『坂の上の雲』に学ぶ先人の知恵(その9)

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 人的資源マネジメント 
 『坂の上の雲』は司馬遼太郎が残した多くの作品の中で、最もビジネス関係者が愛読しているものの一つでしょう。これには企業がビジネスと言う戦場で勝利をおさめる為のヒントが豊富に隠されています。『坂の上の雲』に学ぶマネジメント、今回は、先人の知恵、定石と応用 (その9)です。
 

1. 適材適所

 
 組織的活動のポイントは何でしょうか、あくまでも日本に限ったことですが、適材適所です。適材適所はごくありふれた言葉ですが、構成メンバーの得意技と役割の主要な要素と、この組み合わせがベストマッチになったときに一番の効果を発揮するのです。それを常に点検確認するのが組織運営のかなめです。組織は、一人では手薄になるところがありみんな万能というわけにはいかないでしょう。小中学生のときでも、算数、国語、理科、社会があれば得手不得手があるでしょう。組織というのは、私は理科だけやりますというのが許されるのです。だから、たくさん集まれば集まるほど、得手の人が集まる可能性があり、ばらつきのかたよりがなくなります。だから、組織的な効果が大きくなるのです。
 
 適材適所は、この役割に対しては、誰が一番向いているかであり、それを常に点検確認することが重要になります。これが狂うとお互いに不幸になるのです。自分が何に向いているかというのがわかって、それにつくと人生はハッピーになります。これは個人の人生についても同じです。
 

2. 改革では目標のレベルを一桁上げる

 
 改善と改革の差を一言で言えば、改善は少し工夫する程度、改革は根本から良くするから発想とやり方が改善とはまったく異なります。似たような話で、成長と発展の差があります。成長と発展というのは、まったく似て非なるものです。子供は1歳、2歳と成長して成人になります。これが成長です。ところが、発展はまったく違うのです。発展は、人間の場合は説明がしにくいでしょう。日本の社会は明治維新で、江戸時代から発展していますが、これを成長したとは言わないのです。士農工商がなくなって社会は完全に変わっています。
 

3. 改革を引き出すやり方

 
 成長と発展の違いを、妹尾堅一郎氏は、その著書『技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか』で次のように書いています。その考え方と表現はまさにわれわれが考えている思考と一致しており、しばしば引用させていただいています。動物で言うと、さなぎがチョウに変態するから我々は発展と言っています(生物学的な言いかたではなく)。オタマジャクシがカエルになるのも発展と言っています。growthではなく、developmentです。人類が最初にオタマジャクシとカエルを見たら別のものだと思うでしょう。ところが、同じものの変化、変態です。これを発展だと言うのです。
 
 このように、成長と発展、改善と改革は、差としては似ているような気がしますが、まったく違うものです。構造改革とか、財政の改革とか、産業構造の改革などと言いますが、中身は改革ではないことを言っているという気がするのです。改革することを考えているなら、目標のレベルを一桁上げて考えなければならないでしょう。
 
 そこで、日本海軍で見ると、そもそも元が何もなかったところから築き上げるので、海軍はほとんど改革の歴史になっています。たびたび引用する話題ですが、海戦で軍艦の大砲は当たらないもの、というのがあります。だから猛練習するのです。猛練習は改善の方向です。いま命中率が10パーセントだったものを20パーセントにしますと言えば、たしかに倍にはなりますが、10パーセントが20パーセントになるのは改善です。それだけでは、いくら打っても、下手な鉄砲かず打ちゃ当たる、で飛躍的な進歩はないのです。やり方を変えようとなれば、改革になるのです。
 
 やり方を変えて、全体の砲塔の照尺を統一する。つまり、独立射方というのはやめて、統一照尺による発射指揮に変えるというのが改革です。改革では目標のレベルを一桁上げるのは、できそうな範囲内で考える場合と、すぐにはできそうもない目標に挑戦する場合とを使い分けなければならないのです。別の言いかたでは、重たい負荷を掛けておいて、そんなものではまだダメだ、3倍ぐらいやらないとダメだと、わざわざ難しい目標を投げて改革を引き出すやり方もあります。
 
 ソニーのエンジニアの親分だったような元副社長の大曽根幸三さんは、「なんでも半分」が信条だったそうです。同氏がウォークマンに限らず、設計者には「なんでも半分」とゲキを飛ばしたそうです。ウォークマンは重さ半分、大きさ半分とどんどん小さくなり、最後はカセットテープの大きさになりました。何でも半分のやり方、考え方をしなければアイデアは生まれてこないのです。
 
 その反対に、よくないやり方は一律割り付け...
 人的資源マネジメント 
 『坂の上の雲』は司馬遼太郎が残した多くの作品の中で、最もビジネス関係者が愛読しているものの一つでしょう。これには企業がビジネスと言う戦場で勝利をおさめる為のヒントが豊富に隠されています。『坂の上の雲』に学ぶマネジメント、今回は、先人の知恵、定石と応用 (その9)です。
 

