タイのクリーン化事例からの考察
2016-06-30
東南アジアの色々な工場に行きましたが、国民性に様々な違いを感じました。例えば、中国の工場を指導していた時、クリーン化担当の苦労を聞いてみると、中国はゴミを捨てる文化。親の躾も、ゴミはその場に捨てなさいとのこと。そのように育てられた人たちに、ゴミを拾いなさいと言う指導は難しいと良く言われました。
そのクリーン化担当は、日本に勉強に来て、長時間日本の文化、風土に接しているので、その良さは理解し、身に着けています。私の接した人たちは、主に蘇州、無錫の人たちでしたから、これを中国全土に当てはめてしまうのには無理があると思いますが、指導のない休日などに街中を歩いてみると頷ずける光景を目の当たりにしました。
大通りを外れたところのレストランなどでも、日中、店の前の歩道で野菜の皮をむいたりして、その場に捨てている風景をたくさん見ました。自分の店の前にも平気でゴミを捨てるんですね。結局歩道を歩く人もそこを避けて車道を歩くことになります。歩道の目的は何でしょう。
昔、中国では長く科挙(高級官吏の任用試験)という試験制度があり、非常に難しかったようです。ある時期は、朝鮮やベトナムなどでも実施されていた記録もあります。中国全土では、この蘇州、無錫などを中心とした江蘇省あたりが最も合格率が高かったと言われますが、そこでもこの状況ですから、全土を見て歩くとどうなんだろうかと思います。
また、新センに行った時にも、ビルの1階、2階に自社の工場があり、それよりも上は他社の工場でした。お昼になると窓の外を見ていて下さいと言うので、何だろうと思っていたところ、昼食が終わると、使い終わったトレーやゴミなどが上の階から降ってくるのです。昼になると工場の周囲に屋台が立ち、そこで昼食を調達し、あとは窓から捨てるというのが普通だそうです。
この工場では、全員で外に出て自社、他社の区別なくゴミ拾いをするようにしたところ、段々清掃が習慣になり、その苦労も教えたところ工場の周りも徐々に綺麗になった。もちろん他社も協力するようになったとのことです。
これらの事例からすると、ゴミをその場に捨てるというのは、中国の国民性のようにも思います。しかし、そうだと言い切れない事例もあります。昨年のNHKの番組で、世界一綺麗な空港、羽田空港。その清掃業者の方が紹介されたのをご覧になった方もいらっしゃると思います。中国、瀋陽出身の女性の清掃員の事例でした。
日本人よりもかなりレベルが高いと感じました。私も、しばらくして、羽田空港に行くことがあり、航空会社の地上係員の方に、その清掃員と会いたいが、と言ったところ、今日は公休日でということで、会うことはできませんでした。ただ、航空会社の方が、なぜ清掃会社の方の休日を知っているのか聞いたところ、TVの反響がすごく、会いたいという方がたくさん来ます。それで答えられるよう調べてあるとのことでした。
タイの工場指導に入っていた初めのころは、現場でモップを持っている人を良く見かけてびっくりしたものです。赴任者にこんなに多くの清掃業者を採用しているのか聞いたところ、そうではなく従業員とのことでした。タイでは、手が空いたら掃除をするというのが親の躾だそうで、作業者も手が空けば、指示を待つのではなく、自ら掃除をするのだそうです。
ただ、よく見るとモップの水をきちんと絞らずに床を拭いているので、濡れているところを多く見かけました。掃除をする文化はあるようなので、「水をきちんと絞らないと滑って転んで腰を打ったとか、頭を打ったということが起きます。きちんと絞ろう」という話をすると、良く聞いてくれて、その場から絞るようになります。
まず、清掃を褒めてから、やり方を見せました。清掃する躾、習慣はあるので、素直に聞いてくれ、その場でやって見せてくれました。この一連の指導の中で、山本五十六の「やって見せ、言って聞かせて、させて見せて、褒めてやらねば、人は動かじ」ということを思い出しました。タイでも通用すると実感しました。
タイは親日家が多く、私...
が陸上の試合でバンコクに滞在した時も、ウエアーの日の丸を見てニコニコしながら近寄ってきます。そして、私のバイクは日本製だなどと言うんですね。親日を肌で感じました。 このように掃除の文化があるところでは、なぜ、をきちんと説明すれば、直ぐ実行するようになり、理解も早いです。つまり聞く耳を持っているということです。そして工場も綺麗になります。
タイには、日本の工場も沢山進出していますが、その理由は、単にコストだけでなく、丁寧な仕事ぶりや上記のような文化、風土も評価して進出した企業もあるのだろうと思います。ベクトルを合わせやすいですね。
私も国内、海外の現場診断・指導に出かけるとき、事前にできるだけ、国民性や県民性、会社の風土などを調べて対応していましたが、現地に行かないとわからないことの方が多かったです。私がもし企業経営をしていて、海外進出を考えているとすれば、単にコストだけでなく、こういう文化・風土もきちんと調べて進出したいものだと考えます。