【ものづくりの現場から】特注・一品生産の現場づくり(研創)

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ものづくりを現場視点で理解する「シリーズ『ものづくりの現場から』」では、現場の課題や課題解消に向けた現場の取り組みについて取材し、ものづくり発展に役立つ情報をお届けします。今回は金属サインのリーディングメーカーである株式会社研創にうかがいました。

◉この記事で分かる事

・特注品、一品生産に対応する製造現場づくりの事例

【企業紹介】

今回訪問した研創は、広島県広島市に所在する金属サインのリーディングカンパニーです。1908年(明治41年)にサイン製造業として創業した研創は現在に至るまでサインの企画、設計、製造、保守までを一貫して行っています。サイン製品は用途により特注され、オーダー毎に仕様が異なる事が多いのが特徴です。例えば建物用のサインは設置場所が新築であった場合、その工期と連動した製造が必要となる場合や、意匠と機能の両立が必要となります。そのような環境において生産性を確保し、持続的な事業に向けた取り組みを行っているものづくり企業です。

 

 

顧客のニーズに応える最新機器と熟練の技

1.製造品の特長

 

同社の製造物であるサイン(看板・銘板)は素材や加工方法、大きさなど様々な仕様があります。

上の写真はシンボルマーク、化粧文字、飾り文字の例で比較的小さなものになります。

 

建物に設置されるサインも数多く製造されており、これらは比較的大きなものに分類されます。

 

金属サインは平面でなく、立体(箱状)のものが多く特徴的な支持具や状況に応じた特殊な照明装置などを組み込むものも多くあります。従って、サイン製造には金属加工(金属サインの場合)、樹脂加工(樹脂サインの場合)、塗装、電機・電子などの多岐にわたる技術と顧客のニーズに応じた企画力、設計技術が必要となります。屋外の過酷な環境、容易に交換する事が困難な環境で使用される製品である事から高い品質が求められている事から、高い品質管理技術も必要になります。

 

(普段見る事のない金属サインの裏側。金属板が箱状に加工されておりロウ付けされているのが分かる)

 

これら高いレベルでの製造力、企画力を発揮し続けるために同社では、高性能な加工機器と熟練者の技を融合した現場作りに取り組んでいます。

 

2.現場

同社は一品生産・特注品も材料投入から出荷まで一貫したラインで生産しています。

(工場内から見た材料投入口)

 

金属サインを製造する際に最初に行われる工程が金属材料の切断です。この工程は高性能なレーザー加工機を複数台並列で稼働して行われています。オペレーター一人で安全に複数台を担当(多台持ち)できるよう十分なスペースが用意されています。以前はこのようなスペースを確保できていなかったとの事でしたが、現場観測と全員参加の現場改善により大型機器の移設、自動搬送機の廃止など逐次実施した事で製造能力の向上と省スペース化し、活用できるスペースの獲得ができたとの事です。

省スペース化により作業スペースにゆとりができた事は、作業の三ム(ムダ・ムラ・ムリ)の解消に役立っている印象でした。

 

(工場内での一コマ。同社工場は女性スタッフが多く働いている)

 

機械と人が協調したものづくりを行う同社の現場は、早くからFA(factory automation)に取り組んでいます。一例として大型レーザー加工機を導入したのは1982年(昭和57年)で、業界では日本で最初の導入でした。

(第二工場の写真。様々な加工機器が基本的に並列で稼働している)

 

早い時期から機械化、FA化に取り組んできた同社が更なる生産性向上のために現場で取り組んでいる事は、更なる機械化、スマート工場化だけではなく人材の育成、技術・技能伝承の取り組みでした。

 

3.技術・技能伝承の取り組み

(若手に指導する熟練者)

 

現場を観察すると、あらゆるセクションで若手の質問や先輩が指導する姿が目に入りました。話を聞くと若手といっても5年勤めている中堅の方。やり取りを聞くと、かなり高度な技能に関する内容です。

