【教育システムの設計:多能工・技能工人材の育成 連載目次】
前回のその7に続いて解説します。今回は、人材マップの作成方法についてです。
「人材マップ」とは、ある分野・領域において、どのような人材がいるのかを見える化して示した図のことを意味します。下の写真のように、例えば横軸を人材のリスト、縦軸を業務の種類としたマトリクスを作成し、業務のレベルを記入したものを「人材マップ」、または「スキルマップ」と呼びます。
新入社員がすぐにやめてしまう、やっと戦力になるまで育てたと思った矢先に辞表を渡された、など苦い経験を持っている管理者も多いと思います。社員の側からすると、「上司は何も教えてくれない」「仕事を工夫し改善もしているが、自分は正当に評価されていない」など、人事面の不満や不安を敏感に感ずるものです。
1.人材マップ作成の目的
一方で、工場においては、多品種少量生産、リードタイム短縮、品質向上などの要求が高まり、課題に的確に対応していく人材を育成していく必要があります。そのために、まず人材マネジメントの一環として作業者や管理監督者の構成や特性を「見える化」し把握するこが重要です。
そのひとつの手法として「人材マップ」を作成し、人材を、個人の経歴、能力・技能のスキル、特性など各社に合わせた分類方法で「見える化」し、採用・配置(ローテーション)・人材育成・人材活用の計画立案・実行に役立たせます。
製造業では、直接作業者と同様に間接スタッフの役割が重要です。市場を開拓するための営業技術スタッフ、生産管理スタッフ、品質保証、アフターサービススタッフなど、お客様に対して製品以外の付加価値を高めるサービスの提供が、他社との差別化の決め手となります。また、直接部門では、多品種少量生産に対応するため、多能工の育成が重要になってきます。このように、人材マップは、経営戦略実行上、必要な人材を確保、育成するための強力なツールです。
2.「求める人材」の見える化
そもそも戦略的に人材育成・活用を行うためには、企業にとって、将来必要になる人材が明確になっていなくてはなりません。どのような職種、専門分野の人材がそれぞれ何人必要になるのか、どのようなスキルや資格を持ち、どういう行動をとれる人が求められるのかを割り出すことが求められます。
3.「社員の現状」の見える化
2項に続いて、社員の現状を可視化します。求める人材像で定義した職種、専門分野に対し、それぞれどのレベルの社員が何人いるか、ということを把握します。1項で作成した「人材マップ」のフォーマットを埋めることにより、社内の人材分布が一目瞭然になります。
4.「人材ギャップ」の見える化
「求める人材像」と「社員の現状」が把握できれば、それらを引き算すると、人材ギャップが現われます。将来必要となる人材に対して、現状ではどの職種、専門分野で、どういう能力を持った人材が何人足りない、というように、人材ギャップが質と量の両面で明らかになります。
5.人材マップの活用法
「人材の見える化」をすることで、初めて人材戦略を立てるための材料が整いました。次は、いよいよその活用です。人材の見える化ができると、これまで感覚的に行っていた人材育成と人材活用を、よりシステマティックに改めることが可能となります。
まず、人材育成についてですが、人材ギャップを見ることで、将来必要になるスキルが明らかになり、組織として優先的に引き上げるべきスキルを特定し、教育などを集中的に実施します。従来は、人材ギャップが明らかになっていなかったため、階層別研修や専門別研修など、重要そうに思えるテーマの教育を一律的に行ってきました。また、人材の見える化を行えば、社員1人ひとりのレベルでの教育ニーズも明らかになるため、ムダのない、効率的な教育が行えるようになります。
次に、人材の見える化ができると、社内の人材分布が一目瞭然になります。どの職種、専門分野において、どのレベルの人材が何人いるのかがわかるため、人材配置を最適化する際に貴重な情報源となります。将...