◆ サイレントチェンジ多発の背景
2017年10月経産省・製品安全課から次のような文章が公開されました。「製造事業者は電気用品安全やRoHS規制等の対応のため、設計段階では使用部材や調達先について確認を行っていますが、家電等の製品のサプライチェーンが複雑化しており、生産が継続する中で、上流からのコスト削減要請や規制対応※を契機として発注者が気がつかないうちに、使用部材が切り替えられている事例 ※(サイレントチェンジ)が多発する危険があります。」
※RoHS規制対応のため難燃剤を臭素系からほかに切り替える等
これを受けて私が在職時にRoHS指令対応に取り組んだ経験から、この問題について別の側面から解説します。経産省・製品安全課の資料では、次のような事例が紹介されています。
・難燃剤を添加している製品において、臭素系→赤リンといった材料変更が行われ、耐水加工をしていない赤リンの場合、難燃特性を満たしていても、時間経過とともに空気中の湿気が赤リンと化学変化を起こして電導体となり、電極に含まれる銅が溶ける・析出することで、絶縁性能が低下、発火に至る場合がある。
一方、私は在職中にRoHS指令による鉛フリーハンダ(鉛を使用しないハンダ)対応に追われており、その時に経験した鉛フリーハンダに伴う2件の事例について紹介します。
1. 鉛フリーハンダの組み立て品に鉛が混入したケース
仕入れ先に鉛フリーハンダの組み立て品を発注したが、電子部品の接続部に鉛が混入したケースです。約10年前のRoHS規制対応当初は、組み立て品への鉛混入を防止すべく、蛍光分析装置等で受け入れ検査を実施していました。そこで、鉛混入品が発見されたのです。混入経路をたどっていくと、日系の中国工場で組み立てられたところで混入が判明しました。当時は(今も?)まだ、鉛入りハンダを使ってもいい製品と、使ってはいけない組み立て品が混在していたので、組み立てラインのところで、鉛の混入が起きたのです。
組み立てAラインとBラインが隣り合っていて、作業者が「鉛フリーハンダ」ラインに「鉛入りハンダ」を投入してしまい、このトラブルとなりました。対策として、作業者が「鉛フリーハンダ」と「鉛入りハンダ」の取り扱いを誤らない様に、フロアーを分けて管理することとなりました。Xフロアーは「鉛フリーハンダ」組み立てライン、Yフロアーは「鉛入りハンダ」組み立てラインとしたのです。当時は鉛入りハンダの混入を、納入時検査の水際で防いでいましたが、あれから10年、定常時に移行した現在、受け入れ検査も省略されている可能性があるため見逃しの危険性もあります。
2. 鉛フリーハンダ化に伴うウィスカ(錫の単結晶、猫のひげ)対応の事例
ウィスカは錫の単結晶で、猫のひげの様に見えるのでこのように呼ばれます。ウィスカは60年前にも電話交換機装置内での極間短絡事故や、宇宙船内で短絡による機器の誤動作を引き起こしています。鉛には錫の単結晶の成長を抑える働きがあり、錫と鉛の合金のハンダはハンダとしての性能に優れ、且つウィスカの生成が抑え込まれていたため、長く便利な接続部材として使われてきました。ところが、鉛が中毒症状を引き落とすことが明らかとなり、鉛不使用のハンダにおいてウィスカ問題が50年ぶりに再浮上したのです。
近年の電気、電子製品のコネクターの狭ピッチ化により、長さ0.2mm程度のウィスカでも、極間短絡による誤動作を引き起こすのです。この問題に対し、ハンダメーカー、ハンダを利用する電気、電子機器メーカー及びセットメーカーが解決に向け懸命に取り組んだにもかかわらず、ウィスカの成長を0.1mm以下にすることは困難を極めました。
ウィスカは、鉛フリーハンダメッキ部にかかる外力、内部応力によっても発生するため、鉛フリーハンダの...