業とソフトウエア・ファーストな企業との違いを図4-1に表しています。
図4-1:開発を外部委託する企業と、ソフトウェア・ファーストな企業の違い
5章:ソフトウエア・ファーストなキャリアを築くには
付録:モダンなプロダクト開発を行うための技術と手法
著者は、・・・ITやソフトウエアに詳しくない方・・・技術解説を「し過ぎない」ようにしました。・・・いくつかの技術知識が必要なのは事実・・・基礎的な技術・手法を纏めておきます、といい、クラウドでのアズ・ア・サービスとしてIaaS(Infrastructure as a Service)からSaaS(Software as a Service)まで比較表付きで解説している他、開発・運用手法の進化をイラスト付きで解説しています。
著者が、マイクロソフトやグーグルで学んだ方法論を日本企業に応用する知恵を開示した、実務家に必携の379頁の大著です。原書を手元に置かれることをお勧めします。
Ⅱ.「スケールフリーネットワーク」(島田太郎・尾原和啓著)の紹介
経営危機にあった東芝の、車谷社長による‟世界有数のサイバーフィジカル企業になる”というビジョンを掲げた改革と島田CDO(Chief Digital Officer)*1による‟ものづくり日本”の特徴を活かすDX(Digital Transformationデジタルによるビジネス革新)の可能性と東芝での推進について開示したビジネス書です。IT技術中心のものが多いDXものの中で、このビジネス書の実践的な内容に感心した筆者が(表面的だとのそしりを恐れず<DXの光>として)出来るだけ分り易く要点を紹介いたします。皆さんには、是非とも原書をお読み下さるようお勧めいたします。
*1; 次期社長「伝統ある会社でデジタルが分かる初めての社長」
GAFA(Google, Apple, Facebook, Amazon)はスケールフリーネットワークで世界の覇権を握った(日本とドイツは完敗)が、これは小売りと広告のサイバー分野(米国ではGDPの7%)だけの1回戦で、93%のサイバーとフィジカルを結び付けた(あらゆるものがネットでつながったIoT, Internet of Thingsの)分野が2回戦の舞台になるので、勝負はこれからだ、という話に共鳴して、車谷社長は、‟世界有数のサイバーフィジカル企業”というビジョンを掲げて(かつてアップルのジョブスがやったように)先ず不採算部門の整理を断行しました。そして、シーメンスでインダストリー4.0を推進していた島田氏をCDOに迎えました。
島田氏は先ず、インダストリー4.0の中核をなす“管理シェル”の公開されている仕様を使って自前の“管理シェル”を作ってその効用を確認しました。島田氏はまた、東芝の資産(人材)の豊富さと技術力の高さ*2に驚くと同時に、これをスケールフリーネットワーク化しよう...