技術は頭で学ぶ、技能は五感で学ぶと表現されますが、人の手で行う作業の多くは技能に属するものです。技能は経験を通じてのみ獲得できるとの研究結果もあるほど実践が重要になります。しかし、スタッフに技能を身に着けてもらうには何年もかかるのではと心配になりますが、お聞きしたすべての方が「(技能の習得には)何年も必要です。」と当然のように答えが返ってきます。あきらめず、技能獲得に取り組むとともにさらに高い技能を生み出す事に取り組んでいる現場を見て同社の強さの根源が人であることを感じました。

(ボール盤を用いた加工。この工程では微細な加工をすべて人の手で行っている。疑問があればすぐ聞ける環境であることが印象的)

 

(ロウ付(はんだ付け)工程。4人1組(うち一名は熟練者)で作業を進める。気兼ねなく疑問を解消できる環境)

 

(磨き工程。すべて熟練者の手によって仕上げられる)

 

同社のユニークな取り組みに技能を習得するために製品ではないものづくりを実施する場が用意されている事が挙げられます。例えば磨き工程は熟練した技能を有するスタッフにしか任せる事ができません。

従って磨きの技能のトレーニングは製品製造以外の場で習得する必要があります。同社は技能伝承の課題解決に役立つ社内プログラムがあります。この社内プログラムでは実際にものを作る経験を通じて技能を磨く事ができ、毎年多くのスタッフが知恵を絞り、腕を振るっています。

以下に社員製作品の一部を紹介します。

 

■ショールームに飾ってある社員製作のギター

 

■社員製作の恐竜のオブジェ

 

■社員製作の金属兜

 

これらすべては社員が製作したものです。企画から設計、製造まで社員が行う事で五感を使った体験と自分なりのチャレンジを実践しています。技術・技能伝承に効果的で、持続的な事業に向けた取り組みであると言えるのではないでしょうか。

 

4.現場づくり、人づくりの基盤になっている「社是」

取材では製造現場をはじめ、企画、研究、設計、管理、営業それぞれの現場を訪問しましたが、すべての現場で当事者意識を高く持ったスタッフが生きいきと働いている事が印象的で、同社では現場づくりや人づくりの基盤として、スタッフの共通事項である社是が有効に機能していると感じました。同社が創業したのは明治41年。その後法人化した際に作られた社是は「常に学び 研究し 創造する」です。

(ショールームの掲示物 筆者撮影)

(ショールームの掲示物 筆者撮影)

 

社名である「研創」の由来(常に学び [研]究し [創]造する)ともなっている社是は、令和の現在も変わらず全スタッフに浸透しています。

常に学んで研究する事を現場で実践し、業界初の製品を生み出している同社は、社是が単なる掛け声ではなく機能していると言えます。機能する社是がものづくり現場を強くして事業の持続可能性を高める要素になっていると言えるのではないでしょうか。

この社是を基盤とした経営は現代で提唱されている経営ビジョンの重要性やパーパス経営につながるもので、SDGsが提唱される現代のものづくり企業に求められている、サスティナブルな経営を行う上で大きなヒントになると考えます。

 

5.まとめ

  • 特注品、一品生産に対応した現場(高性能機器と熟練の技が調和する現場)
  • 技術・技能伝承事例(高技能者を育てる環境づくり)
  • 現場づくり、人づくりの基盤になっている「社是」(全スタッフの仕事への意欲に大きく影響する)

 

当たり前の日常に、当たり前に存在する「サイン」。金属サインの製造現場は人が価値を生み出し、技術技能が継承され続けている現場でした。研創の取り組みは、業種・業態を超えてこれからのものづくり企業に参考になるケースであると思います。

今後も発展を続ける研創のものづくりから課題解決のヒントが届けられれば幸いです。

 

【インタビューにご協力いただいた方】

 株式会社研創 取締役 林誠二氏 

                         

【会社概要】

・社名 株式会社研創 ・住所 広島県広島市 ・創業 明治41年(1908年)9月 ・従業員数 299名

  HP  https://www.kensoh.co.jp/

 

 


この記事の著者

大岡 明

改善技術(トヨタ生産方式(TPS)/IE)とIT,先端技術(IoT,IoH,xR,AI)の現場活用を現場実践指導、社内研修で支援しています。

改善技術(トヨタ生産方式(TPS)/IE)とIT,先端技術(IoT,IoH,xR,AI)の現場活用を現場実践指導、社内研修で支援しています。


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