1. 適材適所

 
 組織的活動のポイントは何でしょうか、あくまでも日本に限ったことですが、適材適所です。適材適所はごくありふれた言葉ですが、構成メンバーの得意技と役割の主要な要素と、この組み合わせがベストマッチになったときに一番の効果を発揮するのです。それを常に点検確認するのが組織運営のかなめです。組織は、一人では手薄になるところがありみんな万能というわけにはいかないでしょう。小中学生のときでも、算数、国語、理科、社会があれば得手不得手があるでしょう。組織というのは、私は理科だけやりますというのが許されるのです。だから、たくさん集まれば集まるほど、得手の人が集まる可能性があり、ばらつきのかたよりがなくなります。だから、組織的な効果が大きくなるのです。
 
 適材適所は、この役割に対しては、誰が一番向いているかであり、それを常に点検確認することが重要になります。これが狂うとお互いに不幸になるのです。自分が何に向いているかというのがわかって、それにつくと人生はハッピーになります。これは個人の人生についても同じです。
 

2. 改革では目標のレベルを一桁上げる

 
 改善と改革の差を一言で言えば、改善は少し工夫する程度、改革は根本から良くするから発想とやり方が改善とはまったく異なります。似たような話で、成長と発展の差があります。成長と発展というのは、まったく似て非なるものです。子供は1歳、2歳と成長して成人になります。これが成長です。ところが、発展はまったく違うのです。発展は、人間の場合は説明がしにくいでしょう。日本の社会は明治維新で、江戸時代から発展していますが、これを成長したとは言わないのです。士農工商がなくなって社会は完全に変わっています。
 

3. 改革を引き出すやり方

 
 成長と発展の違いを、妹尾堅一郎氏は、その著書『技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか』で次のように書いています。その考え方と表現はまさにわれわれが考えている思考と一致しており、しばしば引用させていただいています。動物で言うと、さなぎがチョウに変態するから我々は発展と言っています(生物学的な言いかたではなく)。オタマジャクシがカエルになるのも発展と言っています。growthではなく、developmentです。人類が最初にオタマジャクシとカエルを見たら別のものだと思うでしょう。ところが、同じものの変化、変態です。これを発展だと言うのです。
 
 このように、成長と発展、改善と改革は、差としては似ているような気がしますが、まったく違うものです。構造改革とか、財政の改革とか、産業構造の改革などと言いますが、中身は改革ではないことを言っているという気がするのです。改革することを考えているなら、目標のレベルを一桁上げて考えなければならないでしょう。
 
 そこで、日本海軍で見ると、そもそも元が何もなかったところから築き上げるので、海軍はほとんど改革の歴史になっています。たびたび引用する話題ですが、海戦で軍艦の大砲は当たらないもの、というのがあります。だから猛練習するのです。猛練習は改善の方向です。いま命中率が10パーセントだったものを20パーセントにしますと言えば、たしかに倍にはなりますが、10パーセントが20パーセントになるのは改善です。それだけでは、いくら打っても、下手な鉄砲かず打ちゃ当たる、で飛躍的な進歩はないのです。やり方を変えようとなれば、改革になるのです。
 
 やり方を変えて、全体の砲塔の照尺を統一する。つまり、独立射方というのはやめて、統一照尺による発射指揮に変えるというのが改革です。改革では目標のレベルを一桁上げるのは、できそうな範囲内で考える場合と、すぐにはできそうもない目標に挑戦する場合とを使い分けなければならないのです。別の言いかたでは、重たい負荷を掛けておいて、そんなものではまだダメだ、3倍ぐらいやらないとダメだと、わざわざ難しい目標を投げて改革を引き出すやり方もあります。
 
 ソニーのエンジニアの親分だったような元副社長の大曽根幸三さんは、「なんでも半分」が信条だったそうです。同氏がウォークマンに限らず、設計者には「なんでも半分」とゲキを飛ばしたそうです。ウォークマンは重さ半分、大きさ半分とどんどん小さくなり、最後はカセットテープの大きさになりました。何でも半分のやり方、考え方をしなければアイデアは生まれてこないのです。
 
 その反対に、よくないやり方は一律割り付け方式です。あらゆる部署に、「はい、予算を◯◯%ずつ、ちょっと頑張って減らしてください」などと命じられることです。これは何も芸がないというか、知恵がないことを暴露しているようなものです。
 
 マネジメントが一律割り付けでは、予算の重点配分も何もできないでしょう。国の予算も各省庁ともに一律何パーセントカット。こういうことばかりでは、だまし合いになってしまうのです。どうせ何パーセントカットになるのだから、もともと水増しして、そのために必要ない資料作成という余計なことまでするのです。
 
 マネジメントする人は、常に組織の目的とミッションは何かという原点に戻らなければならないのです。芸も知恵も見せるのがマネジメントの基本です。
 
【出典】
 津曲公二 著「坂の上の雲」に学ぶ、勝てるマネジメント 総合法令出版株式会社発行
 筆者のご承諾により、抜粋を連載。
 
  

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この記事の著者

津曲 公二

技術者やスタッフが活き活きと輝きながら活動できる環境作りに貢献します。

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